表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリス  作者: 黒衣エネ
8/34

行方

あなたになにができますか?


あなたはなにをしたいのですか?



昨日、帰ってきた有栖から昨日の出来事は全て聞いた。


勿論、モニターを介して俺もある程度は理解していた・・・あの化け物の事も、だ。




「お前だけじゃ、無かったんだな。いや、当然か。」




あの『ヴァイス』とか言う幼女の姿をしたナニカが言うには有栖はプロトタイプみたいな存在らしい。


テスト機だから、試作機だからこそ様々な機能や野心的な技術が惜しげもなく、コスト度返しで注ぎ込まれた。



だからこそ有栖は想定されていたよりも、文字通り桁違いのパワーを発揮し、結果的に制御できずに暴走した。



でも、兵器だけじゃなく、色んな物が『製品』になる為には、プロトタイプから様々な調整がされ、無駄を省いてコストを引き下げられてようやく『完成』する。



それにあたるのが『ツー』『イグニス』と言う名前のサイボーグ。


とは言えこの2人も有栖とそこまで変わらない時期(流石に少し遅かったらしいが)に開発され、中でも後発のはずなのに既に『ツー』は起動している。


おそらくアリスより早い。


だから、実質的には平行された研究なのだろう。



どちらにしても、胸糞悪い話だが。





「大体そんな感じかな?ただ『ヴァイス』の言っていることが信用できるかは分からない。」


アリスはこの前買った普段着姿で、茶を啜りながら言う。



確かにその通りだ。


いきなり接触してきたあの『ヴァイス』という生物兵器。


有栖やツーやイグニスとは違いサイボーグではない、それどころか人間を素体にしてすらいない、正真正銘の無から生み出された生物兵器。


しかも、オカルトじみた。



一通り、あいつの話は聞いていたし、実際にに見もしたが、見た目は普通の少女・・・より幼い女の子にしか見えない。


しいて言えば目以外はとことん白ずくめで、大っぴらに存在するには少し抵抗がある容姿ではある(一応、アルビノとでも言えば非現実的では無いが)。



だが、見た目とは裏腹にヴァイスは腹の底が見えない、得体の知れない『ナニカ』だ。



有栖としか通信していなかった俺の存在に気付いて話しかけたのもそうだし、あいつが口にしていた『破滅的なこと』という言葉。


事実、ヴァイスはこの世界や自分については興味は無い様子だったが、同時に暇つぶしとして好き勝手やることを肯定していたし、何よりその結果がどんな被害をもたらそうが、気にしない。


だから『破滅的なこと』、そういう行いも気にしない。そう言っていた。




そんな身勝手な思考のヤツが言ったことだ、虚言かもしれない。





「僕は一応信じるよ。」


「アリス?」



しかし、以外にもアリスはそんな怪しいヤツを『信じる』と言った。



「あくまで、心から信用はしていないよ。でも、ワザワザ僕の目の前に姿を現したのには、何らかの意図があるはず。それに、他のサイボーグの存在を知ってしまった以上、彼女らへの手ががりは書類の記録とヴァイスの言葉だけだ。」


確かに、現状他のサイボーグに関する情報はあの施設にあった開発記録とヴァイスの言葉だけだ。


記録は残っているのだから、確かにサイボーグは存在する。



だから、ヴァイスの発言は全部出鱈目ではないのは確実だ。



「どの道、僕の次の目的は決まっているよ。」


「やっぱり行くのか?」


「うん。」




有栖の次の目的はわかっている、と言うか本人から聞かされた。



「まずはイグニスを助けに行く。ツーは今どこに居るかわからない以上、所在のわかるイグニスの所に向かうのがいい。」


有栖はイグニスとツーを救出すると言って譲らなかった。


俺は危険だと言ったし、有栖自身がそれを一番理解していると思う。



でも、有栖は曲げない。



「彼女も、解放しないといけないと思うんだ。このまま『完成』させられれば、望まないうちに多くの命を奪い、破壊を撒き散らすだけの存在になるかもしれない。事実、僕もそうなりかけていたのだから、それはさせない。」



