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本当に、死にたい?

作者: 紫宮月音
掲載日:2008/04/19

 やあ、久しぶりだね。

 どうしたんだい? こんな夜遅くにさ。

 外は大雨が降っているのに。

 傘も差さないで来るなんて。

 まあ、とりあえず立ち話もなんだから中に入りなよ。


 本当に久しぶりだなあ。もう一ヶ月くらい会ってなかったかな。

 最近どうしていたんだい? まったく連絡なかったじゃないか。

 あ、コーヒー飲むかい? 暖まるよ。

 ほら、タオル貸すから、そこのソファーで濡れた髪を拭きなよ。

 そのままじゃ風邪を引いても知らないよ。


 はい、コーヒー。

 ほら、もっとちゃんと拭かないと駄目だよ。まだ目元が濡れているじゃないか。

 あれ? 君、もしかして泣いているのかい。

 どうしたんだい、頑固な君が泣くなんて。

 ……え? 死にたいって?

 だから、どうして死にたいんだい? 泣いていたら分からないじゃないか。

 彼氏に振られた? それくらいのことで君は死にたくなってしまうのかい。

 自殺って――なに、君もしかして相談しに僕のところへ来たんじゃないだろうね。

 ……泣きながら頷かないでもらいたいなあ……



 ちょっとは落ち着いたかい? 君、三十分くらい泣いていたね。

 それで、本当に君は自殺したいの?

 たった一人の男に振られたくらいで?

 世界中には何億何千人もの男が存在するのに?

 ちょっと、痛いからぶたないでくれる……悪かった、僕が悪かったから。

 で、君は自殺の何を相談しに来たんだい? というか何故僕の所に来たんだ。

 詳しそうだからって……君は僕をどんな人だと思っているんだい。心外だな。


 どんな方法で自殺すればいいかって?


 そうだねえ。例えば……飛び降りとか、一酸化炭素中毒とか、睡眠薬とか……

 どうして止めないのか? 

 本人が死にたいといっているのに、他人の僕に何ができるのさ。

 薄情者。ひどいなあ。だったら僕のところに来なければよかったじゃないか。

 まったく。

 他には、ホームに飛び込んでみるとか、車道に飛び出してみるとか。

 あぁ、首吊りって言う方法もあったかな。

 古い方法だと、切腹とか? 笑いものにしかならなそうだけど。

 ……何、綺麗に死にたいの?

 はあ。あのね、君何か勘違いしていないかい?


 死っていうのはね、綺麗なモノなんかじゃないんだよ。

 

 よく、世界が汚れている、とか。

 醜いとかいうよね。

 だから、綺麗に死ぬとかって。

 死には綺麗もなにもないんだよ。

 ただ無があるばかりさ。

 一筋の光もない、誰もいない、無音の世界。

 そんなところに誰が好きで落ちていくものか。

 綺麗でもなんでもない、ただの暗闇なんだよ。

 今頃、綺麗だと信じて自殺した奴はきっと思っているよ。 

 自殺なんかしなければよかったってね。

 別に自殺をやめろといっているわけじゃないよ。

 ただ、君が死を綺麗なモノと思っているようだから――

 せめて自殺をする前に、知っておいてほしかっただけだよ。

 君がいう綺麗はどの綺麗なのかわからないけれどね。

 体の形を保ったままの……綺麗な死に方なのか。

 死、そのものを綺麗と錯覚しているのか。

 どちらにせよ、僕はどうでもいいけど。


 綺麗な死に方の方? 人に迷惑をかけたくない?

