1.転生してみよう
混沌は「可能性」に満ちていた。
混沌はその「可能性」から、多数の世界と、力を持つ存在たちを生み出した。
当初、力を持つ存在たちのことを指し示す言葉は存在しなかった。
呼ぶものがいなかったからだ。
やがて、ある世界の、ある大地に「人間」が生まれた。
彼ら人間は、力を持つ存在を認識すると、自分たちを導く者として呼び名をつけた。
──「神」と。
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「人間になりたい?」
「うむ」
そんな「神」こと俺「オメガテウス」が発生して、早何十億年。
俺は別世界(別区域担当)の神、ヘレネを訪ねていた。
本来は一定の姿を持たない俺たちだが、それはそれで不便なので「アバター」と呼ばれる、人間を模した仮の姿を今は具現化している。
俺は黒髪黒目の、どこにでもいそうだけど、よく見れば目に憂いがあり「この人、私がいないとダメになっちゃいそう!」感が強い、タキシードを着た青年の姿。
ヘレネの姿は、純白のドレスに身を包んだ金髪碧眼の美女だ。
まあお互い、飽きたらチョイチョイ「アバター」変えるけど、ここ千年くらいはお互いこの姿だ。
あ、でも前回とドレスのデザインが違うな、胸元がざっくりあいている、眼福眼福。
「ほら、俺たちが人間作ってから、結構経ったじゃん?」
「そうねー」
ヘレネに言いながら思い出す。
人間がいない頃は退屈だった。
コツコツね、世界を創ってたの、そりゃあもうコツコツと。
おんなじように生まれた奴らとさ、「お前の担当、ここからここね」って区切りながらね、みんなコツコツ創ってた。
世界創世って、めちゃくちゃ地味な作業なわけよ。
やることだけは多いし、基本的には自己満足だしね。
で、たまに「神」同士でお互いの世界を見せあったりして「お前の世界、めっちゃ良い感じだな(ま、俺の世界の方が良い感じだけどな!)」とかやってたんだけど。
んで、その世界の一つで「人間」っていう、それまでの生き物に比べたら、頭が良い生き物を作った奴がいた。
人間は見てて結構面白い、というのが神々で話題となり、その結果、神たちの間で「人間創出ブーム」が起きたのだ。
「でさ俺の世界、最近予言とかできるだけ控えてるのよ」
「あー私も、最近やってないね。その辺は大体『偽神』任せだわ」
俺の言葉に、ヘレネはうんうんと頷く。
『偽神』ってのは、その世界の表向き信仰されている神だ。
俺たちは影のフィクサーって感じで、最初の頃と違って表に出ないことも多い。
人間たちは、最初の頃は文化もないほぼサルだったんだけども、サルはサルなりにいろいろ学んでね。
俺もいろいろ見込みありそうな奴に「啓示」や「預言」与えたりして、成長の方向性をそれとなく誘導してたのだ。
で、文化なんかが発展していったわけだけど。
でも、そんなことしたから俺の存在も人間にバレちゃって。
やつら、俺のこと「神」って呼び出したのよ。
これはどの世界でも大体同じ流れで、俺達はお互いの事を「神」って呼び始めた。
ただ、神たちは直接人間とやり取りするのが面倒になったら『偽神』を設定して放置している。
この『偽神』自体が、俺たち本当の神を知らないこともザラだ。
自分を本物と思っているのだ。
で、俺が創った世界の人間に対しては、親心みたいな気持ちもあったんだけど、あんまり過干渉は良くないな、と。
甘えちゃうからね。
それで、世界に変化を与える手段として行ってた「啓示」や「予言」は控えて、ちょっと軌道修正したわけ。
「最近はもっぱら、転生者呼んでるよ」
「あー、私それ結構やるわ、一気に文化レベル上げたい時とかいいよね」
それで思いついたのが「別の世界」で死んだ奴を、記憶とか残して呼ぶって方法。
ただ、こっちの都合だけで呼ぶのもなんなんで、ちょっと俺の力分け与えたりして特別扱いしてさ、まぁうちの世界を満喫してもらいつつ、いい影響与えてくれたらラッキー! みたいな感じで。
で、そういったいわゆる「転生者」を観察するのが、最近のマイブームだったわけだけど。
目論見通り、彼らは俺の世界にいい意味でも、悪い意味でも、色々な影響を与えてくれた。
本来、俺の世界に存在しなかった知識や技術の導入、先進的な思想の流布とかしてくれてね。
俺、自分の世界を「魔法文明と機械文明のハイブリッド」にしたかったから、ちょうど良かった。
で、俺の世界に来た「転生者」たちには、共通点がある。
⋯⋯楽しそう、なのよ。
なんか、すっごい楽しそうなのよ、転生者たち。
いや、呼んだ直後は、「死んだのか⋯⋯」って暗くなってたり、「元の世界に戻してください!」とか言うんだけどさ。
いざ、ちょっと力を分け与えて、転生させたあとは、すっごい楽しそうなの。
最初はそれなりに戸惑うんだけど、世界に慣れたあとは、もうすっごい転生人生満喫しちゃってさ。
「我が世の春、謳歌してます!」
そんなスローガン掲げそうなくらい、はしゃいでるんだよね。
それ見て思ったわけ。
俺も、あいつらみたいに知らない世界で、転生人生やってみよ、って。