【王都ビンビン物語】激闘編⑩
「ロイグよ、そなたの訴えはこの兄がしかと受け取った」
「――兄上!」
「うむ。よきビンビ――」
「ええいっ、待て! ビンビン殿下!」
「むぐっ!? ぶ」
ロイグの助けを受け入れようとしたクライドの口を慌てたローガンとジョナサンが手を伸ばして封じた。
「お待ちください、殿下。さすがに、王族が公爵家のお家争いに口を出すのはどうかと」
ジョナサンが苦い顔をすると、ローガンも続けた。
「反発が起きる場合もあるのだから、もっと慎重になれ!」
クライドとロイグはこの国の王子だが、公爵家に介入するほどの力はない。
物理的にどうにかする力はあるのだが、それをしてしまうと貴族たちの反感を買うだろう。
「ぷはっ! ええい、離すのである! 私もそこまで愚かなビンビンではないのだ!」
「……ほう。ウォーカー、手を離そう。ただし、このビンビン殿下がおかしな行動を取ったらすぐに取り押さえるぞ。シナトラ、お前も準備しておけ」
「承知しました」
「了解だ、旦那」
「――揃いも揃ってひどいのである!」
ローガンとジョナサンはクライドの口から手を離したが、何か突発的に行動しようものなら取り押さえようと一定の距離をとっていた。
王子に対して不敬かもしれないが、他ならぬロバート・アイル・スカイ国王陛下から、クライドの暴走を止めるようにと「許可」をもらっているので遠慮はない。
「要はいつも通りのことである」
「兄上? どういうことですか?」
ロイグが不安そうな顔をする。
クライドが「いつも通り」と言うと、ビンビンしか浮かばないが、そこからどうすればジュラ公爵家に無事介入できるかどうか思いつかない。
「私たちは、モンスターを犯罪者を退治してきた。授業の一環であったり、小遣い稼ぎだったり、冒険者に憧れて真似事をしたこともあるのだ。今回も同じである!」
クライドと愉快な仲間たちは、立場上冒険者になることはできない。
そのため、学園の生徒として、モンスター討伐などを引き受けることがある。
冒険者ギルドを介すると、高額の報酬が発生する場合も、生徒の授業やアルバイトとして斡旋されると安くなるのだ。
学園側で、依頼は厳選されているが、クライドたちは例外的に難易度の高い依頼も受け、無事解決してきた実績がある。
だが、さすがに貴族の揉め事に、しかも公爵家の問題に首を突っ込んだことはない。
実際、ローガンの家であるイグナーツ公爵家と王家は少し溝ができてしまっている。
両者がどうこうではなく、ローガンを王にと考える者がいるからだ。
しかし、クライドたちはローガンを推す貴族に対し、何かしたことはない。気にしないとばかりに交友関係を続けているだけだ。
そして、先ほどローガン自らが決着をつけてきたという。
イグナーツ公爵家の問題に首を突っ込まなかったクライドたちが、どうやってジュラ公爵家に介入するのか。
緊急性はあるかもしれないが、限度がある。
ロイグが期待と不安を混ぜた目を向けて兄の言葉を待った。
「――キャサリン。以前、頼んだものはできているのであるか?」
クライドがキャサリンに問うと、彼女はスカートを華麗に翻し、恭しく礼をした。
「もちろんですわぁ! このキャサリン・ジョンストン! 今のお姉さんにできる最高の品を用意させていただきました!」
「うむ! 良きビンビンである! ならば、出動だ!」
クライドが瞳を輝かせ制服の上着を脱ぎ、投げた。
――ロイグ、ローガン、ジョナサン、デライトはめちゃくちゃ嫌な予感がした。




