5.旅立ってみよう
ナイフを刺した瞬間に走る衝撃。
痛っ、これが痛覚かぁ。
新鮮だ! 新鮮な感覚ぅ!
刺した場所は急所のため、痛みは一瞬。
意識が途絶えた次の瞬間には、本体へと意識が戻る。
慣れ親しんだ感覚が戻るとともに、ヘレネの表情を確認すると、めっちゃキメ顔しながら言った。
「おお、オメガテウス、死んでしまうとは情けない!」
「わっはっは、お前ノリノリだな!」
彼女の楽しそうなテンションに、俺も楽しい気分になる。
「あはははは面白ーい! もう一回! もう一回!」
「よーし、次は⋯⋯」
手を叩いて喜ぶ彼女に、俺のサービス精神が刺激される。
もう一回いっとくか。
目の前にある転生体が、ナイフごとふっと消える。
ナイフが刺さった死体から力を回収したのだ。
たとえ十億分の一でも、「もったいない」の精神だね、という几帳面さをアピールしつつ、ふたたび転生体を創り、意識を移した。
よし、次はどうやって死のうか。
またナイフだとひねりがないよなあ。
よし、次は⋯⋯
「こういうのはどうだ!?」
今度は巨大な鉄球を頭上に生み出した。
さっきよりはスムーズだ。
人間の体への慣れが、能力発動のスムーズさを生むようだな。
我ながら高い適応力!
と自画自賛してるうちに鉄球は落下し、頭部はぐしゃりと潰れた。
ふたたび意識が暗転したのち、本体に戻る。
またヘレネがキメ顔しつつ、言った。
「おお、オメガテウス! 頭がトマトのように潰れてしまうとは情けない!」
「お、セリフアレンジしてんじゃん、女優だな!」
「あはははは、最高ー!」
「よし、次は! とう!」
パラシュートを具現化して背負い、窓から飛び出し、そのまま地面に激突死する。
「おお、オメガテウス! パラシュート開かずに転落死とは情けない!」
「反省を活かして! とう!」
今度はなにも付けずに窓から飛び出す。
「パラシュート外してどうする! 反省の方向が違っててとりあえず情けない!」
⋯⋯。
そのあと、調子に乗っていろいろな死に方を繰り返してたら、急に彼女が冷静につぶやいた。
「私たち⋯⋯なにやってるの?」
「な」
とりあえず十億分の一の力を持って、転生することにした。
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さあ、一通り準備(主に死ぬ練習)も済んだし、いよいよ出発だ。
出発前に、彼女に言った。
「三年後、無事戻ってきたら、お前にプロポーズするんだ⋯⋯」
「変なフラグ立てないでいいから、行ってきなさい」
「えー、ノリわるーい」
「はいはい、じゃあ私の世界楽しんできて。終わったら感想聞かせてね」
「おう」
神力で『扉』を具現化する。
この扉の先にはまず亜空間があり、そこを移動することによって時空を越えるのだ。
──こうして俺は彼女の世界「キュブナイル」に降り立つことになった。