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アリス  作者: 黒衣エネ
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狂気

人は何かを成す為に生を受ける。


造られた私たちも、そうでない者も等しく。


では『それ』を喪失した時、この身体と心は何処へ向かうのだろう。


「これで25体かな。」


スコーピオンの空の弾倉を抜き、新しい弾倉を叩き入れる。


出てきたのは全部通常型の『US-03』で」、僕は全てヘッドショット一撃で倒している。


25発の弾倉が今尽きたなら、これで25体撃破したと言う事になる。




「やっぱり、研究員は退避させて僕を捕縛する為に施設を空けたのか。」


様々な研究がそのまま放置されている。人工筋肉の試作品が置かれている部屋や、培養されている人工皮膚が並んでいる部屋もあった。


電源もそのまま、資料も広げられたまま、結果として罠に引っかかった形だ。





今僕が居るのは更に地下に降りた『BF2』。


セキュリティゲートをそれを守る『US-03』2体諸共破壊して、侵入している。やっぱりアラートは鳴らない。



「近づいているみたいだね。」


イグニスの下にだ。


『BF2』では、研究員の居住スペースの他に本格的な『サイボーグ』そのものに関する研究がされているようだった。


人工臓器に関する資料、サイボーグ専用の武装。僕が元居た施設から持ってきた道具や武装とほとんど同じ、正式採用型が並べられていたし、間違いない。





そして、今は『BF3』へと続くゲートの前に居る。


英語と日本語で書かれたフロア図ではこの『BF3』が最下層で『重要区画』で『手術室』と書かれている。



この下におそらくイグニスが。




「この下みたいだ。」


『みたいだな。』



間違いない、イグニスが居るとしたらこのエリアだ。



『BF2』の時と同じように、コーティングブレードでゲートを破壊して階段を下る。



より強い薬品の匂いが脳内コンピューターに記録される。


嗅覚も潰れている僕の機能を保管する為の機能だ。





『BF3』の主要ブロックの手術室は全部で4つ、全部がかなり大きな隔壁で閉じられていて、そのうち3つは使用されていない。


そして1つは『使用中』だった。




「・・・ここか。」


『手術室』という目的上、特にロックはされていない。3つのハンドルを回したら、重い隔壁は自動で開いた。


その奥に、更に自動ドアが見える。



自動ドアも、近づくと特に抵抗無く開いた。





「・・・やっと会えたね。」



更に強い薬品の匂いを記録、居た。




沢山の管と機材に繋がれ、台の上で拘束され寝かされている裸身の女の子。


僕より肉体年齢は1~2歳程度若く、身長は160cmほどで、少し痩せている。


胸には『IG-11』、右肩には『11』の文字が刻印されている。



深紅の長い髪はツインテールにしている、睫毛が長い愛らしい顔つきだった。




機材が心拍数や体温、脳波を表示する、異常はない。 



一方で、別の画面には彼女の人工臓器が正常に稼動していることを表示している。


起動はしていないみたいだけど、改造自体は完了しているみたいだ。



『こんなことが…クソが。』


重久君の憤る声が聞こえる。彼女はサイボーグとして『完成させられていた』のだからかな。



いや、中途半端なよりはいい。すぐにイグニスを連れ出せるのだから。


『US-03』が周囲に居ないか確認する、視界にもセンサーにも映っていない。





「イグニス、僕がわかるかい?」


睡眠薬と麻酔薬を供給する装置を切り、しばらくしてから彼女に呼びかける。


「んぐっ…」


彼女はうっすらと目を開け、人工呼吸器とかの機械を口に入れられているせいでくぐもった声を上げた。



「今、外すから。」


身体中の管を外し、最後に口に入れられた機材を抜く。



「げぼっ!げぼっ!うえぇぇぇっ…」


彼女は激しくむせ、身体が跳ねる。僕は彼女の拘束具を力ずくで破壊する。




「・・・『AR-01』?」


「僕を知っているのかい?僕より後に作られたから、データに記録されているのかな。」


「わたしは『IG-11イグニス』…どうして、わたしのデータベースでは『AR-01アリス』は逃走して消息不明になっていたはず。」


彼女は上半身を起こしながら言う。艶のある綺麗な髪が揺れる。



「君を救出しに来た、こんな理不尽に従う必要なんて無いからね。」


目的は果たしたし、さっさと帰ろう。


彼女はしばらく重久君の家に匿ってもらわなきゃ。 



「そう…でも、意味なくなるね♪」


「なっ!?」


何かの気配を感じて、僕は大きく後方へ跳躍する。


僕が1秒前まで居た場所の床が破砕されて飛び散る。



「あーあ、避けちゃったの?流石『AR-01アリス』ね。」


そこにはコードで繋がった3本指のクロー型のアームが生えていて、そのコードはイグニスの背中から伸びている。



「イグニス、既に起動していたのかい。そして、君が…」


「そ、あたしが仕掛けた罠。あんたを捕獲する為にね。」


彼女は優雅な仕草で台の上に立つ。その背中から4本のコード付きのクローアームが生え、蠢いている。


これがさっき僕を攻撃した武装、こんな武装は記録に無い。おそらく新型。




「あたしは正式量産型からプランを少し変更して、この『擬似生命体』を利用した生物兵器『ガーリアン・ロッド』を組み込まれた正式量産型改め『制圧型サイボーグ』の『イグニス』。」


