34「三人でデートです?」①
「サム! 城下町に買い物にいきましょう!」
身支度を整えたリーゼと花蓮が、サムの部屋に入ってきた。
床に魔導書を散らばらせていたサムは、彼女たちを見てぽかんと口を開けている。
「買い物、楽しみ」
「えっと、買い物ですか?」
剣聖雨宮蔵人を訪ねてから一週間が経っていた。
サムは、この一週間の間、リーゼと花蓮と訓練を続け、アリシアと子竜と遊び、ステラと文通し、ことみのために魔導書を見繕う日々を送っていた。
婚約者リーゼとの関係もいうまでもなく良好で、毎晩一緒に寝ている。
花蓮とは、なんとなくだが彼女の感情がわかるようになっていた。手合わせは相変わらず勝てないが、それでも回数を重ねていくのは、サムもなんだかんだ負けず嫌いだからだった。
ステラとも、関係は良好だ。もう婚約者として受け入れているものの、王女という立場ゆえ、どう接していいのかわからない。だから手紙でやり取りするのは気が楽でよかった。
彼女も同じなのか、手紙で近況や、一日にあったことをたくさん書いてくれている。気づけば、サムは彼女と手紙のやりとりをするのを楽しみにしていた。
「別に構いませんけど、なにかほしいものでもあるんですか?」
「そういうわけじゃないけど、たまにはお出かけしたいじゃない。それに、サムも行き詰まっているみたいだし」
「ときには息抜きも大事」
ステラには嫉妬したリーゼだったが、花蓮にはそのような素振りを見せず、この一週間で友人のようになっている。
婚約者じゃないおかげか、それとも手合わせをして打ち解けたのかわからないが、関係が良好のようでほっとしている。
「確かに、行き詰まってはいますね」
リーゼの指摘通りだった。
ことみの弟子入りが決まったので、まずは彼女がベッドの上でも読めるような魔導書を用意してあげたいと思ったのだが、これがなかなか満足できるものが見つからないのだ。
現在、手元にあるのは大陸中を旅していたときに集めていた魔導書ばかりで、初歩の魔法や初心者向けの内容ではなかった。
ジョナサンのツテを使って、何冊か魔導書を取り寄せてみたものの、退屈な内容ばかりだ。
これではことみもつまらないだろう、と思ってしまう。
いっそ自分でことみのために一冊書いてみようかなと考えて見たものの、サムは古今東西の気に入った魔法を集めごった煮状態なので、自分が参考にならないことをわかっている。
ウルがそうだったので、同じように育ってしまったが、あくまでも実戦形式で教わったことが多く、その結果が現在だ。
ことみには正統な魔法を学ぶところからはじめて欲しい。
とくに体を動かせないなら、尚さらだ。
国や地域によって、どんな魔法の流行もある。
スカイ王国では、魔法使いは体術や剣術などを使わず、あくまでも魔法の火力を重視するという流行があるらしい。
とくに攻撃魔法がいいようだ。
思い返せば、アルバート・フレイジュがまさにそんな感じだった。
サムやウルなどの魔法と体術の混合は、野蛮で魔法使いとしての品性がないと言う魔法使いもいるらしい。
ただ、ことみには剣術の才能もあるので、雨宮流剣術と魔法をそれぞれ習得して欲しいと思っている。
ただ、やはり学ぶなら正統な魔法から順番に覚えて行った方がいいと思うのだ。
「城下町には書店もいくつかあるわよ。書店を巡ればいい出会いがあるかもしれないわよ」
「それもそうですね」
「あとね、たまには外でデートしたいなって思ったの」
「リーゼ様」
頬を赤くしてそんなことを言ってくれる婚約者のかわいらしさに、サムの胸がときめく。
しかし、花蓮もいるのだ、厳密にはデートではないかもしれない。
そう思い、花蓮に視線を向けると、彼女はぐっ、と親指を立てた。
「……わたしは婚約者じゃないけど、今日は特別にデートしてあげてもいい」
「そりゃどうも」
なにが特別かわからないが、三人で出かけるというのも新鮮だ。
「じゃあ、さっそくいきましょうか」
「よかったわ! アイテムボックスを持っているサムが一緒じゃないとたくさん買い物ができないものね!」
「――って、荷物持ち要員で誘ったんですか!?」
「うふふ、冗談よ。さ、デートにいきましょう」
「おー」
リーゼに腕を組まれたサムは、城下町に向かうのだった。
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