12「リーゼ様が嫉妬してくれました」②
(しまった……言葉を間違えたっ!)
「い、いえ、違います! 美人だけど、リーゼ様ほどじゃないですけどね!」
「……ま、いいわ。サムの慌てた顔が見られたから許してあげる」
「よかった。ありがとうございます」
お許しをもらえてほっとしたサムに、リーゼは再びステラの話題を振る。
「ステラ様だけど、敵対派閥と結婚させてもいい扱いをされるとは思わないし、そもそも欲望をぶつけられるだけの存在になってしまうのはもってのほかよ。なら、安全なところに嫁に出したいと思うのは、親ならごく自然の考えだわ」
「それで、俺っていうのがよくわからないんですけど」
ステラを悪く扱うつもりなど毛頭ないが、いまいち自分が国王のお眼鏡に叶った理由がわからない。
そんなサムに、リーゼが苦笑した。
「サムは結婚相手として優良物件なのよ?」
「自分じゃよくわかりません」
「ふふ、そうね。まず、サムはウォーカー伯爵家の預かりになっているでしょう」
「ええ、まあ、お世話になっていてばかりで申し訳ないです」
「国王陛下からしてみたら、父の目や、私という存在があるから安心できるのがひとつなのよね」
同じ派閥の腹心の家なら安心ができるという。
またステラとリーゼは幼い頃から知り合いなので、悪く扱われないだろうとも思われているらしい。
ジョナサンとリーゼのことを知る国王だからこそ、ふたりと密接に関係するサムを娘の相手にと思ったそうだ。
「それと、サムを王家とこの国に縛りたいのよ」
「縛るって、なんだか嫌な言い方ですね」
「仕方がないわ。あなたは宮廷魔法使いであると同時に、王国最強の魔法使いよ。つまりこの国の最大戦力と言ってもいいの。そんなあなたを国につなぎ留め、王家との関わりを深くするのなら結婚が一番手っ取り早いでしょう?」
「そりゃそうなんですけど」
「ちなみに、ウル姉様とセドリック殿下の結婚の話もあったそうよ」
セドリックは、第一王子であり、この国の後継者だ。
そんな相手とウルに結婚の話が出ていたことに、サムは少なからず驚きを覚えた。
だが、同時に、ウルほどの魔法使いなら、王妃として価値があると思った。
まず自分の身を守れるし、夫の安全だって保証されるようなものだ。これほど心強い王妃はいないだろう。
「ウルの反応はどうでしたか?」
サムの問いかけに、リーゼは思い出したように笑った。
「好みじゃないと切り捨てたわ。しかも、陛下と殿下の前でね。父は胃を押さえて蹲ってしまったらしいわよ」
あまりにもウルらしい断り方に、サムもつられて苦笑いした。
同時に、ジョナサンの苦労にも頭が下がる。
かつては娘が、現在は自分が、彼に迷惑をかけていることに反省する。
とはいえ、サムが望んでジョナサンの胃に負担をかけているわけではないのだが。
「ついでに言うと、ギュンターが子供みたいに駄々をこねたらしいわ」
「あ、それは予想していました」
あのウルのストーカーが黙って結婚させるはずがない。
外見だけなら少女漫画の王子様のようなギュンターが、駄々をこねて暴れる光景はちょっと見てみたかった気がする。
きっとウルは嘆息したあとに、奴を蹴り飛ばすくらいはしただろう。
「そんなこともあったから姉様と殿下のお話は流れてしまったわ。だからこそ、今回は多少強引でも進めたかったんでしょうね」
「参りましたよ。俺にはリーゼ様だけでいいんですけど」
「もうっ、サムったら! あまり喜ばせないで! ――でもね、断ったら駄目よ」
「え?」
まるで自分の心情を覗いたかのように注意を口にしたリーゼに、心臓が跳ねた。
実を言うと、リーゼのためにも断るほうがいいんじゃないかと考えていたのだ。
ステラ王女に気に入っていただけたのは光栄だが、ふたりの女性を愛し、結婚生活を送ることができるほど器用ではない。
そもそも前世では恋愛経験もなく、結婚というものがどんなものか想像さえできずにいた。
リーゼとこうしていちゃいちゃできることすら奇跡に近い。
だが、断っては駄目だとリーゼは続ける。
「ステラ様が大変だったのは私も知っているわ。王宮に居ては、せっかく訪れた変化が台無しになってしまう可能性があるもの。それではあまりにも不憫よ。同情というわけではないけど、私たちで居場所を作ってあげましょう」
「いいんですか?」
「正直言うとね、面白くないわ。不思議ね、一度はサムのことを諦めてしまおうと覚悟したのに、結ばれてからは嫉妬心を抱いてしまうなんて」
「俺はリーゼ様が嫉妬してくれて嬉しいです」
「ふふふ、じゃあ堂々と嫉妬するわね。でもね、サムは後継者を残さなければならないし、あなたを支えてくれる人は何人いても困らないわ」
嫉妬はするが、容認できる、というリーゼはやはり貴族の娘だった。
彼女の覚悟と、自身ではなくサムを第一に考えてくれることに頭が下がる。
それに、口には出さないが、なんだかんだステラのことを放っておけないのだろう。
一度、結婚し不幸になったリーゼだからこそ、望まない結婚や、結婚したら不幸になる結末が待っているかもしれないステラを見てみぬふりはできないのだと思う。
「てっきりふたり目は花蓮様になるかもしれないと思っていたけど、まさかステラ様がくるとは予想外だったわね。でも、いい結婚よ。王家と繋がりができるのは、サムにとってもいいことよ。それに、ステラ様なら正室にふさわしいわ」
突然、そんなことを言い出したリーゼに、サムは首を傾げる。
「なにを言っているんですか?」
「え?」
「俺の正室はリーゼ様です。一番はリーゼ様なんです。それだけは絶対に変わりません」
「――サム」
驚いた顔をするリーゼと視線が合う。
彼女の瞳は、涙で潤んでいた。
「じゃあ、私がいちばんだって教えてくれる?」
彼女の腕がサムを抱きしめる。
「たっぷり教えてあげますよ」
「嫉妬した私にお仕置きしてね」
「いいえ、かわいい嫉妬をしてくれたのでご褒美をあげちゃいます」
「ふふ」
「あはは」
サムとリーゼは楽しそうにわらった。
自然とふたりの距離は近づき、唇を求めるように奪い合う。
飽きることなくキスを繰り返しながら、サムはリーゼの身体をベッドに押し倒した。
そのまま愛を確かめるように、強くお互いを求めあったのだった。
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