9.踏んづけてみよう
俺の「議論をしろ」という言葉を受け、まずは『天使』が「パタパタ」と、可愛らしく羽を動かしながら、自分の意見を主張した。
「戦争なんていけまちぇん! 無益な争いには反対でちゅ!」
それに対して、『悪魔』も尻尾を「ピコピコ」って感じで揺らしながら主張する。
「なーに言ってんでしゅ、いい子ぶるなでしゅ! どーせ人間なんて争うんでしゅ、だったら楽しみを優先した方がいいに決まってるでしゅ!」
悪魔が反論すると、それを受けて天使が頬を「ぷー」と膨らませてさらに言い返す。
「自らの楽しみのために争いを起こすなんて、神にあるまじき行いでちゅ! 容認できないでちゅ!」
するとさらに悪魔が、おませな子供がやるように、腰に「ちょこん」と手を当てつつ、体をそらしながら言葉を返す。
「へっ、でしゅ。人間なんて、頼んでもいないのにその神を理由に争うでしゅよ? 遅かれ早かれ争いは起きるでしゅ、気にすることなんかないでしゅ!」
うーん、命じておいてなんだが、たぶん結論でないな、これ。
というか、結論出た試しないけどな、いつも平行線だ。
ただ、議論を第三者視点で聞いていると、争点が浮き彫りになり、いいアイデアが浮かんだりするのだ。
ちらっと見ると、止まったままの姫は今もドヤ顔でこちらを指さしている。
その姿を見ていると答えはまとまったので、俺はパン、と手を叩いた。
「よし、そこまで。足元に来い」
命令すると、二体が「プニップニッ」と音を立てながら歩いてくる。
「会議ご苦労」
「はいでちゅ」
「はいでしゅ」
「とうっ」
俺は飛び上がって、それぞれを「グチャ」「グシュ」と音を立てて踏み潰したあと、残骸から神力を回収した。
「アクション」
それから時間停止を解除し、姫に向かって言った。
「いや、違うよ?」
俺は姫に否定で答えた。なんか、ドヤ顔浮かべる姫を否定したほうが面白そうだったからだ。
姫は一瞬「え?」みたいな表情を浮かべ、指もちょっと先っぽが下を向いたが、すぐに表情を締めて、再度指を伸ばした。
「い、今更詭弁を! 勇者様を狙う以上、避けられない流れだと理解しているはずです!」
「おのれ、我らをたばかる気か! ナスターシャ様御命令を! このような輩、このラファエルが斬り捨てて見せましょうぞ!」
うーん、そうなるか。ってか、そうなるよね。
ここは一つ、この調子に乗ってる騎士、ラファエル君をブチ殺すことも含めてじっくり考えたいとこだが、あんまり毎回時間停止するのもなぁ、神力つかうし、時間止めグセつきそうだし。
などと考えていると⋯⋯。
『つ、次から次に⋯⋯なにが起きてるんだ、いったい⋯⋯』
事態をあまり把握できていない様子の、Tシャツの若者が言った。
ちなみに若者と、この世界の人間たちの言語は違う。
当然、俺は話せるけど。
『突然こんなところに呼ばれて大変だったなーキミ』
『⋯⋯! あ、あなた、言葉がわかるんですか!? さっきからこの人たち何言ってるかわからなくて困ってたんです!』
なるほど。
さっきも、思わず自分の世界で使われている言葉を話した、というわけではなく、この世界の言葉がわからないのだ。
気の毒に⋯⋯。
これは、雑な召喚パターンだ。