アリとキリギリス
1年間、たくさんの高校演劇を観てきて心に来たものを軸に書きたいように書きました。
なので文もくちゃくちゃだったり薄く感じてしまうかもしれません。ご了承ください(*・ω・)*_ _)
ぜひとも読む前や後に童話の教訓と現実の矛盾とを考えていただけると幸いです。
ザザザザザ
そんな不協和音が挟まれながら画面にはキリギリスの姿をした大人が映し出された。
画質の悪いアナログ放送のそれを私は食いつくように観ていた。
『それじゃあ今日はここまで!また来週〜』
そんなセリフで締めくくられるこの番組は子供達に正しい道徳概念を伝えることをテーマとしていた。まあよくある番組だ。
「ばいばぁーい!」
はっとした。私は教室に一人ぽつんと取り残されていた。外は既に暗く夏の涼しい風が少し空いていた窓の隙間から流れてきた。時計を見ると既に8時をまわっていた。
「寝てしまった…のか」
意識がはっきりするにつれて徐々に自分の置かれている状況に焦りを覚えた。 その後、冷たい視線が私を指し続けたことは言うまでもない。
ザザザザザ
『どうもご機嫌よう!!今週もみんなに会えて嬉しいよ!!さあ、今日は何が起こるのかなぁ〜?』
今日も始まった!幼稚園は楽しいけどやっぱり金曜日のキリギリスさんたちに会えるのはなんか違う意味で楽しい!
「おかあさーん!キリギリスさん始まっちゃったよぉー!」
その声にお母さんも駆け寄ってきて私はお母さんの膝の上に座ってキリギリスさんたちをみていた。
『ぼくたち今度の運動会のかけっこで1位をとるんだ!だから今、猛特訓中なんだ!』
「アンタくんがんばれー!」
わたしはキリギリスのアンタくんを一生懸命応援した!
『みんな、ありがとう!みんなのおかげで1位をとることができたよ!頑張ってよかったよ!』
わたしはそのことが嬉しくて泣いちゃった。
『それじゃあ今日はここまでまた来週〜!!』
「ばいばぁーい!」
わたしは笑顔で手を振った。
「ね、お母さん。頑張るって大事なんだね!」
「そうよ。」
お母さんはニコって笑った。
「お母さん!!私ね!キリギリスさんみたいになるのが夢なの!」
「…また……。」
最近、こればっかりだ。あんまり思い出したくないのに。
「嫌になる。」
私はそう呟き制服のまま倒れていた体を起こした。…とりあえずお風呂にはいろう。
「ふぅ」
お風呂から出た私は息をついた。
今週は色々あって疲れているのだ。水曜日まではテストがあって昨日から…何も特にはないけれど…ないけれど。とにかく疲れたのだ。
「だから、あんな夢をみるのも身体的なストレスからだ。」
そう自分にいいきかせ私はお風呂をでた。
時計の針は3時を示している。いくら明日学校がないと言ってもこの時間からすることもないと思い私は再び床についた。
「なぁなぁ!今度の学活の時間さ!ドッヂボールしようぜ!」
クラスの男子の言葉に皆が「いいねぇ!!」とか言って騒いでいた。
「はい!」
私はビシッと手を挙げた。
「なんだよ?」
クラス全体の視線が自分に集中する。
「私!ドッヂよりトランプがいい!!」
その言葉でクラスの空気が冷たくなっていくのが伝わってきた。
「…なあ?ドッヂでいいよなぁ?」
男子が空気を変えようと確認をとった。
また皆が騒ぎ出す。
「でも!ドッヂボール、この前もやったじゃん。それにあの子達この前、ドッヂ飽きたって言ってたよ!」
私は言いながら女子の一部を指した。
さされた女子達は焦り出して上ずった声色で
「何言ってるの。私たちドッヂやりたいよ。好きだもん。」
と答えた。
「だめだよ。自分の意見はきちんと言わなきゃ」
教室がまたざわつく。
「キリギリスさんたちも言ってたよ!意見は大切にしないと!」
教室は笑い声で満たされた。
「なんで」なんて声はかき消されてしまった。
先生は何もしてくれなかった。
「お前さ、まだあんなの見てんの。中学生にもなって。」
笑いながら男子が言った。
「え?」
いきなり変なことを言い出すものだから何のことかわからなかった。
「キリギリスとか…」
「おもしろいじゃん。」
私が返すと決まって周りの人達は大笑いをする。
「なんで笑うの?」
私は『わからないことはすぐに聞くこと』を心がけていた。
だから周りの反応に疑問を抱いた私は強めの口調で言った。
すると連中は言い方に不満を覚えたのか「はぁ?」とか「ウケる」とか言ってまた笑い出した。
「…あの時からだ。」
布団に入った私はなかなか眠れず昔のことを思い出していた。
─あの時からだった。私が周りからあの目で見られるようになったのは。
ザザザザザザザザザザ
『努力は報われる』
『嘘はついてはいけません』
『個性は大事にしなさい』
『自分の意見はきちんと発言しなさい』
『いつかは幸せになれます』
『仲間を信じなさい』
「位置について。よーいドン!!」
メンバーの1人目が勢いよく駆け出した!