暴走したからころ、逃げ出せた有栖とは違いイグニスはこのまま何もしなければ、兵器として完成してしまう。


そうなってはもう遅い、イグニスはこの国の支配者層(どんな連中かはわからないが)に良いように扱われる大量破壊兵器として作り変えられてしまう。


それは、俺ですら何とかしたいと思える。




「それに、重久君を狙う敵ともいつか決着はつけなきゃいけない。イグニスを助けるのはそういった敵に近づく手段になる。ただ無理して行こうと思っているわけじゃないんだ。」



そうだな、逃げてばかりじゃ状況は好転しない。


俺に出来ることは限られているが、それでも出来るだけのことはしないとな。



「俺に出来ることがあったらいってくれ。そういうことなら、俺の問題でもあるからな。」


だったら、一緒に立ち向かおう。




アリスと。




「ありがと・・・イグニスが起動されるまでに残された時間は少ない。ヴァイスの言葉を額面どおりに受け取るなら近日中・・・下手したら明日明後日かもしれない。でも1ヶ月とかの余裕は確実に無い。良くて1週間以内だと思う。一刻の猶予も無い。」


「だろうな・・・だが、イグニスが居る場所に見当はついているのか?」



それは日本国内じゃないかもしれないし、もし外国なら確実にアウトだ。



「いや、実はあの後、ヴァイスが僕に無線通信をしてきたんだ。」


「・・・もう驚かないぞ。」



本当に訳がわからない存在だ。



有栖の話すタイミング的にも、ヴァイスがイグニスの所在を有栖に教えたって考えるのが自然だろう。



「この街とその周辺がそもそも極秘研究がされている区画らしい。なるほど、普通過ぎてこんな場所にそんな秘匿された施設があるなんて、まず考えない。」


「あんまり言ってくれんなよ。」


確かに俺が住んでるこの街は地味だ。地味というより普通すぎて特徴が無さ過ぎる、ありふれて誰も気に留めないような場所だ。


そんな街の至る所で極秘研究が行われているなんて、普通は考えない。考えているヤツが居るとしたら、それは余程妄想癖があるだけだろう。


今はそんな奇人の思考の方が正しいらしいが。




「僕が居た施設は大学内部に偽装されて設置されていた。この前の施設は会社の内部に。こんな風にあちこちに建物の中で巧妙に隠されて点在している。つまり相当数の企業とこの街の管理者・・・知事や市長がこの企画に絡んでいるということ。」


