6話 初仕事と原石
6話更新です。
一時はどうなるかと思いつつ何とかうまく両立できてます。これからもがんばるので応援よろしくお願いします。
感想・評価もお待ちしてます。
それではどうぞ。
ミリィ入学から数日。当初は一つ年上ということもありクラスにとけ込めないのではと心配した双牙だったが、本人の人当たりの良さと真衣やみぞれ、海斗の尽力もあり無事クラスの一員となっていた。そんなある日クラスに蓮花と幸人がやってきていた。
「今日はどうしたんだ姉さん?」
「仕事よ、双くん。」
「仕事というとつまり。」
「そ。人事委員の初仕事を持ってきたの。幸人。」
後ろに控えていた幸人が数枚のプリントの束を机の上に置く。
「これが生徒会で選別して人事委員に回すことになった依頼書だよ。」
「なになに。」
興味津々に覗き込むみぞれ。他の二人も同様のようだ。
「女子剣道部からの指導依頼に野球部からの助っ人依頼。」
「ファッション部からのモデル依頼に演劇部からの出演依頼ですか。こちらはできれば二人共と書かれてますね。」
依頼書を確かめていく双牙とミリィ。
「期限付きなのは、どれとどれだ?」
「急ぐのは剣道部だけですね。来週末ですからあまり時間はないですね。」
「あとは野球部は夏休みの一日だけ。演劇部とファッション部は、文化祭までって今から気が早いな。」
「早いうちから確保しておきたいという意図ではないでしょうか?」
「そうだろうな。どちらにしろ受けるとしてもこの二つのどちらかに絞るか二人で分担するかだな。」
「そうですね。一度双方の責任者を交えて話し合いが必要かと思いますが。」
「同感だ。姉さん、セッティング頼めるか?」
「わかったわ。手配しておく。」
「頼む。」
3人で話し合い方針を次々と決めていく。幸人はそれを静かに見守り、海斗たちはその手際の良さに唖然としている。
「スケジュールはどうだ?」
「双牙様は問題ありませんが私は来週いっぱい道場等のスケジュールがありますので無理ですね。」
「わかった。女子剣道は俺が見よう。」
「野球部の方も俺担当だな。ミリィ、詳しい日程を聞いてスケジュールに入れといてくれ。」
「かしこまりました。」
「姉さん、この四つで全部か?」
「最初だからね。できるだけ減らしてみたの。ホントは助っ人の依頼がもっとあったんだけど抽選でとりあえず一つ決めたの。また夏休み前に募集するつもりよ。」
「そうか。」
それを聞いて少し考え込む双牙。
「夏休みは確か8月からの一月半だったな。」
「そうよ。」
「だったらミリィから俺とミリィのスケジュールを聞いてあと2つずつぐらい募集してくれ。」
「わかったわ。話し合いだけど、早い方がいい?」
「そうだね。内容の方も聞いてみたいし数日中に頼む。時間は昼休みがいいかな。」
「わかった。ミリィ、スケジュールは今日中にお願い。帰ってからでいいから。」
「承知いたしました。」
蓮花はそのまま幸人と自分のクラスに戻っていった。
「女子剣道部は今日の放課後からさっそく取り掛かるかな。ミリィ、家に連絡して俺の道着と道具一式を持ってくるよう手配しといてくれ。」
「かしこまりました。」
すぐさま連絡を取り始めるミリィ。双牙は海斗たちと談笑を始めていた。
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放課後、双牙は武道場の前に来ていた。
「近くで見るとますますでかいな。さて行くか。」
玄関を入り二階へ上がる。すると竹刀で打ち合う音と素振りをするときの掛け声が聞こえてきた。剣道場の扉を開くと4面の試合ができるスペースがあり、そこで40人ほどの男女がわかれて練習に励んでいる。
「あれ?川上じゃないか。どうした?」
聞き覚えのある声に呼ばれ右を見ると担任の三谷理月が道着姿で立っていた。
「剣道部の顧問って三谷先生だったんですか?」
「そうさ。川上こそどうしたんだいこんなとこで。海斗にでも用事か?」
「いいえ。今日は人事委員としてきました。」
それを聞いて理月は納得がいったようだ。
「そういうことか。ちょっと待ちな。北条!!ちょっと来な!!」
一人の生徒を呼びだす理月。やって来たのは防具をつけた先輩らしき女子生徒だった。
「こいつがうちの女子部部長の北条だ。うちには3年がいないから2年で部長をやってるんだ。」
「北条茜です。君が来たってことはうちの要望が通ったってことなのかな?」
「はい。試合前日まで指導を手伝うことになりました人事委員の川上です。よろしくお願いします。」
