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僕の青春  作者: ウツハミ
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物語を始めよう

 彼女を気になり出したのは中2の夏からだった。


 彼女は相も変わらず、普通の女の子を演じていた。

 そう、いつものように。彼女を取り巻く女の子達に上手く混ざっていた。



 特別なことは何も起きない。僕は机に座って、教壇に立つ先生の話を右から左へ、はたまた左から右へ聞き流している。いや、僕だけじゃないはずだ。隣の席の彼らだってそうなんじゃないだろうか。

 

 頬杖をつきながら僕は窓に目をやった。今日は灰色の雲が空を覆っていた。何となく気分が沈む気がする。それだって僕だけじゃないはずだ。

 少なくとも曇り空を見て気分が上がる奴を僕は見たことなかった。





 その時までは







 彼女は笑っていた。


 授業中に、その曇り空を見て、笑っていた。

 

 何故?


 高笑いをしているわけではない。それこそ授業中である。口角が少し上がっている程度だったが、明らかに嬉しそうで、楽しそうだった。

 

 いつの間にか僕はそれに見入っていた。

 

 

 

 放課後になるが雨はまだ止んでいない。

生憎、今日は傘を持ってきていない。昇降口の扉に背中を預け雨が止むのを待った。だいぶ勢いは弱まっているし、そこまで時間は掛からないだろう。それに急ぐ理由もないからわざわざ雨に濡れるのはいただけない。


 

 ぼんやりと空を仰いでいると、隣に見覚えのある顔があることに気づいた。

 

 彼女も傘を持ってきていないのだろうか。もし僕が傘を持ってきていたのなら、相合傘でも申し出れたかもしれない。いや、それはさすがに無理だな。


 すると彼女はその雨に向かって歩きだした。何の躊躇もなく雨に叩かれることを選択したのだ。

 その選択に僕はいささか理解が追い付かない。何故わざわざ自分から濡れにいく意味があるのか全くもって分からない。


 嬉しそうに雨の中を帰ろうとする彼女を僕は自然と追っていた。

 急ぐわけでもなく、幸悦とした表情で雨空を仰ぐ彼女に興味を抱いたのだ。


 元々僕は内気な性格ではない。だから気になることがあれば自分から首をつっこむこともしばしばある。




「何をしているの?」

 


 彼女に後ろから声を掛けた。彼女は振り替えるとニコッと笑った。


「今日は雨の日、なんだよ!」


 満足そうにそう答えた彼女の回答に僕は頭を抱えた。

 正直言って何を言っているのか分からない。意味不明。解析不能。

 彼女がバカなのか、僕がバカなのか、僕の中の秤は彼女方に傾いた。



「冷たいよ?」



「うん、そうだよ」



「なんで雨を避けないの?」



「避けたらせっかくの雨を感じられないじゃない」




 ―せっかく?せっかくの雨?



「雨が好きなの?」




「好きだよ」



 彼女がその言葉を発した瞬間に僕の心が少し揺れた。無邪気純粋な顔から繰り出されるその言葉と笑顔は僕じゃなくても何か思うところがあるだろう。



「なんで雨が好きなの?」



「…雨は全てを流してくれる気がするの。下らない関係も、理不尽な世の中の理も。雨の中でなら私は忘れられる」



 『やっぱり』 

 僕はそう思った。彼女は違う、彼女を取り巻く人達と、その人達の考え方と。

 彼女は独りだった。おそらくたぶん、僕のただの憶測に過ぎないけど。

 彼女は独りたったが1人にはなろうとしていなかった。常に、何かを埋めるかのように、人の人混みの真ん中に居ようとしていた。


 僕はそれを知っていた。見ていればわかる、少なくとも僕はわかった。



「君はわがまま、だね」



 僕の言葉に彼女は豆鉄砲を食らった鳩のように驚いた。まあ、豆鉄砲を食らった鳩の顔は見たことがないが、おそらくこの場合はそう言うのが正しいだろう。



「……なに?」


 彼女は曇った表情を浮かべたが、それを尻目に僕は続けた。



「言葉の通りだよ。君はわがままで傲慢で皆に認めて貰いたがっている」


 

「なにそれ」



 彼女は眉間にシワを寄せ、口を尖らせた。

 僕は知っていた、彼女のことを、見ていたから。僕の言ったことは全て当たっていた、だから彼女は機嫌が悪くなった。


 でも本当は、彼女は――



「でもって、君は寂しいんだろう?寂しいから、独りが嫌だから忘れようとするんだ」



 彼女は黙ったまま俯きかけた。


 僕は言った。

 


「だから僕が付き合ってあげるよ。僕が君を独りにさせない。寂しさを消してあげるよ」


 

 彼女は相変わらず眉間にシワを寄せながら言った。



「いや、無理です。ごめんなさい」



 僕の時間が止まった。なんかフラれた。彼女の本質を言い当て、彼女のことを誰よりも分かっているとアピールをしたのに、伝わらなかったのか。


 その場に変な空気が流れる。その空気だけは雨は流してくれなかった。



「あの、もう帰るんで着いてこないでくださいね」



 彼女の目が全てを語っていた。気持ちの悪いナメクジを見るような目を彼女は僕に向けていた。


 

 小さくなっていく彼女を目で追いながら、僕は立ち尽くしていた。



「え、今の告白?何考えてんの?」


 後ろから声をかけてきたのは佐々木だった。


「お前が珍しく女に話し掛けてるから見てたら急に意味わかんないこと言い出すし。何考えてんの?」


 佐々木はゲラゲラと腹を抱えて笑った。


「いやだって少女漫画のテッパンだろ?!強きなS男が強引に告りゃ大抵の女は落ちるって!」


「お前……」


 佐々木が可哀想な死にかけの虫を見る目で僕を見てきた。




「……オタクが漫画に影響されて、いきなり告白してんじゃねえよ!!あとお前頭ん中で絶対カッコつけて変なナレーションしてただろ!」



「なっ…!それは……」



 


 そう、僕はそういう人間だったのだ。内気な性格でないは嘘、気になることに自分から首をつっこむってのも嘘。



「僕はバカな、オタクな、気持ち悪い男なんだよ!悪かったよ!ああカッコつけてましたよ!ごめんなさい」


 僕は全てを投げ出したくなり叫んだ。すると佐々木が僕の肩に手を置き、凛々しい目で僕を見つめた。




「なあ!俺達で世界を変えてやろうぜ!」


 

 僕はその言葉に感銘を受けた。



「ああ!佐々木!やってやろうぜ!」


 

 僕と佐々木は拳を合わせた。




 ここから僕達の物語が始まるのだ。




 ちなみにだが、佐々木は、僕と同種である。


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