1「一週間が経ち」
サミュエル・シャイトがリーゼロッテ・ウォーカーと婚約して一週間が経った。
サムが王都で生活をはじめてもう一ヶ月が経過している。
その間にいろいろなことがあった。
ウォーカー伯爵家のみんなとの交流、宮廷魔法使いギュンター・イグナーツとの戦闘、スカイ王国最強の魔法使いだったアルバート・フレイジュと決闘の果てに王国最強の座を手に入れ、さらに竜とも戦った。
あまりにもたくさんの出来事が起きた一ヶ月だった。
そんなサムだが、ここ一週間はとくに問題が起こることもなく平和な時間を過ごすことができた。
婚約者であり、師匠ウルの妹であるリーゼとの関係も良好で、いちゃいちゃの日々を送っている。
彼女と結ばれてから、夜は一緒に過ごすようになり、両者が若いということもあって毎晩愛情を確認していた。
普段快活なリーゼだが、意外にもベッドの中では大人しかった。
愛情を込めた言葉を囁かれることを好む彼女に、たっぷりの愛情を注ぐ日々は実に充実していた。
一方で、リーゼは切り替えをしっかりしていて、日中は戦闘面の師匠として厳しくサムを鍛えてくれている。
そして訓練が終わると、かわいい婚約者に戻るのだ。そんなリーゼのギャップがサムはたまらなかった。
リーゼと婚約したことで流れてほしいと願っていた、木蓮の孫との見合いだが、先方に婚約したことを伝えたにもかかわらず、当初の予定通り事を進めるのは変わらなかった。
木蓮に至っては「ご婚約おめでとうございます。孫は側室で構いませんよ」という内容が書かれた手紙を送ってくる始末だ。
孫娘との未来を諦める気はまったくないらしい。
ウォーカー伯爵家のみんなとの関係も良好だ。
ジョナサンとグレイスも、正式に娘の婚約者となったサムを、今まで以上に息子として扱ってくれる。
遠慮というものがなくなり、家族として言いたいことが言える、見せなかった一面も見せてくれるようになっていた。
それはアリシアとエリカも同じだ。
アリシアは子竜の世話を一緒にしている。
先日、灼熱竜が王宮から正式に山脈をもらい受けると「子供たちが暮らしやすい土地かどうか確認してくる。それまで世話を任せたぞ」と言い残し、留守にした。
以後、子竜たちの世話はサムとアリシアの役目だ。
アリシアも、サムと若干の距離はあったものの、子竜の世話を通じ、また将来の義兄になることが決まったのをきっかけに、口数が増え、笑顔を見せてくれるようになった。
度胸があることはわかっていたが、ちゃんと話をしてみると、決して世間知らずなのではなく、物事をありのまま受け入れることができる度量があることを知った。
人間だとか竜だとかいう種族の違いを些細なものとし、個々をちゃんと見て受け入れているアリシアに子竜たちが懐くのも納得できた。
エリカとの関係も良好だ。
彼女は最近「弟子にして!」と言うようになった。
曰く、王国最強だったアルバートを一瞬で屠った実力、竜と互角に戦って見せた功績から、姉の後継者だけではなく目指すべき目標にしてくれたようだ。
真っ直ぐに魔法を学ぼうとするエリカの姿勢には好感を抱くことができるが、弟子入りは保留にさせてもらっている。
ジョナサンが言うには、宮廷魔法使いになったサムにエリカが弟子入りすると優遇していると周囲から見られてしまうという。
せめて、他の人間を弟子に迎えてからエリカを受け入れたほうがいいと助言してくれた。
確かに、婚約者の妹を弟子に迎えたらいろいろ勘繰られてしまうかもしれない。――が、まだ自分を未熟だと考えているサムは、それ以前の問題として弟子をとっていいものなのかと悩んだ。
そんなサムに答えをくれたのは、他ならぬリーゼだ。
「弟子を取ることで学べることはたくさんあるわ。私がそうだったもの」
愛する人の言葉は、不思議と受け入れることができた。
リーゼがサムを弟子にして、師という立場から学ぶことができたように、サムも弟子を取ることで今までと違った経験ができると言ってくれた彼女に感謝する。
これを機に、サムは弟子入りを前向きに考えるようになった。
そんな順調な日々を送る、サムのもとに尋ねてきた人物がいた。
「やあ、サム。今日もかわいいね」
毎度、会う度に背筋を震え上がらせてくれるのが、ギュンター・イグナーツだ。
白いスーツに青いコートを羽織った彼は、宮廷魔法使いであり、スカイ王国で一番の結界術師である。
彼は王宮から遣わされた馬車から降りると、笑顔を浮かべて玄関まで出迎えたサムの尻を自然に撫でた。
「――ひぃっ」
総毛立つサムの背後から、リーゼが木刀を持って現れる。
サムでも反応するのに難しい速度で肉薄すると、木刀を一閃。
しかし、ギュンターを覆う結界に阻まれてしまい、木刀は届かなかった。
最近、よくある光景だ。
苛立った表情を浮かべたリーゼは、ギュンターに見せ付けるようにサムと腕を絡める。
そんなリーゼを羨ましそうに見るギュンター。
そして、「また始まった」という顔をする、伯爵家の面々。
サムも若干呆れつつ、もう慣れつつあるギュンターの変態行為を無視して、「で?」と用件を促す。
すると、彼はもっと構ってほしそうな顔をしたものの、仕方がないとばかりに口を開いた。
「国王陛下がお呼びだよ」
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