私たちは中学最後の体育祭でリレーにせいを出していた。
あっという間にバトンがアンカーの私まで渡されようとしていた。ラッキーなことに私たちのクラスは2位に大きく差を付けて1位を保ってけれていた。
「ハイ!!」
バトンを受け取った私はうるさいくらいの声援の中、夢中で走って走って、走り続けた。
1位にならなきゃ
その一心だった。折角皆がここまで繋いでくれたバトンを無駄にはできない。
「わっ」
一瞬頭が追いつかなかった。
目の前には地面に落ちた赤いバトン。
私たちのクラスのだ…。その時やっと自分はコケたのだと2位だったクラスが真横を通り過ぎようとしているのだと理解した。
私は急いで立ち上がろうとした。
しかし足が動かない。どうやら捻ってしまったようだ。
周りの視線が自分に集中する。
中からは「早くしろよ」とか「これはもうダメだな」とか「あいつのせいじゃん」なんて言葉が聞こえてくる。私は耐えきれなくなり泣いてしまった。競技のあと私は保健室に運ばれた。
みんなは「大丈夫だった?」「惜しかったね」って言ってくれて嬉しかった。
きっと『努力は実らなかったけどこの友情の大切さに気づかせてくれる』大事な出来事だったんだよね。やっぱり『友達はだいじにする』ものだな。
なんて思って持ち場に戻った友達をあとに保健室で一人だった私は泣いてしまった。
「なんかこんなシーン、キリギリスにもあったな」
小さい頃から好きだったあの番組は私が去年の春に終わってしまった。
すごく悲しかったけどキリギリスたちが教えてくれた教訓は私の中で生き続けていた。
小さい時はみんなそれぞれの個性が強すぎてたまに喧嘩になっちゃってたけど仕方ないよね。キリギリスさんたちも言ってたし。『個性は大事にしなさい』って。みんなそれでだもんね。
「私は何も変じゃないよね」
そのつぶやきは外から取り残されたように静かな保健室に消えた。
─ここまではよかったんだ。
ミスを犯しても挫折せずに立ち向かう。
努力は美しい。理想だった。
次の日、私が学校に着くとそこはまるで私の知っている学校とは違う学校のようだった。
建物や教室には全く変わりはない。物理的なものではなくて…何が違うのかわからないけど確実に何かが違うのだ。
気持ち悪い。
「誰か。」
伸ばした手は誰かに届くわけでもなかった。
踏み出した足は何も進むことなく崖から落ち開いた口は何一つ音が出ずぱくぱくと動かすしかできなかった。更には目からの訴えも全て屈折していった。
そのうちに私は私の存在が耳ひとつでしか無いのではないかと考え始めた。ただ聞き流すことしかできない。
「あぁ」
─そうだ。結局。
『努力は報われなんかしないし
『嘘はつかないと生きていけないし
『個性は大事にしたらいじめられるし
『自分の意見を発言なんかしないで周りに合わせないといけないし
『いつかは幸せに…っていつだよ
『仲間を信じたら裏切られるじゃん。
なんだよ。正しい道徳概念って。
結局、独りじゃんか。
高校に入ってもそれは変わらない。
私の中身はあの時のままだ。全く前に進んでなんかない。
「きっと私は存在しない方がいいんだ。」
いつしかそう考えるようになっていた。だから私は周りに合わせて「YES」とだけいい続けた。まるで反乱の余地もなく時間をただ浪費するだけのはたらきありのように。
そうすれば辛い思いもしなくて済むと思った。
…だが現実は違った。
周りからのあの目は変わらなかった。
あの異物を見るような目だ。
なにも、なにも変わらない。
『正しい道徳概念』とやらを元に行動しても
存在感を消して「みんなの意見に合わせて」も。
なぜ人はあんなに笑えるの。
なぜ人はあんなに怒れるの。
なぜ人はあんなに泣けるの。
そんな疑問が貯まるだけだ。
ああ、人に合わせるのが気持ち悪い。
だけど人に合わせないと。
人であることが恥ずかしい。
それでも私は人なんだ。
…本当に…人間……なのか…。
人間は理不尽な生き物だ。
『個性を大事にしろ』なんて言っておいて人に合わせないと人間の世界から殺される。
でも、個性がない人間なんて死んでるも同然じゃないか。
私は正しい道徳概念とやらに飲まれてしまったのだ。
きっとこの物語は私の物語じゃない。
私を内からも外からも縛り付けるキリギリスになり損ねたアリの物語なんだ。
─来世は私もキリギリスになれるかな。
お読みいただきありがとうございました。
いかがだったでしょうか。
少しでも共感していただけると嬉しいです。
ちなみに
「キリギリス」→「その世界に溶け込んでいるもの」
「アリ」→「キリギリスのように遊びたいけど努力を優先するもの」=「異物」
というつもりで書かさせて頂きました。
本当にここまでお読みいただきありがとうございました。