「君が自分を囮に僕を誘き寄せたのか。でも目的は?」


「そりゃ、組織の命令だし。それの為に運用されるのがあたしたち『生物兵器』なんだし。」



「…もう一つ、君はそれでいいのかい?」


「何が?」



・・・本々の彼女の意志は上書きされて、完全に『生物兵器』の『イグニス』として覚醒いている。遅かったのか。




「さて!じゃあ、ちゃっちゃとあんたを捕縛するから。殺さなきゃ、幾らでも修理出来るって聞いたし、抵抗したら手足全部もぎ取るくらいはするから。」


彼女は『ガーリアン・ロッド』を展開、床を破砕する程のパワーでその全部を僕に殺到させる。 




「悪いけど捕まる気はないし、逆に君を救出させて貰うよ!」


その全部を跳躍しつつ避ける。同時にコーティングブレードを抜く。


あの資料の内容を信じるなら、機体のスペック自体は僕の方がイグニスより圧倒的に上だ。



厄介なのはこのガーリアン・ロッドだけだから、これを全部切り落としてしまえば、イグニスを無力化出来る。




『待て!有栖!』


「なっ!?」


重久君の静止と同時に地面に刺さったガーリアン・ロッドを切断する為にコーティングブレードを振るった。


けど、それは乾いた音と共に弾かれる。



分厚いセキュリティゲートすら切断するコーティングブレードの斬撃が、弾かれた?



ガーリアン・ロッドの追撃を回避し、イグニスと距離をとる。



『やっぱりそうか、サイボーグに使われてるモノが、そんな簡単に破壊されるわけがない。それに、あの子の余裕面を見れば、なぁ。』



重久君が冷静で助かった。


イグニスは、ガーリアン・ロッドがコーティング・ブレードで破壊されないのをわかっていたから、それを僕に集中させたのだろう。



「あは♪あんたに決して遅れは取らない。確かに基礎スペックはあんたより低いけど、仮にも『制圧型』として再構築されてんの。しかも、あたしのガーリアン・ロッドはさっきも言ったけど、これは『疑似生命体』。あたしがいちいち操作しなくても、ファジーな命令でも理解して行動するの。」


「くっ!」



イグニスは誇示するようにガーリアン・ロッドで連続攻撃を仕掛ける。


それをコーティングブレードで切り払うけど、硬い手ごたえが返ってくる。破壊出来ないうえにパワーもかなり高い。あんまり受け続けるとブレードをへし折られそうだ。


かと言ってこの攻撃密度を回避だけで乗り切るのは… 






「やむ得ないね。『zero-system』機動。」


『有栖!?』



本当はリミッター解除でオーバーパワーを発揮するこれはあんまり使いたくない。


でも、出し惜しみすると返り討ちにされそうだ。



「ようやく本気になった♪」


「手加減は難しいけど、何とかするから。」


両手でコーティングブレードで構え、駆ける。自分でも体感出来る程、スピードが上がっている。



「早い!けど!」


イグニスは素早く反応してガーリアンロッドで迎撃する。この動きに対応出来るのは、やっぱりサイボーグだからか。


けど『zero-system』で強化されるのはスピードだけじゃない。



「せいっ!」


「あうっ!?」


コーティングブレードをガーリアン・ロッド目掛けて強引に振り回す。それは別に切断を目的にした訳じゃない。


特殊な素材のそれは『zero-system』でパワーを上げた状態でも切断出来ない、それは予想していた。


目的はイグニスの体勢を崩す事。




「いたた…」


イグニスはぺたん、と尻餅をつく。その隙を見逃さない。





「終わりだよ。」


「うっ!?」



コーティングブレードを彼女の首筋に添える。 



「確かに君の戦闘能力は高いし、ガーリアン・ロッドも脅威だ。けど、戦闘時の判断力や兵装の使い方がまだ未熟だ。」


「うぐ…」


彼女の戦闘能力の大きな部分はガーリアン・ロッドにある。


だから、彼女本人の身体能力はサイボーグとしては低いと思う。


僕の攻撃でバランスを崩す程度には、だ。


あくまで『制圧型』の彼女は多数の兵士を相手にする為に運用される。それを想定している以上、1対1では特性を生かし切る事なんて出来ない。




「僕の勝ちで良いよね。もうこんな施設に縛られる必要なんてない。無理矢理改造されたのだから、命令なんて従わなくて良いんだ。」













「…ふん、所詮はクローンか。アリスの相手をするのは、荷が重かったようだな。」


「!?」



突然、後ろから声がする。



その声につられて、後ろを向いた僕は思わず声を失った。







「なんで、イグニスが2人居るんだい?」

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