39「ウルが動き出すようです」
ウルリーケ・シャイト・ウォーカーは、苛立っていた。
サムたちが自分を置いて「スノーデン王国滅ぼしツアー」に行ってしまったことに、かなりご立腹だ。
トラブルメーカーのサムのことだ。
愛の伝道師にして預言者であるクリー・イグナーツの言葉通り、遠藤友也がラッキースケベして、トラブルを起こし、スノーデン王国の勇者と戦うことになるだろう。
サムが負けるとは思ってない。
ウルにとっては十年以上ぶりであるが、サムにとっては数ヶ月の時間しか流れていない。だが、サムは強くなっている。
師匠として誇らしく、同じ戦闘者として戦いたい。
しかし、サムはこれからだ。
ウルが別世界で研鑽を積み、かつての全盛期以上の力を得たように、サムももっと強くなるだろう。
その時には、全力で戦いたい。
「ま、それはそれとして……サムたちだけが勇者と戦うなんて羨ましいじゃないか!」
ただスノーデン王国に行く術がない。
飛んでいってもいいが、寒いのが苦手なので冬の空を飛びたくない。
障壁を張るとか、ギュンターに結界を張らせるとかいろいろあるが、サムたちのように転移でさくっと移動したいのが本音だった。
というわけで、ウルは食堂でやけ食いしていた。
「やっぱり寒い日はしっかり食べて、お風呂で暖まって、のんびり寝るのが一番だ。食べ終わったら、メルシーたちとお風呂で遊んでやるか」
アップルパイをホールで食べていると、食堂にカルミナ・イーラが現れた。
「あれ、ウルさんじゃないっすか」
「カル……いや、カルミナだったな」
「カルでいいっすよ。今更、昔の名前で呼ばれてもくすぐったいっす」
「そうか。カルと会うのは久しぶりか?」
カルは、ウルの隣に座る。
メイドが食事をお茶と胡桃のタルトをカルの前に置く。
「どうもっす」
メイドにお礼を言い、お茶を飲んだカルは一息ついた。
「いやー、自分もそろそろ引退かなーって思って仕事の引き継ぎなんかをしていたんすよ」
「そうなのか?」
「そうっすよ。白雪さんと一緒に日比谷綾音復活阻止をずっと水面下で動いていましたけど、どちらかって言うと過去はさておき現代ではアルフレッド・ポーンの方が悪党でしたからね。復活した日比谷綾音は……あれです」
「あー」
女神日比谷綾音は、復活時こそサムたちと敵対したが、ウルによって死の一歩手前まで追い詰められた。
だが、メイ・リー・リーによって保護されると神聖ディザイア国で力を取り戻すまで隠れていようとしたが、スノーデン王国に召喚された勇者によって命を狙われ、命からがらスカイ王国に辿り着き、クライド・アイル・スカイ国王陛下の鶴の一声によって保護されることとなった。
綾音の妹である白雪は、姉が力を取り戻そうと悪事を働くと見張っているようだが、当の本人はシスター見習い生活を満喫している。
仮にも女神がシスター見習いでいいのか、とツッコミたいところはあるが、本人がちゃんと仕事をしているのならいいのだろうと思う。
「ま、そんなわけで自分ももうすることはないかなーって」
「長い間お疲れさん、でいいのか?」
「良いんです! あとはサムさんと結婚して、幸せな日々を送るだけっす!」
「……お前もか」
「そりゃそうっすよ! めっちゃ好みなんですもん!」
「わかるけどさ。――そういえば、カル……お前は転移使えたよな?」
「もちろんっすよ。以前も、サムさんの領地に飲みに行ったじゃないっすか」
ウルはにやり、と笑った。
「ちょっと出かけないか?」
「おっ、また飲みに行くっすか? ゾーイさんと竜王さん誘って、あ、白雪さんも誘ってあげましょうっす。ストレスたまってそうですし」
「いいや、飲み会は次回だ!」
「えー? じゃあ、どこに?」
「スノーデン王国に行こうぜ!」