握手をする二人。茜は黒髪をポニーテールにした明るい女性だ。身のこなしから結構な実力者だと双牙は感じた。
「私のことは名前で呼んでね。それじゃみんなに紹介するね。」
「ちょっと待ってください。その前に二人に少し確認したいことがあります。いいですか?」
「かまわないよ。ここじゃなんだ。教官室に行こうか。」
「「はい。」」
3人は教官室に移動した。そこはロッカー二つに戸棚が一つ、それと机といすがあるだけの簡素な部屋だった。理月は自分の席に座り、双牙は茜の出してくれたパイプ椅子に座る。
「で、確認したいってのは?」
「はい。俺がここで何をしたらいいかと部員の状況とレギュラーについてです。あとで試合も見せていただきたいのですが、それによって教えることも変わってきますから。」
「なるほどね。やるからにはきちんとってわけか。」
「はい。自分も武術家の端くれですから。」
「わかった。北条、説明してやれ。」
「わかりました。」
茜は戸棚からファイルを取り出しその中から一枚の紙を取り出して双牙に手渡す。
「これがうちの部員名簿よ。部員数は24人。レギュラーは・・・・」
そのあとレギュラーの戦績、得意技、弱点などを詳しく聞いて行った。
「ってところだけど。」
「わかった。それで依頼した詳しい理由を聞かせてください。」
「来週の土日にな県下の高校の女子剣道部が集まる大会があるんだ。うちは毎回上位に名を連ねる強豪なんだが、今年は3年がいないこともあって一番のライバル校である千川高校に負け越していてな。この大会で何とか一矢報いたいんだ。」
「そこであなたに指導を頼んだの。川上流師範の実力を持つあなたならいい方法を知ってると思って。」
「なるほど。・・・・・わかりました。ではまず練習風景と試合を見せていただきましょうか。試合はできるだけ同じレベルの人同士でお願いします。」
「わかった。それでは行こうか。みんなに紹介せにゃいかんしな。」
「はい。」
教官室を出ると茜は部員を集める。
「皆。今回は私たちの要望が通り人事委員から川上君が指導に来てくれました。これから試合の日まで私たちに指導をしてくれます。川上君は川上流の師範の資格を持つ武術のプロです。指導にはきちんと従ってください。」
茜が話している間目を輝かせながら双牙を見ている部員が何人かいた。不思議に思い双牙が理月に尋ねた。
「ああ。お前のファンクラブのメンバーが何人かいるんだよ。たぶんそいつらだろ。」
それを聞き内心憂鬱になる双牙。
「ちなみに北条もだからな。」
さらなる理月の追い打ちに頭を抱えたくなる双牙だった。
「それじゃあ、本人から一言あいさつしてもらいましょう。」
茜に促され一歩前に出る。
「今回皆さんの指導をすることになりました、人事委員の川上双牙です。試合に勝ちたいからという理由なので少し厳しくもなると思います。教えるからには皆さんにも真剣にやっていただきます。先ほど俺を見てぼ〜っとしてた人もいましたが、そんなことしてたら痛い目を見ると思ってください。無論手加減はしますが。とにかくまじめにやっていきたいと思いますのでよろしくお願いします。」
双牙があいさつを終えると拍手が起こった。それが終わると理月が少し補足する。
「ちなみに川上の姉である生徒会長からの情報によると、武術が絡むと多少容赦がなくなるらしいから、お前ら気いぬくなよ。本気で酷い目にあうぞ。」
理月の言葉に多少顔の引きつった女子部の面々だった。
「ともかく、練習再開するわよ。すぐに取り掛かって。」
練習を開始する女子剣道部の面々。さっきの理月の言葉が効いたのかみんな真剣だ。双牙はというと真剣な面持ちで練習を見ながら時折理月と何か相談しノートに書き込んでいく。
−何してんだろう?いったい何をメモしてんのかな?−
内心そんな疑問を浮かべつつも茜は練習メニューをこなしていく。練習も終盤に差し掛かり道具をかたずけ試合の準備をする。すると双牙は道場から出ていく。準備を終えて理月から集合がかかり集まると、道着に着替えた双牙が入ってきた。
「それでは試合形式の練習を行う。組み合わせはそこのホワイトボードに書き込んでおいたから後で確認してくれ。それと今日は1人休みで奇数なので、北条は川上と試合だ。」
驚いて双牙を見る茜。視線に気づいた双牙は軽く会釈をする。
「質問がないなら準備にかかれ。審判は手の空いてるものがやれ。では、始め!」
素早く対戦相手を確認し散っていく部員達。しかし茜は理月のもとへ向かった。
「先生、どうして私の相手は川上君なんですか?」
「俺が頼んだんですよ、茜先輩。」
茜の疑問に答えたのは後ろにいた双牙はだった。
