間話「祭りの予感です」
寒い日のイグナーツ公爵家。
「ふう。寒い日は、紅茶に限るね」
ギュンター・イグナーツは優雅にアフタヌーンティーを楽しみながら、読書をしていた。
読書、と言ってもイグナーツ公爵家が運営する劇場で演じられる劇の脚本だ。
今回は、愛の女神エヴァンジェリンの物語を劇として披露するつもりだ。
――無論、許可などとっていない。
「ふふふ、エヴァンジェリン様の慕われ具合は脚本を読めばよくわかるね」
ギュンターの元には、スカイ王国中の脚本家が脚本を送り届けてきた。
役者や貴族からも、渾身の一筆が送られてきている。
それだけ、愛の女神エヴァンジェリン・アラヒーは人気なのだ。
「モンド・ムンドくんの脚本は素晴らしいが……惜しいかな。スカイ王国らしさが足りない」
モンドの脚本はエヴァンジェリンの素晴らしさが存分に盛り込まれていたが、スカイ王国の民が好みそうな展開が少なかった。
無論、それを抜きにしても素晴らしい内容だが、もう一工夫ほしい。
「モンドくんは最終選考に残すとしよう。さて、次の脚本は……」
ギュンターが次の脚本に手を伸ばそうとすると、クリー・イグナーツが部屋に現れた。
「あらあら、まあまあ、精が出ますわね」
「クリーママかい。ふふふ、今回は僕も張り切っているからね。ところで、なぜ大量の手紙を台車に乗せているのかな? ――っ、まさかサムからのラブレター!? ぎゅんぎゅん大絶頂!」
「それはねーですわ!」
「ぎゅんぎゅんしょんぼり」
一度は立ち上がったギュンターだったが、サムからの愛の言葉ではないと知り、しょんぼりと椅子に戻ってしまった。
「…………それで、その文字が書かれただけのゴミは何かな?」
「せめてお手紙と言ってくださいませ。なぜわざわざ言いづらくするのですか?」
やれやれ、とクリーは肩を竦める。
相変わらず、興味のない人間以外にはとことん淡白な方だと思う。
そんなギュンターであっても、この手紙の束は無視できまいとクリーは知っていた。
「これらの手紙はすべてぎゅんぎゅん様宛です」
「僕に?」
「はい。王宮、貴族、民たちからです」
「おや? よくわからないのだが」
「――第一回男体化祭りの開催を希望する旨が記されておりますわ!」
ギュンターは手にしていた脚本を落としてしまった。
「ま、まだ女体化祭りから一年も経っていないのだが?」
「もちろん、存じております。しかし、入念な準備が必要と判断されているのです」
「な、なぜかな?」
「女体化祭りは、サム様のお誕生日を祝うことも兼ねておりましたが、急拵えだったこともあり粗がありました」
「そ、それは認めよう」
エヴァンジェリンの呪いの力をもっと早く知っていれば、ギュンターも綿密に女体化祭りを計画しただろう。
だが、時間が足りなかった。
遠藤友也の抵抗、サムへのサプライズをすべてイベントとして、すべてを終えて賢者タイムになったギュンターは、自ら手がけた女体化祭りの反省点をきちんと見極めていた。
「そこで、男体化祭りではぎゅんぎゅんさまおひとりにご計画していただくのではなく、有志を募り一致団結して行いたいとおもっておりますわ!」
「ま、まさか」
「もちろん、このわたくしも僭越ながらお手伝いできれば、と」
「ひぇっ」
ギュンターは身震いした。
――えらいこっちゃ、と。




