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13「決意しました」②




「――っ、な、に」


 木刀の一撃を難なく受け止められてしまったマニオンが、絶句した顔をしてサムを見る。

 サムはそんな弟の視線を無視して、呆れた声を出した。


「あのさ、君もこの家の後継者になるって決まったんだから、家の中で木刀を振り回したらどうなるかくらい考えなよ」

「――黙れ! このっ、離せっ、どうしてっ、くっ、この!」


 サムの注意に耳を貸すことなく、マニオンは木刀を取り戻そうとするも、ぴくりとも動かない。


(これが剣の天才なの?)


 弟の実力を疑いたくなった。

 サムは、身体強化魔法を使っていない状態で、マニオンの一撃を容易く受け止めたのだ。

 しかも、今、弟はサムから剣を奪うことができず四苦八苦している。


(身体強化していないのにこれだぞ? それとも、九歳にしてはすごいってことなの? よくわからないな)


 自分に剣の才能が皆無なことは確認しているが、マニオンが剣の天才だということは確認したことがなかった。

 木刀があり、剣術の経験者ならひとつ年上の兄を殴打して意識不明にすることはできるだろうが、それだけで天才とはいわない。

 だが、実際、マニオンの剣を受け止めて戸惑いが生まれた。


 剣速が遅すぎる。

 余裕で、目で追うことができたので、つい手で掴んでしまった。

 木刀に対し、強化も何もしていない十歳の子供の手が、折れることもなく、わずかに痛むくらいだ。

 今だって、木刀を取り返そうとしているマニオンに、単純な力比べで勝っている。


(別に、この家の当主になりたいわけじゃないんだけど、この程度のマニオンと比べられて無能扱いか。本当に、剣しか重要視しないんだな)


 マニオンが天才かどうかは結局わからないが、少なくともまともに剣を振ることのできないサムよりはマシなのだろう。


(ま、いいか)


 サムにとって、マニオンが剣の天才であっても、そうでなくても大した違いはない。

 別に彼と比べられて劣っていると判断されたことも、悔しくもなんともなかった。


「いい加減に離せっ!」

「はいよ」


 痺れを切らせて怒鳴ったマニオンの要求通りに手を離すと、彼は勢い余って尻餅をついてしまう。


「あ、ごめんごめん」


 サムが手を伸ばすと、


「触るなっ!」


 手を払われてしまう。

 マニオンは射殺さんばかりにサムを睨みつけた。


(やれやれ、感情的だな。過激なところはあっても、やっぱり子供なんだね)


「このっ、少しくらい泣いていれば温情くらいかけてやったが、決めたぞ! お前はこの屋敷から出て行け!」

「は?」

「父上はお前のような役立たずをこの屋敷に置いてやろうとお考えだが、僕はそんなに甘くない! 使えない能無しは、この屋敷から、僕の屋敷から出て行け!」


 サムは弟の言葉に大きな衝撃を受けた。


(――そういえば、どうして俺は成人するまでこの家にいようって思ってたんだろう? よく考えたら、マニオンのいう通り、さっさと出て行けばよくない?)


 弟に家を出て行けと言われたことがショックだったのではない。

 なぜ、弟の言うようにさっさとこの家を出て行かなかったのかと、ショックを受けたのだ。


「うん。わかった」

「――な」

「明日には出ていくよ。じゃあ、支度があるから!」

「へ? へ?」


 唖然としてしまった弟を放置したサムは、心を踊らせて部屋に駆け足で戻る。

 タンスを勢いよく開けて、以前から準備していた最低限の私物が入ったバッグを取り出すと、


「よし! この家から出ていくぞ!」


 と、決意に震えるのだった。





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[一言] まにおんくんゆうしゅー
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