前世の糸が今世でも絡まる
現代から剣と魔法の世界に転生ってのは良くありますが、逆に剣と魔法の世界から現代に転生って中々見ないので書き殴ってみました。
シリアス・・・難しいですね。
私は走った。
走って走って走って走って・・・
雨のせいなのか、それとも自身の涙のせいなのか分からないが目の前の景色が歪む。
ズルっ!べチャッ…
泥に足を絡め取られ、体が泥まみれとなる。
綺麗なドレスなのだろう。一生懸命に大人に見せようとお化粧したり髪をセットしたり、その一生懸命した努力が一瞬の泥で全てが終わってしまう。
「何故・・・・・っ」
ポツリ。
少女の可愛らしい唇から溢れる言葉。
次第にギリリと歯を食いしばりながらギッと空に向けて睨みを効かせる。それは誰に対してなのかは分からないが。
「赦さない・・赦さない赦さない赦さない赦さない」
「絶対に赦さないっ!グリード・アストロフ!!」
ピシャッ!と同時に雷雲が稲妻を帯びて落雷。少女は呪いの言葉を口にしながらこの世を去った。
後に、少女の両親が心配して駆けつけた時には泥まみれになった愛娘の姿を見て母親は失神、父親は愕然としてしまった。
時は20XX年。
周りを見渡せば高層ビルが建ち並び、辺りにはビジネスマンや家族連れが行き交う。
カツカツとヒール音を出しながらすらっと行儀良く歩いている一人の女性の姿。バリバリのキャリアウーマン風に見え、スマホ音が鳴ると直ぐさま出てテキパキと受け答え。
「はい、久城です。あぁその件は今終わりましたので・・はい、資料は今から持ち帰ります」
着信を終わらせ小さなため息。サラリとした長い黒髪を後ろに掻き分け、大きな瞳は緋色をしたとても綺麗な女性だった。
(あ゛ー・・取引先の野郎め、こっちが下手にでりゃ大きい態度とってムカつく!)
カツンッとヒール音を立てながらそう考えていただけ。清楚そうな外見とは裏腹に心の中では悪態をつきながら。
あら?・・・お見苦しい所を失礼しました。
私、いえ私の名前は久城 琴音。大人の色香を積み重ねている花の乙女(笑)それと秘密で家族や親しい友人には言っていないのが、私には前世の記憶が魂に刻まれているのです。
前世では剣を振るい、魔法を駆使して魔物を狩ったり昔のヨーロッパな街並みが佇む、今この世界と全く異なる時代だった。
コーデリア・クリフト。それが前世で私の名。
その国には階級というものがあって私の家は侯爵家の次女として生を受けました。私が生まれたと同時に国の将来次期国王となられる男児が生まれ、自動的に私が婚約者となる。
許嫁と共に王国にある学園(12〜15歳まで入学)で最後の学園パーティーでの出来事で私は命を失った。
理由?理由は些細な事、婚約者が別の女の子に恋をして自分との婚約を無かったことにすると皆が入る前、しかも大勢の保護者が居るのにも構わずに。
それに有りもしない女の子へイジメをしたと弾劾。
何度も自分では無いっ!と必死になって婚約者に説明をするが証拠があると言われ混乱しながら泣きじゃくっていた自分が懐かしい。
『コーデリア・クリフト侯爵令嬢!貴様を国外追放とする』
婚約者は隣で震えている可愛らしい少女の手を取ってこう愛の囁きを告げる。
それはまるで真実の愛を見つけたみたいな演出。
『俺の愛しいアン。俺は君と共に未来を歩んで行きたい、この手を取ってくれるかい?』
『グリードさま・・嬉しいですっ、あぁ夢みたい』
そっと差し出された手をアンと呼ばれた少女が嬉しそうに手を重ね、二人はジッと見つめ合いまるでお伽話のような場面。
それに耐えきれずコーデリアだった私はその場から逃げ出し、呆気なく死んでしまう。恨み?まぁ多少は今でもあるがこの世界にグリードとアンは居ないのだから清々する。
職場に戻りデスクに書類を置くと、隣の社員が嬉しそうに話し込む。イギリス本部の方から移動してきた社員とこの間辞めてしまった社員の代わりに派遣会社から送られたスタッフが夕方顔見せに来るという。
言葉を右から左に流しながら自身に関係ないと思っていたこの時点の自分を殴りたい。
「イギリス本部から移動してきました、村主 律です。色々と本部と支社との違いがあり戸惑いはあるかとは思いますが、ご指導の程よろしくお願いします」
