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109/2009

46「リーゼ様の決意と俺の気持ちです」①



 ジョナサン・ウォーカーは寝室のベッドの上に腰を下ろし、ガウン姿で大きなため息をついた。

 そんな夫に、化粧水を顔に塗っていた妻グレイスが、鏡台から声をかける。


「あなた、お疲れのようですね」

「ああ、今日はいろいろ頭を悩ませる一日だったからな」

「なにかお困りごとでもありましたか?」

「サムに縁談の話があってな」

「――まあ!」


 グレイスは化粧品を手際よく片付けると、夫の隣に座る。


「お相手はどなたですか?」

「木蓮殿の孫娘の花蓮殿だ」

「まあ、木蓮様のお孫様を? よいご縁なのですよね?」

「サムにとっても我が家にとっても、良縁だろう。木蓮殿はサムをウォーカー伯爵家の養子にした上で縁談したいとおっしゃってくれた。こちらに気を使ったのだろう」

「サムの力しか見ていない、取り込むことしか考えていないような家と結婚させるよりましかと思われますが」

「それには同感だ」


 木蓮には宮廷魔法使いの地位と王国最高の回復魔法の使い手という立場があり、国王からの信頼も厚い。

 サムがこれから宮廷魔法使いとして、王国最強の魔法使いとして立場を固めていくのなら、これ以上ない後ろ盾になってくれるだろう。


 ただ、ジョナサンには、木蓮も他の貴族たちのようにサムを取り込みたいだけではないのかと悩んでしまう。

 しかし、木蓮はある意味潔い。

 優秀な魔法使いの血を一族に欲していること、孫娘のためだということを前もって言っている。

 サムを利用しようと企む貴族と違って、サムのこともまったく考えていないわけではない。


「木蓮殿は、さらに孫娘を側室でも構わないと言ってくれている。我らの派閥にも加わってくださるともおっしゃった」

「わたくしたちにとっては良縁ですわね。サムにとってどうかはわかりませんが。しかし、それだけでそんなに難しいお顔をなさるのですか? 縁談で困るのは、今に始まったことではないではないですか」


 グレイスの言う通り、ウォーカー伯爵家が現在進行形で娘たちの縁談に悩まされている。

 アリシアは幼なじみから求婚されているが、本人が望んでいないがなかなか断れない状況が続いている。

 エリカは魔法使いの家系に嫁に迎えたいと言われているが、まだ本人たちの気持ちがはっきりとしていない。

 亡きウルも大変だった。宮廷魔法使いと縁を結ぼうと、国中から縁談が舞い込んできた。


 リーゼも、剣聖の弟子として引く手数多だった。だが、結局、結婚相手を選ぶのに失敗してしまった。そんなリーゼにも現在、縁談の話がきている。

 家に娘がいない一族から、サムとの縁を結ぼうと出戻りのリーゼを妻に、という声がある。

 無論、娘の幸せを第一に考えているジョナサンは考慮することなく断りの手紙を送り返している。


 なので、今さらサムのことで頭を悩ませなくてもいいのではないか、とグレイスは言ったのだ。

 しかし、ジョナサンが悩んでいるのは単に縁談の話だけではなかった。


「一部の家が、サムを籠絡しようとしている。いつどこで彼が女性に誘われるか、気が気でない」

「……あの年頃の男の子は異性に興味津々と聞きます。魅力的な方に誘われたら――いえ、サムにはウルという想い人が」

「たとえ想い人がいても上手くやるのが籠絡というものだ。可能性がないわけではない」

「では、どうするおつもりですか? 縁談は断れても、籠絡しようと企む一族をどう阻止するのですか?」

「一番は、女性経験を積ませることで少しでも耐性をつけてもらうことだが、なんというか、それは言いづらいのだよ。本来は父親や兄の役目であろう?」


 サムのことを息子同然に思っているし、彼も慕ってはくれているが、デリケートな話ができるかと言ったら難しい。

 まさか、「やあ、サム。君は童貞かな? 女性関係で危ういから経験を積まないかい?」とは言えない。

 いや、肉親でも言い辛いだろう。


「いっそ、娼館にでも連れて行けばいいのか?」


 悩んだ末に、ジョナサンから漏れた呟きにグレイスが眉を潜めた。


「娼館はおやめになったほうがよろしいですわね。どこで誰が繋がっているのかわかりませんもの。メイドもおやめください。サムは人気ですので、メイドのほうがあの子に夢中になってしまう可能性がありますわ」


 確かに、娼館は貴族が利用する場合もある。

 どこで敵対貴族と繋がっているかわからない。

 最悪の場合、サムが取り込まれてしまう原因を作ってしまう可能性だってある。


「男性というのは難しい生き物ですね」

「女性ほどではないさ。どちらにせよ頭が痛いことだが、私がなによりも気にしているのはそこではなく、リーゼのことだよ」

「――そう、ですわね。リーゼはサムのことを間違いなく慕っているでしょう」


 ジョナサンもグレイスも、サムを別の家の子女と結婚させるのなら、リーゼをと思ってしまう。

 親としては無理もない。誰だって娘には幸せになってほしいのだ。

 とくにリーゼは結婚で不遇な目に遭っているだけに、より強く思うのだ。


「さてどうしたものか。おっと、誰かが来たようだ」


 頭を抱えていたジョナサンが、人の気配を感じ寝室の扉に視線を向けるとノックが響いた。


「構わない。入ってくれ」

「失礼します。お父様、お母様」

「――っ、リーゼか」

「どうかしましたか?」


 気配の主は次女リーゼだった。

 ジョナサンたちは、直前まで娘の話をしていただけに平静を取り繕って返事をする。


「申し訳ありません。お父様たちにお話があったのですが――おふたりのお話が聞こえてしまいました」

「それは」


 話を聞かれていたことに、苦い顔をするふたりに、リーゼは気にしていないとばかりに微笑んだ。

 だが、


「いえ、わかっています。サムにも立場がありますもの。女性に慣れておかなかったせいであとで痛い目に遭うのは私も望みません。であれば、その役目を私に任せていただけないでしょうか?」


 リーゼの発言に、ジョナサンとグレイスは目を見開き驚愕した。




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― 新着の感想 ―
[一言] 毎日更新されていたのに今日はされていない何かあったのでしょうか?
[一言] や、やっておしまいなさい・・・ デモコレッテロウラクッテイエルヨネ
[良い点] 吹っ切れてからのリーゼさんは強いな~ 思い込んだら真っ直ぐでイメージ通り [気になる点] サムの相手の話してると、そろそろギュンターのターンが来そうで怖いな リーゼにはギュンターを吹き…
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