43「赤金茜は戦います」②
「好みの女の子だったから、攻略しようと思ったのに……面倒臭い奴」
「――な」
作り物とわかっていたが、穏やかな笑みを浮かべていた篤志が一変し、茜は驚いた。
こうなることは予想しなかったわけではないが、こうも豹変するとは思わなかったのだ。
「こんな国で、不衛生な女を相手にしたくないから同じ日本人のお前を俺の女にしてやろうと思ったのに……調子乗るなよ?」
篤志が怒りを浮かべると同時に、茜の腕を掴んだ。
「ちょっと、痛い!」
「うるさいな、折られたくなければ静かにしろ。……まったくさ、君とならうまくやっていけると思ったのに。僕を批判するなんて……許せないよ」
「人殺しが許されるはずがないでしょう!」
「そういうことはいいんだよ! こんな異世界で法律もなにもないだろう! 僕の力があれば、仮に僕を捕らえようとする誰かがきても返り討ちだよ!」
「そうじゃない! そうじゃない! 人を殺すことがどうなのって言ってるの!」
「だからさ、僕の権利なんだって」
「殺された人にも生きる権利はあったでしょう!」
「でもさ、君が嫌うような奴だったよ? 奴隷をいじめて喜んでいるただの馬鹿だったし」
「だからって」
「あのさ……僕って頭が悪い女は嫌いなんだよね。今の状況わかってる?」
篤志の腕の力が増す。
茜の腕に痛みが走るが、奥歯を噛んで耐えた。
「君のすべきことは、僕が不機嫌にならないように謝罪することだよ。僕がいなければ、どうやってこの国から出ていくのさ? この国の外で僕以外の誰が守ってくれるのさ?」
「――あんたなんかに守ってもらわなくてもいい!」
「へぇ」
篤志の目が鋭くなる。
無表情だった顔にいやらしい笑みが浮かぶ。
「もう、面倒臭い。僕に歯向かうのなら、好きにさせてもらうけどいいよね?」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
茜はそう言い放ち、先手必勝とばかりに篤志の股間を蹴り上げた。
「――づあ!?」
篤志もまさか、いきなり股間を蹴られるとは予想していなかったのだろう。
変な声を出して、その場にうずくまる。
掴まれていた茜の腕が解放される。
「……お、おま、え」
股間を押さえて怒りの形相を浮かべた篤志の顔を、茜は思い切り蹴り飛ばした。
階段を背中から転がっていく篤志を最後まで見送ることなく、茜は走り出した。
「――私は戦うんだ!」
篤志に守ってほしいとは思ったことはない。
彼のような人間が誰かを殺す理由に使われるのはごめんだ。
だから、茜は戦うことを決めた。
「――あいつを倒して、スレイマン様を見つけて、グレゴリー様を解放してやるんだ! 私は、この世界でちゃんと立って、ちゃんと生きるんだ!」
――赤金茜は覚悟を決めた。