ニコニコと女受けしそうな笑みを浮かべるて。
適度に揃えられた茶色の髪に、薄っすらと琥珀色の瞳。
チクリと琴音の胸を刺す。
「派遣会社から来た逢沢 愛衣です!分からない事がありますがよろしくお願いしますっ」
此方もニコリと男性受けしそうな外見と笑顔。
ボブカットされた赤茶色の髪にカラコンなのか紫色の瞳が怪しく光る。こちらはズキリと頭に鈍器でも打たれた様。
紹介も終わり、早速それぞれの所に質問とかが飛び交う。彼氏/彼女は居ますか?趣味は何なのか、早速電話番号とメルアドを交換しましょうなど。
私は小さくため息をつきながらその場から離れようとすると。
「ねぇ、アデリアの花って知ってる?」
「っ!?」
ドキリと心臓が大きく脈打つ。アデリア?と周りの女子たちが新しい品種の花なのかなと話していて、その言葉を言った村主の顔は落胆していたみたいだ。
何故、アデリアの花を知っている。
その花は・・・その花は、前世だったコーデリアが愛した花。花びらは真っ白なのに弁のところだけ薄紫をして月夜の時にしか咲かない珍しいものだ。
この村主、もしかして・・・・・
顔合わせと同時に親睦会と言う名の飲み会に参加する琴音。顔合わせの時に村主が発したあの言葉が気になるからだ。
「珍しいね久城さん。何時もだとこういうのパスなのに・・・あ、村主さんが気になるんだぁ〜」
「違います。あの二人がデキるかどうかを見極めようかと」
「ん〜まぁ、村主さんはバリバリにデキそうだけど・・・逢沢さんはねえ」
チラリと同僚と共に逢沢が座っている方の席に視線を向ける。そこには一つの輪が出来上がっており、中心には逢沢 愛衣が少し困り顔で談笑している。
因みに。村主の方も同様に輪が出来上がっていた。
確信は無いが村主は私と同じあの世界からの転生者なのだろうか。スッと村主が立ち上がり、どうやら手洗い場の方へと向かっていくのを確認すると私も偶然を装い同じ方へ。
「お疲れ様です、村主さん」
「え、あぁ。えと・・久城さんですよね?皆さんとっても良い方が多くて少しホッとしました」
「ふふっ良かった村主さんの緊張がほぐれて。そうそう村主さんはイアのクッキー好きですか?」
「あ、・・・・・え?っ」
クスリと微笑みながら村主の方を見る私。
ポカンとしていたが直ぐに意識が蘇ったのか、琴音の手首を持ち手洗い場から引っ張る様に連れ出す。
「あれ?村主くんに久城くんどこ行くのっ」
「すみません、少し用が出来ましたので久城さんとあがります」
ええ〜〜っと主に女性陣たちが悲鳴をあげているが村主は御構い無しに居酒屋から琴音を連れて出てってしまった。その様子をジッと静かに見つめていた逢沢。
ぽつりと何かを呟く。
や っ と み つ け た
「ちょっと、ねぇ聞いてる?」
「・・・・・」
「痛いってばっ!」
「あ、ああっごめんね・・コーデリア」
やっぱ村主は私と同じ転生者、しかも婚約破棄をした元元婚約者でもあるグリードだ。先ほど村主にイアのクッキーは好きですかと問いをしたのは、そのクッキーはグリードが大好きだった為よく差し入れをしていたから。
パッと勢いよく村主の手から手首を離させ睨みつける。
「貴方・・・グリード、ね」
「うんそうだよ、やっとコーデリアを見つけられた、女神さまのお陰だね。女神さまにお願いしてコーデリアが転生した世界に渡れて良かったぁ・・・今世のコーデリアもとっても綺麗だ、今すぐ食べてしまいたい」
「は?何を言って」
この人本当にグリード、さま?何かヤンデレっぽい言葉が聞こえた様な気がしたんだけど。理由を聞こうとすると村主の方からペラペラと。
琴音・・・前世ではコーデリアが会場から走り去った後。
うっとりとしながらグリードとアンが未だにお花畑状態に違和感を感じたらしい魔法省のお偉いさんがどうやらグリードに魅了という禁断の魔法がかけられていると判断し、その場で解除魔法をかけるとグリードは脚から崩れ落ちた。
『コーデリア?コーデリアコーデリアコーデリアコーデリアコーデリアコーデリアコーデリアコーデリアッ・・・・・ぁぁぁああっ!!!!!』
壊れた様に自信が婚約破棄した元婚約者の名前を叫びながら縋る。甘い雰囲気だった筈のアンも顔色を悪くし、キョロキョロ辺りを見渡してその場から逃げ出そうとした所を衛兵に捕縛。