だろうな。


そうでなきゃこんな大掛かりな研究をこんなあっちこっちの場所で出来やしない。


材料の生産や発注、資金の貸付、場所の提供。企業側にもビジネスチャンスに繋がるようなことだ、この企画に絡んでいても不思議じゃない。


道徳心も情けも良心もあったもんじゃない、胸糞悪い話だが。



「場所は小学校の地下らしい。」


「・・・は?」



これには流石に度肝を抜かれたが。



「僕のときも大学の研究室に偽装されていたし、多分関係者や出資者に教育関係の人間がいるんじゃないかな?この場合は好都合だけどね。遠くない場所だし。」


一応そう考えれば辻妻は合うだろうが、それでもショックが抜けきる訳ではない。


大体に置いて、子供に知識を教える場が子供を改造する場所になっているなんて、考えただけでも悪夢だ。




「今日の夜、そこに潜入する。時間が無いしね。ただ、場合によっては『強襲』になることも考えられるから、装備はそれ相応のモノで行くよ。」


前回もショートブレードやコーティング・ブレードの威力は見ていた通り凄いモノだったが、有栖の本気はアレ以上と言うことになる。


それだけ、前回のように(比較的にだが)穏便にはいかないと言うことか。




「今回もよろしくね。」


「ああ。」



間髪を入れずに2回目の潜入、か。


おそらく、これからは『こんな非日常』が『日常』になるんだろう。








―――――――――――――






「感づいたか『AR-01』…いや誰かの入れ知恵か。」


早いな、この早さはおそらく『UW』が『AR-01』と接触したのだろう。



『UW』か、擬似生命にして科学とオカルトの境界線の存在。



ふん、そんな曖昧な存在が我らが組織を揺るがす事は無いだろう。



だが、『AR-01』は別だ。




試作段階の個体故に、現状投入できる新技術を惜しげもなく投入し、パワーも規格外のモノが与えられ、更にはサイボーグ技術の祖、ナナエ博士から直接改造を受けている。


『AR-01』は技術の結晶体だ、必ず連れ戻さなければならない。それに、戦力としても量産型はおろか『正式採用型』の『IG-11』や『軍用試作機』の『TO-P01』と比べても圧倒的な違いがある。



『AR-01』は我が組織の目的の要になる。






「『AR-01』はお前を探している。だから、お前を逆に餌にして『AR-01』を誘き出す。いいな?」




「あっは♪りょーかい『AA-00』さまぁ。」






―――――――――――――――――








「聞こえる?重久君。」


「ああ、問題ない。小学校の地下にこんな空間があったなんてな。色々見てある程度耐性は付いていたと思ったんだがなぁ。」



古い校舎の1階、物置と化した教室に地下への入り口はあった。


床に僅かにあった切れ目のようなもの。それは重いけど外せる天板で、外せばその下から地下へと続く階段だった。



構造から、この空間は元からあったんじゃなくて、後で無理矢理作っている。



作りも新しく、最近になって作られている。



「…おかしいね。」


『有栖?』



前回同様、入り口のドアの電子ロックはハッキングで解除した。


でも、白く明るい通路を歩いてすぐに違和感を感じた。



「ここは『イグニス』というサイボーグを保有している機関のはずだ。僕が良い例だけど、サイボーグは一般ではない技術の塊だ。そんな存在を扱っているのに、あまりに警備が薄すぎる。それにこれだけ新しい施設なのに、人の気が無い。」



『まさか罠だったのか?やっぱりヴァイスは出鱈目を?』


「わからないけど、警戒した方が良さそう。」



ちらりと扉が開け放たれた部屋を覗くと、資料が机の上に散乱してる。


作業を途中で打ち切ったって感じだ。



これは、おそらく僕がここに来ることは予想されていたって考えるべきだ。





でも、これはヴァイスが情報を漏らしたとは考えづらい。



ヴァイスも過程は違っても僕と同じく研究所から逃げ出した試験体だ。


そんな存在が関連施設なんて場所にわざわざ行くのは捕獲されるリスクが高いだけだ。ヴァイスが捕まるようには思えないけど、もしそうなら研究所の方が何らかの被害を受けるだろう。



あの通信技術で所在を隠して接触した、って線もなさそう。


『好き勝手する』なんて言ってた彼女がそんな面倒でリスクしかない行動をとるだろうか?




一番考えられるのは、前回の侵入で僕の次の行動を予想して、先手を打った。それが自然な流れだと思う。




「・・・やっぱりそうか。」


そんな考え事をしていると、通路の奥から白い人型が隊列を成して歩いてきた。


数は6、『US-03』。



武装はゴム弾を射出する非殺傷の銃ではなく、アサルトライフルにマシェット、ハンドガンで武装した通常型。重久君と居た時に遭遇したのと同じモデルだ。


すぐに背中のコーティングブレードを抜き、左手で腰のショートブレードを1つ持つ。



「懲りないね、数ばかりいたって。」



僕は倒せない。



2列縦隊で向かってくる内の1体にショートブレードを投げつけると同時に僕は駆ける。


先頭の1体の首がポロリと落ちた時には残る『US-03』全員が駆け寄った僕に銃口を向けていたけど、遅い。



「ふっ!」


コーティングブレードを横に薙ぎ払い、更に2体の動体を強引に引き裂く。破壊されてよろめく『US-03』の胴体を蹴り飛ばし、後続の『US-03』の体勢を崩す。


こんな通路で縦隊を組んでいるの自体が間違いだ。



ショートブレードを回収しながら体勢を崩した後続に襲い掛かる。


ショートブレードもコーティングブレードもスタン効果を最大で起動している。体勢が崩れ、まともな反応も出来ない機体は切り裂かれると同時にショートし、煙を噴きながら倒れる。



