プロローグ「目覚め」
頭の鈍痛とともに目を覚ました彼は、自分がいつの間に寝ていたのかと疑問を抱いた。
重いまぶたを擦ると、わずかに頭が痛む。
もともと頭痛持ちだったが、ここまでの痛みは初めてだった。
(――っ、まるで誰かに頭を殴られたみたいだよ)
頭痛薬がほしいと思いながら、痛む頭に手を伸ばす。
(あれ?)
すると、頭部には布が巻かれていることに気づいた。
(これって包帯? もしかして、俺……怪我しているのか?)
頭部に包帯が厳重に巻かれていた。
やはり怪我をしたのかと思ってしまう。
思い返せば、目覚める前の記憶が曖昧だ。
(えっと、俺はなにをしていたんだっけ?)
必死に記憶を手繰り寄せると、少しずつ思い出してきた。
仕事から帰宅して、真夜中だったので食事も取らずにウイスキーだけ飲んで、シャワーを浴びず、着替えもせずに、そのままベッドに飛び込んだ。
(それから……目を覚ますまでの間に俺になにがあったんだ?)
まるで記憶にない。
そもそも自分はマンションで気楽な一人暮らしだ。
仮に怪我をしたとしても、手当てしてくれるような同居人はいない。
「――あれ?」
彼は初めて、違和感を覚えた。
薄暗い視界の中ではあるが、ぼんやりと目に映る物に心当たりがない。
「……そもそも、どこ、ここ? 誰の部屋?」
住みなれたマンションの一室ではないことは間違いない。
どこかクラシックな部屋だ。
部屋の広さも、自室の倍以上ある。
ベッドの寝心地なんて、比べ物にならないほどいい。
(……誘拐、じゃないよね。両親は平凡な人たちで金持ちじゃないし、俺だってブラック企業勤めで金なんてないし)
どれだけ悩んでも、誘拐されるような心当たりがなかった。
なによりも、ベッドに寝かされているだけで、拘束など一切されていない。
誘拐の線はこれで消えた。
ならば、自分の身に何が起きているのだ、と答えが出ないことを察した。
「あのー、誰かいませんか?」
彼は諦めて、声にしてみることにした。
(あれ? 声が高くないかな? まるで声変わりする前の子供みたいだ)
記憶にある自分の声は、もっと低い。
こんな少女とも少年とも判断に悩むような声をしていなかった。
しばらくすると、声が届いたのか、部屋の外から小走りする音が聞こえる。
足音は部屋の前に来ると、勢いよく扉を開けた。
「サムぼっちゃま!」
「坊っちゃま! お目覚めになられたのですね!」
部屋の中に飛び込むように入ってきたのは、銀縁の眼鏡をかけた美人なメイドと、初老ながら燕尾服をきちんと着こなした執事だった。
予想外の人物たちの登場に、彼は唖然としながらも、なんとか声を絞り出した。
「どちらさまですか?」
次の瞬間、どういうわけか二人が絶望した表情をする。
メイドに至っては、涙まで流し出してしまう。
そんな光景を他人事のように眺めながら、
(誰がぼっちゃまだよ)
彼はどうでもいいことを思うのだった。
新作はじめました。
本作は「異世界転生」ものであり、「魔法チート」ものであり、「成り上がり」ものでもあり、「ハーレム」ものであります。
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