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アリス  作者: 黒衣エネ
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夢幻

6 夢幻


真実は時として信じがたい。


人智を超え、常識を逸脱し、それでもなお揺ぎ無い。


如何にそれが受け入れがたくとも。


どこまでも白い少女だった。


いや、少女よりもまだ幼い見た目だ。



白いロリータ風の衣装に白いリボンをつけた、肩に付く程度の長さの髪は純白で、純白のニーソックスにブーツと、とにかく白ずくめで、色素の薄い肌とそれと対比され一層目立つ赤い瞳がこっちを見ていた。




「生体センサーに反応が無い。君は一体何者なんだい?」



目の前の少女は生体センサーに反応していなかった。


人間でも、例えサイボーグでも生身の部分が存在するならば生体センサーに反応があるはずだけど、彼女には反応していなかった。


生物ではないというのだろうか。





「うふふふ、あなたの『姉』みたいな存在よ『アリス』。」


「意味がわからないよ。」



訳がわからない。


第一、こんな幼い外見で姉は無理があるし。


そもそも、この子は生体センサーに引っかからない時点で生物じゃない。




「素っ気無いのね?アリス、でも少なくとも貴女の姉と言える存在よ。『兵器』としてのね。」


「・・・なるほど。」



無茶苦茶だけど、なんとなく状況は理解した。



「サイボーグでないなら・・・『UW開発企画』の方か。」


「流石私の妹ね、正解よ。」




目の前の少女はにっこりと笑いながら言う。


確かにその仕草や明確な知性を感じる言葉や口調、腹の底が見えない雰囲気はとても少女とは思えない、年上のモノだった。



「『UW』とは私のこと。私は『ヴァイス』、勿論貴女や貴女の妹分の『ツー』『イグニス』みたいなサイボーグではないわ。『高度電子体兵器』と呼ばれる存在、私こそ究極の1にして白き究極の闇。この国の生み出した究極の闇、よ。」


「『電子体兵器』?」


聞きなれない単語だ。あらゆる機密を脳内ハードディスクに記録された僕ですら、分からない。




『ああ、ホログラムみたいなのか?立体映像とか。』


重久君が言う。


正しい意味で実体は存在せず、触れれる映像。確かにそれなら生体センサーに反応しないのも(無理矢理だけど)理解出来る。



「へぇ?アリスの彼氏かしら?賢いのね。でも惜しいけど違うの。」


『な!?』


・・・僕としか通信していない重久君の声に気づいた。


本格的に、僕と比べても超技術の塊なのは理解できた。



「私は確かに姿を投影している存在だけど、ただの映像ではないの。正確に言えば電子のように細かい粒の集合体で実体はあるとも言えるし、無いとも言える。もっと言うと、私にそんな枠組みは意味を成さないと言った方が正しいわね。半ばオカルトの混じった技術よ。」



聞いていて科学から逸脱した存在だと思ったけど、どうやらあながち間違いではないみたい。


僕も世間的には十分科学から逸脱した存在だけど。





「そもそも私は貴女達に使われている技術がまだ思索段階だった頃に偶発的に生まれた存在なの。人工皮膚や人工筋肉・・・それを製作する過程で生まれた人工の細胞と呼べるようなもの、更にそれを動かす為の生体電気を模した仕組み。何万回にも及ぶ試行錯誤が行われた実験の最中、その細胞は急速に進化、うっすらとした自我を培養層の中で得た。それが最初の私。」


「・・・それに誰かが気づいた訳か。」


確かに偶然生まれた存在だった。


再現性はとても無い。



「ええ、これを進化させ続ければ新たな兵器に転用出来るのではないか、そう考えた科学者たちは『UW開発企画』をスタートさせたわ。でも駄目ね。私は制御したり思い通りに操作出来る存在ではなかったのよ。だから企画はすぐに凍結して、私は廃棄された。そして計画は元のようにサイボーグ開発に一本化したわ。」


「でも、君はここにいる。」


「ええ、廃棄されても私は滅びもしなかった。独自の進化を続け、プログラムのようにネットワークに侵入する術を身に付けた人工細胞の集合体はネットからの知識を得て人間を模した今の私を構成することで、ようやく安定したの。そして開発が頓挫したはずの私は自らで自身を完成させた。貴女が完成する前にね。だから姉と言う訳よ。」



そうして『ヴァイス』は話を締めた。


でも、まだ聞かないといけないことがある。



「ならヴァイス、君は改造までの僕について何か知っているかい?」


「それはノー、と言えるわ。私が自我を持ったとき、貴女は既に改造が始まっていた。それに、流石にこの身体を得る前の記憶は曖昧も良い所よ・・・貴女を直接改造した人物の名前以外は、ね。」


