2.知り合いの神に頼んでみよう
「──と、いうわけだ」
「なにが、というわけなのよ⋯⋯百年ぶりに会いに来るって言うから何かと思えば⋯⋯」
俺が人間になろうとする経緯を一通り話すと、彼女は呆れ声で呻いた。
今、俺がお邪魔している彼女の住まいは、『ある世界観』の影響が強く、そこの住人がよく建てているような、石材を積み上げた灰色の屋敷だ。
ただ、俺たちがいる部屋の中には、機械文明世界で「液晶モニター」と呼ばれる映像装置を、彼女が模して具現化したものが大量に置かれている。
液晶モニターの画面には、彼女が担当する世界各地の映像が映し出され、監視──専門用語で言うとモニタリング──している。
そのため内装は、石造りのちょっと原始的な建物と調和してる、とは言い難い。
ま、俺の住まいも似たようなものだけど。
液晶モニターに映る彼女の世界は、ここと同じく『ある世界観』の影響下にあるのがわかる。
俺たちは人間から「神」と呼ばれ、人間の文化に「宗教」という形で影響を与える存在だが、実は俺たち「神」自身も、人間の生活や文化にすごく影響を受けている。
「神」たちは、存在として非常に強力で安定しすぎていて、環境に適応する努力を怠る傾向が強い。
そもそも環境そのものを、自分の都合に合わせて変化させられるんだから、どうしてもそうなる。
人間は逆に生存のためや、生活を便利にするため、発明や努力をして環境に適応しようとするからな。
彼らを見てると「その発想はなかった」みたいなことが結構ある。
もちろん、人間の生活なんてほとんど見てない奴、見ても変なプライドで頑なに真似しない神も多いけど、俺やヘレネは人間の影響を結構ストレートに受けてる派。
そういった点でも、彼女には今回の頼み事をしやすい。
まあ、頼みごとした相手は、現在前向きには見えないが。
「人間として転生してみたいってのはわかったけどさぁ。自分の世界でやりなさいよ、そういうのは。わざわざ私の世界でやらなくてもよくない?」
「いや、自分の世界だと隅ずみまで知ってるからな、驚きがない。せっかく人間として転生するなら、やっぱり新鮮さ、みたいなのが欲しい。ゲームでもほら、俺たち『ネタバレ』する奴は神罰与えたくなる派じゃん?」
ゲームってのは、俺たちとは別の神が担当する世界で、人間たちが発明した娯楽だ。
他の神はあまり興味がないようだが、俺とヘレネはお互いゲーム好きで、その世界から取り寄せて楽しんでいるのだ。
もちろん神の能力なら、ゲームをプレイしてなくても事前に内容を知ることは可能だが、そんな野暮な真似はしない。
一度、警告を与えたにもかかわらずネタバレしやがった神を、その世界もろともヘレネと協力して滅ぼした事さえある。
ひどいって?
そいつは推理もので、犯人バラすという暴挙に出たのだ。
妥当すぎる処置だ。
ま、神自体は滅ぼしたところでそのうち復活するけど、一から世界創るのは結構面倒なので、それなりにアイツも懲りたハズだ。
「んー。それはわかるけど⋯⋯やっぱりダメ」
「なぜだ?」
かたくなに反対するヘレネ。
──理由をいちいち聞き出すのは面倒なので、ちょちょいと相手の心を読み、理由を探る。
ほほう⋯⋯ひとりで納得し、理由を口にした。