 

 うーん。難しい要求をしてくるね、君。

 綺麗って時点で無理だよね。迷惑かけたくないっていうのも。

 どんな方法でも必ず血は流れる……あ、薬系は出ないか。

 でも、腫れ上がったり、変色したりするかもしれないよ。


 例えば飛び降り自殺。

 鳥になるんだ、とか。

 自由になるんだ、とか。

 楽になれるとか思って飛ぶよね、勢いよく。

 何が鳥になるなんだろうね。

 実際は、潰れたヒキガエルじゃないか。

 道路にぐしゃっと張り付いて、醜いったらありゃしない。

 運が悪いと、人様の車の上に着地したりもする。

 飛んだほうも、車の中の人も、お陀仏だよ。

 それに、飛んですぐ意識がなくなるんじゃないんだよ。

 ものすごい速度で落ちていく風景を眺めているんだ。

 風で眼は開かないかもしれないけど。

 運が悪いと、地面に激突した後も意識がある。

 痛いよねぇ。頭なんか潰れてるのにまだ生きてるなんて。

 痛覚が麻痺してるならいいけど、無事なら悲惨だよ。

 痛い痛い、って思ってるのに、声は出ないし、眼は見えない。

 助かりゃしないのに、病院へ運びこまれる。

 何時間ももがき苦しんだ後、ようやく死ぬんだ。

 それとも、これで死ねる……って思ってるのかな? 

 もちろん、人に迷惑かけまくりだからね。

 飛び込みも同じだよ。

 駅のホームに飛び込めば、確かに即死する確立は高いだろうけど……

 その後が問題だね。

 駅員さんや、警察は大変だ。

 バラバラの死体を集めなきゃならないんだから。

 そのせいで、電車の運行はストップするよね、その路線は。

 急いでいる人、仕事で忙しい人、学生。

 みんな君のせいで遅刻してしまうんだよ。

 どこの誰かも知らない飛び込み自殺した人のせいで……ね。

 ほら、迷惑かかってるでしょう?


 え? 首吊りはどうかって?

 あれはあまりオススメしないな。

 迷惑は、死ぬ時点でかかってるんだから、このさい省くよ。

 あれはね、死ぬまで時間がかかりすぎると思うな。

 首が縄やら紐やらで絞められて、血液や酸素が届かなくても、すぐには死なない。

 呼吸困難な状況がしばらく続く。

 ましてや、首吊りは絞殺と違って、自分の重さで絞めるだろう?

 ちょっとやそっとの時間じゃ死なないと思うよ。

 首はギリギリ絞められ、視界はかすむ。

 血管が切れて、血の味がするかもしれない。

 汗もたくさんかくだろうね。

 青黒く腫れた舌が、だらりと口から垂れ下がるんだ。

 まったく綺麗じゃないだろう?

 

 睡眠薬? う……ん。あれはどうなんだろう。

 意識がすうっと薄れていくのかな。

 眠るように?

 それとも、何か苦しいのかな。

 僕は自殺なんてしたことないから、よくわからないや。

 あ、中毒系はやめたほうがいいよ?

 煙とか、蒸発したのとか使うんだから。

 万が一、君の部屋のドアが開いたままだったら?

 ゆっくり、少しずつそれは外に漏れるだろうね。

 実家とかだったら、家族が死ぬよ。

 マンションとかでも、巻き添えを食らう人がいるよ。

 君が迷惑をかけたいと思うのならば、やめておいたほうがいいよ。


 ねえ、本当に君は死にたいのかい?

 一時の感情じゃないのかい?

 生きたいといいながら死ぬ人だっているのに。

 それなのに、何故君は死を望むのかな。

 人はいずれ、死んでいくよ。

 君にはまだ時間はたくさんある。

 どうして死に急ぐのかわからないな。……やっぱり。

 

 僕の祖母なんだけどね、昔はとっても元気だったんだよ。

 運動が好きで、とにかく動くことが好きな、活発な人だった。

 その祖母がね、病気になったんだ。

 それも、もう治らない……末期。

 見つけたときには、もう手遅れの状態。

 開こうが、投薬しようがどうにもならない状態。

 それからの祖母はね、変わったよ?

