表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自殺競争  作者: 九尾 蜥蜴
6/11

第6話『着信』

通知音が鳥の鳴き声なのは、僕のLINEがそうだからです…。

「……」


大橋奏から受け取った携帯電話をぼんやりと眺めながら、布団に寝転ぶ…疲れ切って、起き上がる気力もない…


(…結局、コトの真相は分からないまま…だが、本当に彼女が “薬物依存者” だなんて、あり得るのだろうか?…)


少しもやもやした気分でいると、突如眺めていた携帯電話が、鳥の鳴き声の通知音を吐きだした…どうやら、それが「一件のメールが届いた」ということを知らせる音らしい。



…文面を見て、思わず生唾なまつばを飲んだ。



“突然こんなこと聞くのも悪いんだけど、もしかして、鞄の中身を見た?”



どうせ、「今日は楽しかったね!」とか、「次はどこへ行こうか!」とかと楽観的な言葉が並ぶものだとばかり思っていたから、こんなメールが届くなんて完全に想定外であった。


(そういえば…)


自分は、今日の昼に寿司屋で鞄の中身がアレルギー剤ではないかと尋ねた時、瞬時に彼女の笑顔が消えたのを思い出す…。


(…あの時に…鞄の中身を見たことを悟られた?)


どう返信すればいいのか…わからなかった。幸い…と言っていいのかはわからないが、このメールにはどこぞのSNSとは違い、所謂いわゆる “既読” がつく機能はないようで、こちら側に考える時間はあった…長考することが「嘘をつこうか迷っているのがはないか」という疑いに繋がることはなさそうだ。


(…どうすればいいんだ…)


結局その答えは見つからないまま、夕食の時間となってしまった…



食事中も、夕食のカップ焼きそばを食べるのを忘れてしまうほど、思考の海に沈んでいた…


もし、見てしまったことを告白すれば…きっと自分は真実を語られることとなる…大橋奏の本性を知ることとなる…自分は、それが何よりも怖かった…


だが…ここで嘘をつけば…事態を先延ばしにするだけだ…でも、いっそこのまま何も知らない方が…自分の中の “理想の大橋奏”にすがっている方が、はるかに楽なのではないか…?


夕飯を平らげた後も、自分は考え続けた…


考えて…


考えて…


考えて…



…世界は暗転する。





「…?」


カーテンの隙間から漏れた太陽の光が、自分の目を覚ました…どうやら、考えているうちに眠ってしまったらしい…今は正真正銘、日曜日の朝だ。


「……!」


完全に意識を取り戻すと、枕元に置いてある携帯電話に、通知が届いていることに気がついた。


…当然、大橋奏からのメールだった。



“昨日は変なこと聞いてごめんね!

あのメールはやっぱり見かなかったことにして!(>人<;)”


可愛らしい顔文字が添えられたその文面を見て、自分は肩をで下ろした。


…でも、本当にこれで良かったのかは自分でもわからない…ただ、その続きの文章に、思わず目を見開いた。



“良かったら、今日キミの家に遊びに行ってもいいかな?…私の家はお母さんがあまり人を入れたがらないから…お返事待ってます!⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾ ”



どこまで図々しい人なんだとなかあきれながら、母親に話を聞くことにした。もう午前9時を回っていることだし、おそらくもう起きているだろう。



一階に下りると、案の定母親は起床しており、死んだような目つきで煙草たばこを吸っていた。



「…お母さん。」

「……」

「今日、知り合いがここを訪ねるそうです…僕の部屋に入れてもいいでしょうか。」

「…へえ。あんたに友達ができるなんてね。…勝手にすれば。あたしは外に出てくるから…」

「ありがとうございます。」


一方的に攻め込まれているだけで、別に友達ではないと言いたい気持ちもあったが、訂正するのも面倒だった。


一旦、階段を上って自室に戻り、親の許可が取れた事をメールで伝えると、返事はすぐに帰ってきた。


“ありがとう!それじゃあ、今からそっちへ向かうね!”


メールを開いた瞬間だった…1階の方から、予想だにしない音が聞こえてきた。


ドンドンドン!!


「ごめんくださーい!」


思わず、唖然あぜんとした。まさか、最初の誘いのメールを送った時から彼女は既に門前に立っていたのだろうか…?


急いで階段を駆け下りる…


「雨宮クーン!」

「…大橋奏…。」

「あはは、出た出た!うん、そのフルネームで呼ばれるの…それが聴きたくてキミに会いたくなったのかもね!」

「…部屋は2階です。」

「はいはーい!お邪魔しまーす!」


彼女が“例の荷物”を持って家に入るタイミングで、母は煙草を片手に外へ出かけていった…


自分はゆっくり階段を上がり、彼女を部屋へ招き入れた…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