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108/2015

45「旦那様と木蓮様のお話です」②




 孫娘をサムの相手にと押す木蓮に、ジョナサンははっきりと言った。


「――私は、サムを息子にしたいと考えております」


 ジョナサンは、サムの実力がどうこうではなく、単純に彼を気に入っているゆえに手元に置いておきたいと思っている。

 彼が来てから屋敷が明るくなった。

 慌ただしいことも起きるが、それはまるで長女がいたころのようだと懐かしくもある。

 そして、貴族のしがらみから守ってやりたくもあるのだ。


「アリシア殿かエリカ殿のお相手に? しかし、おふたりとも婚約者がいたと思われますが?」


 木蓮の指摘に、ジョナサンは苦い顔をして首を横に振る。


「アリシアのあれは、男のほうが言い寄っているだけです。付き合いが長い家なのではっきりと断れていませんが、本人の望まない結婚はさせないつもりです。エリカはそうですね、確かに交友のある家に嫁にほしいと言われていますが、まだ決まっているわけではありません」


 ウォーカー伯爵家にはイグナーツ公爵家以外にも親しい一族はいる。

 なにもギュンターだけが姉妹の幼なじみではないのだ。

 ジョナサンとしては、娘たちに望まない結婚を強いるつもりはない。たとえサムが相手でも、その意見は変わらない。

 同じように、サムにも望まない結婚をしてほしくないと思っていた。


「今のところ、サムと娘を無理に結婚させるつもりはありません」


 伯爵は、あえてリーゼの名を出さなかった。

 親から見ても、リーゼがサムを弟以上に想っていることはわかっている。

 だが、一度結婚で辛い思いをしている娘を急かすことはできないし、ふたりの今の関係を壊すこともできない。

 サムだって、最愛のウルを亡くしてからまだ一ヶ月も時間が経っていないのだ。


「そうでしたか。では、サム殿を伯爵の養子にして、紫一族と縁を結びませんか?」

「木蓮殿の一族と私の家がですか?」

「私は派閥に所属していません。治療は平等にすべきだからです」

「そのお考えには頭が下がります」

「ですが、サミュエル殿を孫娘の婿にしていただけるのなら、王族派となりましょう」

「――っ、本気ですか?」

「本気です」

「なぜ、そこまでサムを?」


 常日頃から穏やかな木蓮に、このような強引な一面があることにジョナサンは驚いた。


「純粋に孫娘が心配なだけです。わたしの家にも縁談を望む声が多くあります。しかし、誰もが宮廷魔法使いと縁を結ぶこと、もっと酷いとわたしや孫を治療薬代わりにしたいと考える人間もいます。そんな人間に孫娘を嫁がせたくないのです」

「お気持ちはわかりますが」

「それに、孫の花蓮はいい子ですが、なかなかやんちゃでもある子です。なので、サミュエル殿なら、と直感で思ったまでですよ」


 単純に孫を思う祖母としてか、それとも他にもなにか思惑があるのか、木蓮の心情をすべて察することはジョナサンにはできない。

 ただ、この場で返事をするわけにはいかない。

 息子同然にかわいいサムに望まない結婚を強いたくはない。

 そもそも紫・花蓮という人物がどのような人間なのかも知らないのだ。


「――サムの意思を尊重したいと思います」


 考えた末、出てきた答えは、この程度だった。

 遠回しに断りたいという気持ちも含めていたのだが、木蓮はジョナサンの気持ちを察した上で、微笑んだ。


「なんでしたら、孫は側室でも構いませんよ。伯爵の御息女が正室となり、孫が側室。それもひとつの縁ではないでしょうか」

「正直に、言いましょう。サムは想い人がいます」

「ええ、サミュエル殿がウルリーケ殿を慕っているのは存じています。ですが、彼もまだ若い、前に進むべきです。お節介がすぎると思われるでしょうが、これからの人生にパートナーは必要です。わたしも結婚などしないと魔法にのめり込んでいた時期がありましたが、夫と出会い幸せになりました。孫にも、そしてサミュエル殿にも魔法使いとしてだけではなく、人としても幸せになってほしいのです」


 木蓮はいろいろ情報を得ているようだ。

 サムは隠していないし、隠す気もないが、ウルを今でも慕っている。

 だが、その気持ちを、今日まで接点のなかった木蓮が知っているということは、彼女もまた事前にサムを調べたのだろう。


「木蓮殿のお考えをサムに伝えておきます」

「ありがとうございます。あと、気をつけていただきたいことがあります」

「なにか?」

「一部の家が、サミュエル殿を手っ取り早く取り込むために籠絡することを企んでいると情報を掴んでいます」

「籠絡、つまり女性関係ですね。それはまた面倒なことを」


 おそらく貴族派の連中だろう。

 他にも魔法使いの血を取り込みたいと言う家は決して少なくない。


「サミュエル殿はまだお若い。アルバートのように女性にだらしないとは思いませんが、男女のことは何があるか分かりません。彼が利用されてしまうのはわたしも望みませんので、お気をつけください」

「ご忠告どうもありがとうございます」


 こうして、サムにまつわる話を終えたジョナサンは、帰路につく木蓮を家族たちと見送った。

 もちろんその場にサムもいた。

 木蓮はサムに「後日連絡しますね」と言い残し、彼を困った顔にさせると、にこにこした顔をして帰っていくのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] フラグがインフレで サムのサムが心配かも?
[良い点] サムくん、知らない内に、一夫多妻(ハーレム)ルートを着々と歩んでいるの巻。
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