 最初の数ヶ月はね、まだ元気なんだ。

 自分で動いたりもできる。

 でもね、その後が大変なんだ。

 体の痛みは薬で抑えられるけれど、動かなくなるのはどうしようもないんだ。

 リハビリをしても、筋肉は削げ落ち、硬くなっていく。

 ふらふら歩いて、転んで、骨が折れる。

 大きな痣ができる。

 動かないし、しゃべらない、まるで人形みたいに。

 食べたり飲んだりもしなくなるんだ。

 無理にすると、喉につまらせてしまう。

 それだから、トイレにも行かないんだよ。

 生理現象すら起きなくなるんだよ。

 そのうちには、舌も麻痺してきて、痛いっていえなくなる。

 僕は祖母が何を考えているのか、まったくわからなくなった。

 元気だった祖母の面影は薄れていって――

 よどんだ瞳の、しわくちゃの祖母が記憶に刻まれていくんだ。

 もう昔の祖母は思い出せないんだ。思い出せるのは、しぼんだ祖母だけ。

 今では、もうそれすらも思い出せないよ。

 確かに、祖母はそこにいたはずなのにね。

 不思議と思い出せないんだよ……悲しみが残るだけで。


 祖母は、嘆きながら、悲しみながら死んでいったよ。

 表情で、わかるよ。

 生きたいと願いながらも、死に飲み込まれたんだ。

 本当に、君は死にたいの? もう一度だけ聞くよ。


 本当に――君は自殺して、死にたいの?



 君の――その瞳。それは、何かを決意したときの瞳だね。

 たぶん、僕が何を言っても聞かないんだろうね。

 君は、生きることを望みながらも、死に食われた人がいると知っても。

 死は綺麗でもなんでもない、ただの虚無だと知っても。

 他人に多大な迷惑をかけると知っても。

 君は、死を自分で選択するんだね。

 ……他にも、道は、選択肢はあるのに、何故死に飛び込んでいくのか。

 何度見ても……やっぱり分からないな。僕には一生わからないよ。

 

 ……それなら、君に会うのもたぶん最後なのかな。

 君がこの後、どこかで自殺するというのなら。

 じゃあ、僕が君に最後のプレゼントをしてあげるよ。


 ――君を殺してあげる――


 え? 迷惑になるからいいって? 大丈夫だよ。

 僕は慣れているから。

 迷惑がかからなければ、平気でしょう?

 死にたがりの君に、僕が死を贈ってあげる。

 

 ちょっと、何で後ずさるんだい。

 何……遠慮する?

 あははっ。笑わせないでよ、もう。

 君は、今まで散々自殺したいといってたじゃないか。

 死にたいんでしょう? さっきもそう答えたよね。

 いい間違えた、なんて、いまさら却下だからね?

 僕は、迷惑がかかるとは感じていない。

 部屋を掃除すればいいだけのことさ。

 死に方は綺麗に殺せないかもしれないけどね。

 

 君は自殺したい、僕は殺したい。

 

 ほら、君と僕の利害が一致しているよ。

 これなら、君も安心して死ねるでしょう?

 ああ……君の勘は当たっていたことになるね。

 ふふっ。すごいなあ、女の勘って。

 君はどんな方法で殺してあげようか。

 ああ――大丈夫、苦しまないよう、すぐに楽にしてあげるよ。君は特別だから。

 なんたって、僕の親友だもの。


 さあ、そろそろ時間だよ?

 

 忘れてはいけいないよ、君は自分で死を選んだんだ。

 僕が強制したわけじゃない。

 僕はただ、手伝ってあげるだけさ。

 この選択は……重いよ?


 それじゃあ、僕から君への――最後のプレゼント。


 

 受け取ってもらえるかな?


 

お読みくださり、ありがとうございました。

本来この話は、小部屋に収納予定だったのですが……

予想以上に長くなってしまったので、単品であげました。小部屋には別のものをあげました。

自殺は、よくないと思ってるんですよね……

暗い内容でしたが、最後までお読みくださり――

どうもありがとうございました。


貴方がこの先、死を選ぶことがありませんよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一人語りの構成が好きです。たんたんと話が進んでいく分読みやすくもあり、死というテーマにも合っていると思います。
[良い点] 語りかけられるようで、柔らかい口調が心に染み渡ります。
[良い点] 最後の方好きです。 [気になる点] 特に無いんじゃ無いですか。 [一言] ほんとに殺して下さい。
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