6.予想してみよう
キュブナイルに降り立つため、ヘレネのいる空間と、地上世界を繋いでいる亜空間を渡る。
人間の体、いわゆる「生身」で亜空間を自力移動するのに、「神力」で周囲の環境を変化させる。
何も対策せず亜空間にいると、人間は死んじゃうからね。
スタートボタン押したら死ぬゲーム、いかんでしょ。
生存可能な環境、つまり空気やら何やら自分のまわりに展開しながら進んでいるので、ただ移動するだけで神力の消費は激しい。
とはいっても仕方ない、他に方法もないし。
そのへん、ヘレネに頼めば良かったな、と考えながら移動中──亜空間内で「道」を見つけた。
「道」なら、生身でも移動は問題ない。
生存可能な環境が整っているうえに、自動的にキュブナイルへと運んでくれるのだ。
問題があるとすれば、「どこに向かうか」という選択肢がなく、一本道。
まあ、分岐の選択肢がないから、悩む必要もない。
そして、道は俺がそれまで進んでいたルートとは、ちょっと外れている。
しかし、誰がこの道を作ったのだろう。
ヘレネか?
俺の苦労を察して?
それ以外に「道」があるとしたら、誰かがキュブナイルに向かった、ということだ。
当たり前だが、「神力」を利用せずに簡単に行えることではない。
逆に言えば、俺本来の力だったり、他の神たちにとっては造作もないことだが。
──しかし、今はありがたい。
せっかく道があることだし、「神力」も節約したいし。
俺は「道」へと移動し、それに沿ってキュブナイルへと転送されることにした。
らくちーん。
転送されながら、これから行く世界「キュブナイル」について予想する。
ヘレネの部屋にあった液晶モニターに映っていた様子から、ヘレネの世界創造のコンセプトはズバリ
「ドラエクっぼいやつ」
だろう。
ちなみに俺の世界創造のコンセプトは
「FSっぽいやつ」
だ。
ドラエクは「ドラゴンエクスプローラ」の略、FSは「ファイナルストーリー」の略だ。
俺たちは二人とも、ゲーム好きだ。
実は、ゲーム自体は大なり小なりどの世界の人間も生み出している。
俺たちがはまったゲームは「キリスアラーダ」ってやつが管理してる世界のものだ。
奴は世界創造に対してのこだわりが、人並み以上──いや、神並以上に強く、俺やヘレネの世界と違い、法則をガチガチに設定した。
そのため、奴の世界では混沌指数が10%を切っている。
結果、奴の世界には人間が使える「魔法」は基本的には存在しない。
そのぶんキリスアラーダの世界では、魔法に頼れない人間達は道具を作るのに特化していき、やがてそれは高度な機械文明へと発展した。
その機械文明の中で娯楽装置として発展したのが、ヘレネの部屋にあった液晶モニターや、俺たちが好きな「ビデオゲーム」だ。
「ビデオゲーム」は、俺たち神が世界を創るのと同様に、人間達が機械装置の中に「疑似世界」を創造し、疑似世界内の住人として、生活を疑似体験するための娯楽装置だ。
キリスアラーダの世界では、機械文明が進んだ結果、そこに住む人々は自然環境との接点が減少した。
結果、狩猟や採集、闘争など、人間本来が持つ生存本能への刺激を満たす機会も減ってしまった。
それを補うのが「ビデオゲーム」だ。
中でも俺やヘレネが好きなゲームのジャンルが「RPG」と呼ばれるカテゴリーだ。
「RPG」はロールプレイングゲームの略で、疑似世界内の住人を演じることによって、物語を体験する。
人々はゲーム内の疑似世界で冒険したり、狩猟する事によって本能を刺激し、仮初めの充足感を得るわけだ。
そんなゲーム、「所詮人間が作ったものだしー」とかいいながら、ガッツリはまってしまったのが俺とヘレネだ。
結構世界創りの参考になるし。
その嗜好は、各々の世界創造にガッツリ影響し、俺の世界は「ファイナルストーリー」っぽい機械文明と魔法文明の融合がテーマ。
そしてヘレネの世界は、「ドラゴンエクスプローラ」の世界に似た、文明レベルはキリスアラーダの世界で言う中世、そして魔法が存在する世界だというのは液晶モニターに映っていたからすぐにわかった。
予想しながらしばらく移動すると、視界が開けた。
光が網膜を刺激する。
キュブナイルに到着! ということで、まず周りを見渡す。
石造りの建物、その一室のようだ。
「おー、ドラエク感えぐいな」
モニターで見た通り「ドラエク」っぽい世界だか、しかし実際に来て、肉眼で見ると感動はひとしおだ。
自分の創った世界もいいが、うーん、この世界もいいね、俺もどっちかと言えば「FS派」ってだけで、「ドラエク」も嫌いじゃないしね。
思わず「神眼」を発動して、世界の隅ずみまで見そうになるが、いかんいかん、ネタばれ厳禁、ネタばれ厳禁、っと。
今いるのは、それなりに広い部屋だ。
そして、第一キュブナイル住人発見! しかもまとめて四人!
どいつもこいつもドラエクの住人って感じ⋯⋯あれ? 一人変なの混ざってるな。