60「ゾーイさんが引きこもりました」②
朝食を食べ終えたサムは、メイドに頼んでゾーイの朝食を用意してもらうと、トレイに皿を乗せて彼女の部屋に向かった。
ゾーイが間借りしている部屋はレプシー一家と近い。
レプシーとアイリーン、デイジーならゾーイを元気付けてくれたのかもしれないが、ジョナサンと話をしているのであれば、無理に頼めない。
サムはゾーイと出会ってからずっと世話になっているし、何よりも同じく魔法少女にジョブチェンジしてしまった関係なので、腹を割って話せるだろう。
「あのー、ゾーイさん?」
ゾーイの部屋の前に立ったサムではあるが、いつもなら普通の部屋のはずなのに、どことなくどんよりとした雰囲気が中から伝わってくる。
ちょっと逃げたくなったが、せっかくゾーイの好きな食べ物を用意したので食べてもらいたい。
お腹になにか入れれば、少しは元気が出ると思う。
サムも、一晩寝て、朝食を食べたら、魔法少女のことは気にならなくなってきた。逃避ではないと信じたい。
「ゾーイさん。起きてる?」
コンコン、と扉をノックしてみる。
気配は感じるので部屋の中にいるのだろうが、寝ているか起きているのかまではわからない。
探ることはできるが、女性の部屋の中を無遠慮に探ることなどできるはずがない。
「ゾーイさん? ゾーイさんの好きなカリカリに焼いたワッフルあるよ。はちみつもしっかり用意してますよー!」
サムとゾーイの交流は、日常の他愛無い日々から始まり文通をしていたのだが、冬になる前に交換日記変化していた。
文通は毎日ではなかったが、交換日記は日替わりで書いているので、顔を合わせても会話が少ない日もまるで一緒にいたような気持ちになれた。
最近のゾーイはツッコミが多いので口調が荒く、少々ぶっきらぼうな言葉を使うことがあるが、彼女が気遣いができえ、面倒見がよく、優しい女性であることはサムがよく知っている。
その思いは交換日記を始めてより深まっている。
彼女の文字は綺麗で、交換日記の中では物腰柔らかな文章を使う。内容に関しては、他愛無いことが多いのだが、何をしたとか、どこのお店のクッキーが美味しそうだったとか、少女と仲良くなったとか、色々なことを教えてくれるのだ。
「あったかいミルクティーもあるよー。はちみつ入れてもいいんだよー? だから、ちょっと朝ごはん食べよう?」
ゾーイの食事は厨房を借りてサムが作っている。
この世界にもワッフルはあるが、いまいちパンに近いところがあったので、そこを同じ地球出身の友也と薫子と相談して改良してみた。
サムの作ったワッフルをゾーイは気に入ってくれているのだ。
「ゾーイさん、昨日は大変だったけど、ご飯食べて元気出して」
サムが五度目の声かけをすると、部屋の中で物音がした。
少し待っていると、ゆっくり部屋の扉が開かれる。
「おはよう、ゾーイ」
「……おはよう」
どこか正気のない目をしたゾーイが、扉の隙間から顔を出してくれた。
少し酒臭いのは昨晩大量に飲んでいたせいだろう。
「はい、朝食作ってきたよ。食べて食べて」
「……お前はたくましいな。屋敷に戻ってきてからあんなことをしたのに……ふっ、さすが魔王に至っただけはあるな」
「待って、俺って本当になにをしたの!?」
ゾーイにまで言われたサムは、帰宅した自分がなにをしたのか怖くなった。
補足として、ゾーイさんとサムくんはかなり交換日記のおかげで親密になっております。
同じくあまり一緒にいられないオフェーリアさん、ジェーンさんとも交換日記をしています。
リーゼたちも交換日記をしていますが、ゾーイさんたちに遠慮してときどきです。
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