35「赤金茜は探します」②
茜は、目の前で簡単に人が死んだことにショックを受けてしまった。
視界の端では、ちぎられた腕を無事な腕で抱き寄せて絶叫を続けているメイドがいた。
「ごめんね、ちょっとうるさいよね」
篤志は、茜の無言をどう受け取ったのか、見当違いの謝罪をした。
「え……そうじゃ」
「すぐに静かにさせるから待っていてね」
「ちが」
茜の声など聞かず、叫び続け、血を流すメイドに近づく。
「お前、うるさいんだよ」
「ひっ、やめ」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたメイドの懇願を無視して、篤志は彼女の顔面を蹴り飛ばした。
床に倒れ、悲鳴さえ上げられなくなったメイドに、繰り返し蹴りを入れた。
殺す気はないのだろう。加減はしているようだ。
だが、すぐにメイドが死にこそせずとも、気を失ったことに気づくと、飽きたように茜の元に戻ってきた。
「ごめんね、ようやく静かになったね。じゃあ、話の続きをしようか」
「な、なんで?」
「え?」
「なんでこんなことしたの!?」
茜の叫びが響く。
幸にして、誰にも声が届かなかったようだ。いや、声が誰かに届いて人が来た方がよかったのかもしれない。
「急に怖い思いをしたらかびっくりしているんだよね?」
「そ、そうじゃなくて」
「そこに転がっているメイドは、君を嫌っていたらしいよ。なんでも、王宮を我が物顔で闊歩している姿が気にいらないんだって。杏さんって、あまり外に出ないのに、なんなんだろうね? そんなくだらない理由で騎士をけしかけたんだよ。ああ、このクズは立場の弱い女性に、時には少年少女にも手をあげたり、辱めをしたりすることを趣味にした男らしいよ。死んで当然だよね」
名も知らぬメイドに嫌われていたことも驚きだが、篤志が彼女のこと、騎士のことを調べ上げていたことにも驚きを隠せない。
「あ、お礼は言わなくていいからね。雑魚を排除しただけで、恩着せがましいと思われたくないんだ」
少し照れたように頬をかく篤志に茜は恐怖を覚えた。
先日、話をした時とはまるで別人だ。
何よりも、これほど簡単に人を殺せる人間とは思っていなかった。
助けてもらったことは間違いないが、目の前で首が落ちる光景は一生忘れられそうもない。
「助けて、くれて……ありがとう」
「ははは、どういたしまして。でもお礼なんていいって」
「け、謙遜なんてしなくていいよ。あのね、驚いちゃったんだけど、そんなに強かったの?」
恐怖に身体が震えるが、篤志がいい気分ならばそれに乗ることで情報を得ようと思った。
それに、彼が気が変わって茜にその力を振るわない確証もない。
茜は、自らの恐怖と猜疑心を隠して笑顔を浮かべた。
「この力? ほら、前に僕以外の勇者が死ぬと僕が強くなるって言ったよね?」
「……うん」
「二人死んだだけ、僕の力はかなり増したんだ。その時は気にしていなかったんだけど……モンスター討伐に駆り出された時に、想像以上に強くなっていてね」
その時のことを思い出したのか、篤志はうっとりした目をしていた。
「羨望の眼差し、恐怖の目、なによりも嫉妬の視線が最高だったよ。正直、癖になるよね」
「あ、篤志くん?」
「ごめんごめん。冗談さ」
茜には冗談には聞こえなかった。
「だからさ、他にも勇者が死んだら僕にどれだけ力が与えられるのか気になって……」
「まさか」
「モンスターの攻撃中に背後から殺してみたんだ」
「――っ」
「そうしたら、また力が跳ね上がったんだよ!」
おもちゃを手に入れたように、無邪気に楽しそうにしている篤志の言動に、茜はぞっとした。