「練習を見ていて部員の皆さんの特徴や癖は大体把握できました。あとはどんな試合をするかと実力を見るだけです。そこで重要なのがトップの人間の実力を正確に把握することです。それさえ知っていればあとはそこから全体の実力が予測できますからね。そして実力を測るには戦ってみるのが一番ですから。」
「そういうことなら。それじゃあよろしくね。」
納得した様子でそれだけ言い残すとほかの部員達のもとへと向かった。双牙はビデオカメラをセットし試合が始まるのを待った。試合が始まると練習のとき以上に真剣なまなざしで見て事細かにメモをしていく。レギュラー同士の対戦になると思った以上に良かったのか少し笑みが顔に浮かんでいた。
「それでは始めようか。審判は私がやるよ。」
審判に理月が入り、双牙と茜の試合が始まる。
「茜先輩。この試合ちょっとルールを変えさせてもらうよ。」
「どういうこと?」
「俺は最初の一分一切手を出さない。ただ避けるだけ。次の一分間は防御だけだ。残りは普通に相手をする。」
「わかったわ。」
「では始めましょう。」
顔を引き締める茜。リラックスしてかまえる双牙。
「一本勝負、始め!!」
理月の言葉と同時に一気に茜は距離を詰める。そして間合いが詰まったと同時に攻撃を仕掛ける。面、胴、籠手と次々と狙いを定め仕掛けるが全て紙一重で見切られる。
「どうした、茜先輩。単調な攻めでは俺は捉えられませんよ。」
自分の得意なコンビネーションを使った連激を繰り出すもそれも見切られてしまう。
−なんで!?何で避けられるの!?何か、何か突破口があるはず。それはどこ!?−
自分の考えうる攻撃パターンをすべて試していく茜。
−ほう、なかなかだな。−
双牙が感心している間に1分が経過する。その直後に来た剣戟を竹刀で受け止める。
「さあ、防御をはじめます。」
さらに手数を増やし攻め続ける茜。その中で彼女あることに気付き始める。
−あれ?逆胴の防御が甘い。なぜだろう?−
逆胴とは侍が普段刀を差している側の腰。右利きなら左腰、左利きなら右腰のことで鞘があり切りにくいことから切りやすい胴の逆側という意味で逆胴と呼ばれる。現在の剣道では左腰を打つことを逆胴という。
−囮かな?でも隙といっても一瞬だし。でもこれしか方法がないなら!!−
茜は覚悟を決めるといくつかフェイントを放ち一瞬で来た隙をついて逆胴を打つ。
パーン!
竹刀で胴をたたいた時のきれいな音が響く。一瞬の静寂。次の瞬間には歓声を上げる部員達に茜は取り囲まれていた。双牙は驚きを隠せずただそこに立ち尽くしている。部員達の囲みを抜け出してきた茜に双牙は静かに問いかける。
「なぜあの時逆胴を狙ったんですか?」
「何とかしようと思っていろいろしてたら一瞬逆胴に隙ができた気がしたの。何度か試してみたんだけどやっぱり一瞬隙ができてる気がした。だから思い切って打ちこんでみたんだけどね。それが偶然うまくいったみたい。」
そのまま一礼して部員たちの輪に戻っていく茜。その場に立ち尽くす双牙に理月が声をかける。
「どうした川上?北条に一本取られたのがそんなにショックか?」
「・・・・・・いいえ。むしろその逆ですよ先生。」
「逆?」
振り向いた双牙の顔はうれしさに満ち溢れていた。
「先生、俺この学校に来てよかったよ。あんなとんでもない原石見逃すところだった。」
「どういうことだ?北条がどうかしたのか?」
双牙はニヤッと笑いながら答えた。
「これは秘密だよ先生。茜先輩はミリィ以来の逸材かもしれない。」
「楽しそうじゃないか。そんな顔もするんだね。」
すべての試合が終わり集合した部員達。
「今から川上流で練習の後必ずやるマッサージを教えます。これから教えていく練習は普段と同じ時間でも内容は数倍ハードになります。そこで必ずこのマッサージを覚えて帰って、寝る前にやって湿布張って寝てください。しないのとはかなり違うはずです。騙されたと思って今日からやってみてください。」
そう言ってから全員で手順を教えながらマッサージを始める。部員達はみんな真剣に取り組んでいた。
「はい、ここまでです。これを寝る前に2セット必ずやることを忘れないでください。」
「では、本日はここまで。解散!」
理月の声とともに更衣室に向かう部員達。双牙はその中にいた茜を呼び止めた。
「茜先輩、ちょっといいですか?」
「なに、川上君?」
「今日放課後用事あります?」
「ないけど・・・・。どうかしたの?」
「今日この後俺につきあってください。」
「・・・・・・・・・・・は?」
笑顔で言う双牙に顔を赤くして立ち尽くす茜だった。