「それは一体!?」


「『ナナエ』博士、そう呼ばれていたわ。もし貴女の過去を知りたいのなら彼女の記録を追えば良いわ。」



取り敢えず、当面の目的は出来た。


そして、もう一つ。



「・・・君はどうする?」


僕と同じく制御を離れ、しかも認知すらされていないヴァイスは一体何を目的にしているのだろう。



そして僕に何故僕に接触したのだろうか。




「暇つぶしね。」


「え?」


「私はこの世界の行く末に興味なんて無いわ。制御からも離れているし、自分の出生にこだわる必要も無い。しいて言えば退屈だからそれを凌げる何かを探す、それだけね。貴女に姿を見せたのはまぁ、可愛い妹への助言と暇つぶしがてらに、かしら。」



「いいの?それで。」


「ええ、構わないわ。私は私の為だけに存在し続けるつもり。好き勝手に暇つぶしをさせて貰うわ。例えそれが破滅的なものでもね。ああ、もうここに用事が無いなら、早く帰りなさいな。あの木偶人形がここに向かっているわ。私の妹があんなのに遅れはとらないだろうけど、事を荒立てたくはないでしょう?」



もう気付かれたか、ここに強行突入した時点で予想はしてはいたけどね。



「私がアレは始末してあげるから、早く帰りなさい。まぁ、いずれ貴女はまた私と会うことになるわ。私たちは所詮兵器、普通の生き方は出来ないの。早くツーとイグニスと合流してね?そうして4体で生きるの・・・束縛から解き放たれた『兵器』としてね。じゃ、貴女の健闘を・・・ふふ、そんな必要もないわ。貴女はジョーカーである私を除けば姉妹で最も完成度が高いのだから。また会いましょう?アリス。」



言うだけ言って、ヴァイスは私に背を向けて通路の方へ歩いて行った。


足音が、しない。




「・・・分からないことだらけだ。」



いまいち、ヴァイスの言うことは分からない。


話しただけでわかる明確な知性と僕すらも超える知識量を持つ彼女の言うことだ、それも額面通りの意味とも限らない。



『なんだったんだろうな、今のは。』


「わからないよ。ただ、僕みたいな生物兵器はまだ他にもいた、そういうこと。」


僕以外にも『ツー』と『イグニス』と言うサイボーグが存在して『ヴァイス』というサイボーグでない、更に超科学的な兵器も居る。



そして『ツー』は既に(僕より開発開始は遅かったけど僕より早く)起動し、『イグニス』はまだどこかの施設で起動準備の為に調整されているらしい。



「姉妹・・・になるのかな?」


『有栖?』


「なんでもないよ、これから帰還する。」 



ヴァイスの言うとおり、一旦帰った方がいい。



これからの方針は決まった。


『ナナエ』博士の記録と本人を追うこと。


既に起動している『ツー』を追って、会うこと。



そして、『イグニス』を救出すること。



このまま何もしなければ、イグニスは僕の代わりとしてサイボーグ兵器として運用されて、彼女をベースに更なる量産型が開発されかねない。


その前に、助け出す。



その後、やっぱりヴァイスにも会わないといけないかもしれない。



最も、彼女の方から会いに来そうだけど。




僕は騒音がする通路を尻目に、施設を後にした。








――――――――――――――








「玩具ね、アリスは帰ったみたいだし、私も別の場所に行きましょう。」



『US-03・警備モデル』とかいったかしら?


まぁ、アンドロイドのクセにそこそこ有能だったかしら。


改めて白い残骸を見れば、科学者が苦心した跡が見えるわ。



そこそこの自立思考能力も備えていたし、施設の警備兵としては十分な完成度ね。 



でも私たちから見れば、それでもなお『玩具』以上の存在ではないわ。



特にこの私からすれば。




こんな非殺傷武装、それどころか核攻撃でも私を滅ぼすことなんて出来はしない。


私は『電子生命体』、オカルトと科学の境界線を彷徨う存在、そんな現代科学の法則には囚われない。





でも、こんな下部組織の施設に来たかいがあったわ。


アリス、と早くに出会えたのだから。




私たちは兵器、兵器は兵器として生きるべき。


縛る存在が無いのなら、その性能を存分に発揮し、自由気ままにそれを振るえればいい。



それが破滅的なものでも、私たちの知った事ではないわ。


人間が私たちを勝手に生み出したのと同じように、私たちも世界を好き勝手にする。



次は何をしましょうか?


いずれはアリス、ツー、イグニスとそれを考えるの。



アリスなら、私のそんな望みをそう遠くないうちに叶えるでしょう。





ふふっ、アリス。


貴女もいずれわかるわ、兵器としての『生』が。 



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