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17「花蓮様とお見合いです」①




 お見合い当日がやってきた。

 朝から憂鬱なサムは、婚約者のリーゼの笑顔に見送られてジョナサンと一緒に、王都にあるレストランに足を運んでいた。

 ジョナサンが同行しているのは父親代わりとしてだ。

 婚約者の父であり、もともと息子同然にかわいがってもらっているので、適役だった。


 彼は頼まれるまでもなく同行してくれるつもりだった。

 それもそのはず、サムは娘リーゼの婚約者だ。つまり、ウォーカー伯爵家の大事な家族なのだ。

 サムが婿に入るのか、リーゼが嫁にくるのかまではわからないが、家族であることは変わらない。


 最愛の婚約者は、本日は「私がサムのお見合いについていっても変だものね」と言って、お留守番だ。

 サムとしては、リーゼを連れていって「この人と婚約しているのでごめんなさい」とはっきり断りたいのだが、そんなことをしたら大問題になる。


 断るにしても、しっかりお見合いをし、相手に恥をかかせないようにしなければいけないのだ。


「はあ、お腹が痛くなってきました」

「ははは、サム、奇遇だな。私もだよ」


 ジョナサンと一緒に胃のあたりを押さえながら、レストランの中に入っていく。

 レストラン『ジューラ』は、王都の一等地に建てられた貴族に人気な店だ。

 いつも予約がいっぱいで、爵位の高い貴族でも予約なしでは入れないらしい。

 噂では王族も通っているという。


 そんな貴族御用達のレストランの店内は落ち着きのあるシンプルなものだった。

 しかし、金がかかっているのはサムでもすぐにわかる。

 テーブルや椅子はもちろん、飾られている絵画や花瓶も相当値が張るはずだ。

 庶民派のサムには少々居心地の悪い空間だった。


(……こんな雰囲気のお店なんて前世でもいったことがないよ)


 日本で生活していた頃は、友人とファミレスや居酒屋だ。イタリアンレストランなどにも足を運んだことはあるが、そこは知り合いが経営していたので敷居は低かった。

 一度だけ、お洒落なバーにも連れていってもらったこともあるが、それでも親しみやすい場所だった。


 そんなサムだから、どうもこの店の雰囲気に萎縮してしまうのだ。

 しかも、これから待っているのはお見合いだ。

 胃の痛みが増した気がした。


「お待ちしておりました。ジョナサン・ウォーカー伯爵様、サミュエル・シャイト宮廷魔法使い様。わたくしは総支配人のトーマス・ジュラと申します」


 サムたちを出迎えたのは、クラシックなスーツに身を包んだ、男性だった。

 総支配人を名乗るトーマス・ジュラは、柔和な笑みを浮かべた白髪まじりの五十代だった。彼は、サムたちに丁寧にお辞儀をした。

 サムも慌てて頭を下げる。


「本日は、紫伯爵家とウォーカー伯爵家のお見合いの場に、当店を選んでくださったこと心より御礼申し上げます。すでに紫・木蓮様と花蓮様はお部屋でお待ちしておりますので、ご案内いします」


 総支配人に案内され、奥にある一室へ向かう。

 そろそろ昼ごろだというのに客がひとりもいないことを不思議に思うサムに気づいたのか、トーマスは「本日は貸し切りです」と告げた。

 まさか貴族御用達の人気店を貸し切りにするなんて、と絶句してしまう。

 ジョナサンに知っていたかと様子を伺うと、彼は青い顔をして首を横に振った。

 どうやら木蓮の手筈らしい。


「……木蓮殿は本気でサムと孫娘殿を結婚させるつもりなのだろうな」


 ジョナサンの呟きに、サムは頭痛を覚えた。

 サムだって、木蓮が本気であることに気づいている。


(リーゼ様がいるのに見合いなんてって思うのは変わらないけど、ここまでされておきながらいきなり断るなんて失礼はできないか……俺は貴族どうこうはわからないけど、とりあえず木蓮様に恥をかかせないようにしよう)


 総支配人が部屋の前で止まり、扉を軽くノックする。


「ジョナサン・ウォーカー伯爵様、サミュエル・シャイト宮廷魔法使い様が御到着されました」


 トーマスが扉を開けた。

 室内には笑顔で紅茶を飲む木蓮の姿と、サムよりも少し年上の女性が感情の薄い顔をして待っていた。


「お待ちしていました、ジョナサン殿、サミュエル殿」

「これはこれは木蓮殿。お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いいえ、こちらが早くきてしまっただけです。さ、お座りになってください」


 総支配人が椅子を引いてくれたので、サムたちが着席する。

 すると、サムの対面に座る女性からじぃっと視線が向けられた。

 その間に、トーマスが礼をして部屋から去っていく。


「さっそくですが、私の孫娘を紹介させていただきますね。こちらが孫娘の花蓮です。さ、ご挨拶なさい」

「――紫・花蓮。最初に言っておくけど、このお見合いは乗り気じゃない」


 そうはっきり言ったのは、白い民族衣装――前世でいうチャイナドレスに似た衣服を身に纏う、ボリュームのある桃色の髪をポニーテールに纏めた女性――花蓮だった。

 どこか無感情に見えるが、つまらなそうにしているのだけはわかった。

 おそらく感情が表に出ない人なのだろう。

 よく笑顔を見せてくれるリーゼとは正反対だと思う。

 しかし、リーゼに負けないくらいの美人だった。


「まったく、あれだけ余計なことを言うなと釘を刺しておいたのに」


 孫娘の言葉に、木蓮は大きくため息をつき、ジョナサンは胃のあたりを押さえ、サムは、


(あれ? もしかしたらお見合い以上に進まないんじゃないかな?)


 ちょっとだけ、気が楽になった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 縁談は破談しそうで、サムくんは喜ぶが、 しかし運命という歯車が、 サムくんの思惑を 思いっきり外すことになるでしょう。
[一言] 向こうからのごり押し見合いなのに拒絶感満載……
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