そして、これだけの騒音を立てても、警報一つ鳴らない。




「誰かに見られているね。」


ショートブレードを腰に戻し、周囲を見回す。


流石にこんなに大きい施設のシステムは掌握しきれないし、掌握出来たとしても制御が出来ない。


加えて監視カメラの位置はシステムを覗いても見つけられなかった。と言うより不自然に少ないから、おそらくシステムから独立した監視カメラ・システムがある。



でも、見られているなら今更隠密行動に徹する必要も無くなった。今回は携行火器も持ってきているし。



コーティングブレードも背中に納刀して、、腰に装備した銃器を抜く。見た目はブルバップ式のコンパクトなサブマシンガンのこれはサイボーグの僕の為に製作されたらしい『スコーピオン』と言う携行銃器。


装弾数は1マガジン25発、使用する弾丸は普通のサブマシンガンとは全く口径が異なるサブマシンガンにしてはかなり大きく、貫通力を強化した特別仕様。


こんな弾丸をこんな小型の銃器で撃てば反動でまともに当たらないだろうけど、そもそもこれは人間が扱うようには出来ていない。腕力だけでしっかり反動を押さえ込めるサイボーグ専用の武装だ。




「まだ来るか。」


スコーピオンを構えると白い胴体の『US-03』が4体、増援としてまた奥の通路から走ってきている。


今度は隊列は組まずに、個々が間合いを空けている。




「こっちの戦術も見られてたのかな。でも、遅いよ。」


遠距離から狙えば良いのに。ことに『US-03』は一定範囲に入らないと銃撃しない。周囲の被害を抑えたり、命中精度を上げて確実に標的を鎮圧する為だ。



普通の戦闘ではそれでも数とアンドロイド特有の頑丈さで押し切れるけど、サイボーグとの戦闘を想定して作られていない『US-03』では耐久力もプログラムの柔軟性もサイボーグとの戦闘では不足している。



「ロック…」


フルオート射撃はしない。コンピューター制御で瞬時に4体を頭部をロックオン、貫通力が高い弾丸で1体ずつ頭を狙い撃つ。


ボディアーマーすら貫通するように作られた弾丸は易々と4体のアンドロイドの頭部を破壊する。




「好都合だよ、この増援が来ている方角に行けば、送り込んでいる場所に辿り着ける。」




『大丈夫なのか?有栖。ってか物騒な銃持ってるんだな。いや、銃自体が物騒か。』


「まぁ、荒事を想定していたしね。相手がこいつらのうちは何体出てきても大丈夫。でも、相手も手は打ってくるはず。それとも、これ自体が罠なのか。何れにしても行ってみないとね。今の所、何処にイグニスが居るかもわからないし。」


『そうか、俺は見ているしか出来ないが…気をつけろよ。』


「うん。」



そう言って通信を切る。


スコーピオンを構えなおして『US-03』が向かってきた方へと駆け出した。







―――――――――――――――――





「通常型の『US-03』程度では何体けしかけても、ノーダメージか。それどころか『US-03』は対応すら出来ていないな。増援4体に対するヘッドショットには、全員に撃ち込む2秒かかっていない。」


重火器の管理・制御システムでも、これだけのの差がある。


加えて、多少の学習能力と自己判断能力を持っていても基本はプログラム通りにしか行動しないアンドロイドと違い、人間の生身の脳を持つだけあって、柔軟な思考と機転、判断力は比較するのも馬鹿らしい。



「やはり、私が直接捕縛するしかないか。元より『US-03』はアリスの戦闘データを記録する為の標的に過ぎない。」


アンドロイドなど、所詮その程度だ。




サイボーグこそが最強の兵器なのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