35「三人でデートです?」②
城下町に足を運んだのは久しぶりだった。
「うわー、賑わっているなぁ」
王都に来た頃は、なにげなく空いた時間を利用して当てもなく歩いたこともあったが、どちらかというとウルを失い落ち込んでいた気分を紛らわすための散歩に近かった。
生活が落ち着くと、決闘などで王宮に顔を出したりすることが多く、城下町は通過するだけ。
「王都にはたくさん人が住んでいるもの」
「これでも今日は人がいないほう」
賑わう人たちとすれ違いながら、サムたちは歩く。
今日は馬車を使わず、自らの足で町を散策していた。
一般的な貴族は、商人が屋敷に来るか、御用達の店に馬車をつけるのが一般的だ。
しかし、リーゼも花蓮も、ときどき自分の足で城下町を歩くことが多いらしく、買い物も普通にするという。
「あそこの喫茶店は珈琲が美味しいのよ」
「あの屋台はお肉が絶品」
「へぇ、そうなんですね」
リーゼと花蓮は、いい意味で貴族らしくない。
身につけているものも、華々しさよりも、動きやすさを重視しているところや、気軽に城下町に買い物にくることなど、普通の女性という感じだ。
サムにとっては、そのほうが好ましいし、気遣わなくていいので接しやすい。
聞けば、アリシアとエリカも城下町に用事があるときは、馬車を使わないことのほうが多いようだ。
「サム! こっちに甘い氷菓子があるわよ!」
「ん。冷たいもの食べたい。最近暑くなった」
夏が近づきつつあることもあって、氷菓子の屋台が出ている。
サムが覗いてみると、前世の日本では縁日くらいじゃないとみかけなくなったかき氷が売られていた。
ちょっと違うのは、果実を凍らせたものを細かくして食べるようだ。そこに、果肉やソースをトッピングしていくらしい。
「席も空いているし、食べましょう」
「そうですね」
「やったー」
「じゃあ、俺が買ってきますね」
「あら、ありがとう」
女性ふたりを屋台の前のテーブルにつかせ、サムは屋台で苺とオレンジ、葡萄の三種類の氷菓子を買った。
店主から皿を受け取ると、リーゼたちの前に並べる。
「ありがとう」
「ありがと。いただきます」
サムが席につくと、女性ふたりがスプーンで氷菓子を食べ始める。
「んっ、美味しいわね」
「暑くなってきたら氷菓子に限る」
満足そうにするリーゼと花蓮にならい、サムも氷菓子を食べた。
冷たさと果実の甘さが口の中に広がり、実に心地いい。
体の熱が冷めていくようだ。
「サム、はい」
「え?」
「あーん」
「えっと」
リーゼがスプーンを笑顔でこちらに向けている。
「ほら、あーん」
「あ、あーん」
彼女のしたいことがわかったサムは、口を開けた。
にっこりと微笑んだリーゼから氷菓子を食べさせてもらう。
なんというか、気恥ずかしさを覚えるが、なかなかいいものだと思う。
遠くから嫉妬するような視線を向けられている気がしないでもないが、こんな美人をふたりも連れているのだ。嫉妬くらい甘んじて受けよう。
「じゃあ、お返しです。リーゼ様も、あーん」
「……される方だとちょっと恥ずかしいわね。あーん」
今度はサムがリーゼに食べさせてあげる番だ。
うっすら頬を染めたリーゼの整った唇が開くと、氷菓子を運ぶ。
「うん、美味しいわね。サムに食べさせてもらったからかしら」
「少し恥ずかしいですが、カップルっぽくていいですね。これ、頻繁にやりましょう」
「もう、サムったら」
(照れているリーゼ様もいいなぁ……ていうか、花蓮様は目の前で俺たちがいちゃついてもマイペースでしゃくしゃく食べ続けてるなぁ。逆にすごいわ。俺だったらイラッとしていただろうなぁ)
そんなことを考えながら、サムはリーゼとの甘いひと時を過ごした。
その間に、花蓮は氷菓子をおかわりしていた。
こんな穏やかな時間が続けばいいと思う。
王都に来てから慌ただしい日々だったことを思い返したサムは、ついそんなことを思った。
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