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努力は必ず報われるというけれど

作者: 立川梨里杏

自分の受験生時代を思いながら書きました

努力は必ず報われる。

その言葉が本当なら自分は今頃大学生だっただろう。この世の中は不平等だ。1時間かけて10を理解する人もいれば2時間かけて5しか理解出来ない人もいる。たまたまはった山が当たった人もいれば掠りもしなかった人もいる。本番で自分の最高の出来を披露できた人もいれば模試では取れていたのに本番で頭が真っ白になる人もいるだろう。そしてその本番は一年でたったの一度だけなのだ。この世の中は残酷なまでに平等な線引きをして合否が決まる。

馴染みのない場所に試験を受けに行って、何とか教室まで辿り着いて。周りは皆参考書やらノートやら単語帳やらを広げている。自分一人が取り残されていくようなあの静寂が、張り詰めた緊張感が、今にも呼吸が止まりそうな閉塞感が、たった一回で全てが決まる本番が迫っているというプレッシャーが大嫌いだ。

試験が始まって皆が一斉に紙をめくり出す音、椅子に座っているのに地に足をつけていないかのような宙ぶらりんな感覚。何を書くべきか、思考が空回りする。そうして突きつけられたのは三文字の試験結果。悲しさよりも悔しさよりも先に感じたのは徒労感。またあの生活を送るのか、深く溜息をついた。


受験票、筆記用具を執拗に確認して玄関へ向かう。靴を履くのは左から。

「行ってきます」

ここまで応援してくれた母に向けての言葉。これが受験生として言う最後の日になることを願いながら。


受験会場に着き、大きく息を吸い込む。何だか空気がピリリとしている匂いがする気がする。教室に着き受験票の番号と自分の席の番号を何度も照らし合わせる。受験票を机に貼ってある番号の下に並べてまた確認する。ギギッと椅子がぎこちない音がして自分が今緊張していることに気づく。体が強張る。喉が乾く。暖房は効きすぎているぐらいなのに寒気がする。マフラーを外しコートを脱ぐ。余計に冷やりとした。バッグから筆記用具を取り出し、消しゴム、シャーペンを2個ずつ取り出す。シャー芯を念のために補充しておく。付箋だらけの単語帳、書き込みすぎてボコボコになった参考書、自分が間違えた問題だけを集めたノート。それらを手に取るとストン、と落ち着いた。身体の強張りが解ける。地に足をつけてしっかりと椅子に座る。参考書を開き、自分が今確認しておきたい部分を最後に見る。自分の手で書いたメモはどんな立派な参考書よりも頭に入りやすい。


試験官が入ってきた。試験問題が配られる。背筋を伸ばし、目を閉じて、大きく息を吸い込む。両手を合わせる。この手が真っ黒になるまでシャーペンを握った。眠い日も、風邪をひいた日も、周りが先に受かっていった日も。毎日、毎日、机に向かったこの手。


努力は必ず報われるかは分からない。それでも報われると信じて突き進んで行くしかない。

付箋だらけの単語帳、書き込みすぎてボコボコになった参考書、自分が間違えた問題だけを集めたノート。

努力した結果は分からないが努力したという事実は揺るがずに背中を押してくれる。

目を開けて、大きく息を吐き出す。


「始め」


合わせていた手を離し、机に向かった。

読んで頂きありがとうございました!

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