『貴様っ!俺にナニをしたぁ!!』
『あーあ・・・バレちゃったか。断罪の記憶と私との初めての夜覚えてますよね?グリードさまって結構激しいお方なんですね♡』
ペロリと舌なめずりしながら茶目っ気にアンは言うが、グリードの怒りは頂点へと達していた。愛する婚約者コーデリアに酷い仕打ちをしながら、好きでも無い女と交わっていた事に強いショックを受ける。
今からでもコーデリアを探しに行って抱きしめたい。
だが・・・・・
フラリと立ち上がり捕縛していた衛兵の側へと寄るグリード。周りもアンに何かをするのかと見守っていたが。
『申し訳御座いません、父上・・母上。それとフレデリック、後の事は頼んだぞ』
スラリと衛兵の腰から剣を引き抜き勢いよく自身の下腹部へ突き刺す。血が噴水の様に噴き出て辺りが更に混乱へ。近くにいたアンと衛兵の体にグリードの血がかかり、最後の力を振り絞って。
『女神・・マー、タ。俺・・・の魂、コーデ・・、共に』
ぐしゃりっと体が地面へと叩きつけられる。
もう既に生き絶えており駆け寄った王妃が悲鳴をあげ国王がアンをすぐさま地下牢に放り込む様に命令。
その後の事は死んでいて分からないが、真っ白な空間で唯一神の女神であるマータ・ユルと契約してコーデリアの情報を聞くと彼女も死んで転生してしまったと聞かされた。因みにアンは王太子を殺害した罪で処刑されたとか。
グリードも女神に頼んで転生してもらえる様に頼み込む。
コーデリアが転生した後、成長した時に居る場所と特徴を聞き白い玉となって転生の準備へと。と言うのを聞かされて私は少し・・・いや、かなり引いた。
「さて。琴音、もう一度やり直そ?」
「ふ、・・ふざけないで!もう私に関わらないでよ、魅了にかかっていたからあの行動は許せるわけないっ」
「だからコーデリアとグリードとしてじゃなくて、村主 律と久城 琴音として新しく始めようと思うんだ。だから先ずはお友達から」
ニコリと顔合わせと同じ態度をした村主は琴音の手を取って優しく握りしめる。冗談では無いっ!たとえ魔法によって操られていたと説明され今世の自分とやり直そうだなんて、あり得ない。
再び村主に握られた手を振り払い琴音はあの時の恨みをぶつけた。
「今更遅いのです!あの時の心の傷が魂まで深く刺さっているので忘れようがありませんものっ!!」
ポロポロと瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
グリードも自害せずコーデリアを探しに飛び出していたら幾分か未来は変わっていたかもしれない。でも、もう遅い。
過去は過去。
その場から逃げる様に琴音は走った。
あの時と同じ様に走って走って走って、ヒールが隙間に嵌り転びそうな所を受け止めてくれたのは。心配した表情をしながら息を切らせていた村主だった。
「ごめん、あの時も同じ様に君を追いかければ良かったよ。でもお願いだ、婚約者では無く友達として一緒にいさせてくれ」
頼むから・・・
村主の悲痛な想いに琴音の心臓がドクドクと煩く鳴り響く。そのまま村主の胸を借りて泣きじゃくってしまった。我ながら恥ずかしい。
「スッキリした?はい、ティッシュとハンカチ」
「あ、ありがとうございます///・・・村主さん」
「ん?」
「村主さ「んん?」
「り、律さん」
強制的に名前呼びを促され(会社にいる間は苗字呼び)
満足そうにしているグリード改め村主。友達からと思ったが恋人まではいかないだろうと思っていた自分。
これからどうなるかは当人たちにも分からない。
・久城 琴音
前世ではコーデリアとして生きてグリードに婚約破棄されて死亡。転生後、新しい家族に恵まれながら頑張っていたが律の登場に戸惑いを見せる。
今後二人が恋愛に発展するか不明
・村主 律
コーデリアの元婚約者だったグリードが転生した現代での名前。本当は海よりも深く愛していたので操られて婚約破棄した事や彼女を責めた事を後悔している。
・逢沢 愛衣
実はアン・シーザの生まれ変わり。女神とは別に悪魔と契約して転生。記憶も持っており律がグリードと分かっていて狙いをつけるが…