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アリス  作者: 黒衣エネ
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懺悔

大切なものは失って初めて、その喪失の痛みを理解する。




済まない、アリス。


私は君の未来を奪った。


私の生み出した技術が、君の未来を閉ざした。



…私は、生み出してはならない技術を創ってしまった。


それは最初から、触れてはいけない神の領域だったのかもしれない。




何故、人間が生きる者の命を好き勝手に弄んで良い筈があるのか?


その為に研究し開発した技術では無かったはずだ。



どうしてこうなった。






私の発明と技術は全て医学の為にあった。



人工筋肉があれば、四肢を失った人がまた普通の生活を取り戻せると思った。


人工皮膚があれば大火傷を負った人や、消えない傷を受けた人を救えると思った。


人工臓器があれば、重い病気を患った人の助けになると思った。


脳に補助コンピューター入れられたら、脳障害を克服出来ると思った。




その為に、私は研究を続けた。



政府も私のその考えに賛同してくれ、私の技術を称賛してくれた。


これで多くの病気や障害を克服出来る、これで多くの人が救われる。



私は本気でそう思った。





だが、現実はそうはならなかった。





私が国の、政府の真意に気付いた時はもう手遅れだった。


最初から、私の技術は医学の為では無かったのだから。




最強の兵器の開発、それを支える技術。


その為に、私の技術は使用されてしまった。



優秀な科学者達は、私の技術を覚え吸収すると、それらを次々に兵器開発へと昇華させていった。





そして、私が君に引き会わされた時には、君は既に60%程、改造されていた。



私にしか出来ない部分を、私自身の手によって改造し『君』を『完成』させる為に。



もし、そうしなければ中途半端な改造のまま放棄され『アリス』死ぬ…そう告げられた私は君をこの手で改造し、完成させた。


そのシステムは私の技術を使用していながら、本来の目的とはかけ離れた、戦闘の為の改造がなされていた。


それでも、完成させなければ命は無かった。




…私は自分の愚かさを呪った。


疑う心があれば、こうはならなかった筈だ。



私は思うがままに技術研究が出来ることに釣られて、盲目になっていた。


その裏に潜んだ思惑には気付かずに、手放しに喜んで。


結局、良いように扱われて全ての元凶となってしまった。




済まない…アリス。




私は、私達人類は大きな罪を背負うことになった。


私達は神の領域に足を踏み入れた、その罰を受けることになるだろう。




だが、私にはその前にやらなければならないことがある。




生み出してはならなかった、この技術を闇に葬らなければならない。


多くの部分が既に国によって複製されたが、肝心な部分は私の頭の中にある。


だからこそ、君を完成させるのに私が必要だったのだから。



資料と論文、研究記録は既に全て破棄した。


二度と同じ技術が生み出されぬように。



同時に、トリガーコマンドを仕込んだプログラムを研究所のコンピューターに流した。


コマンドが実行されれば、政府に保管されている記録も少なくない量が破壊されるだろう。



完全に消去出来なくても、研究記録が虫食いに寸断されれば、意味を成さなくなる。


これらの技術は、そういうものだから。





そして君だ。



このままでは、君は戦争の道具として扱われ、不本意なまま死を撒き散らす存在になってしまう。



私は君を彼らの道具にしたままにはさせない。



君を解放しなければならない。


今更で偽善も良い所だが、それでも君は被害者であり犠牲者だから、私には出来うること全てを行う義務がある。





方法はある。



君の脳のコンピューターにある隠されたプログラムを組み込んでおいた。


トリガーコマンドが発動されると同時に実行するようにしてある。


プログラムが実行されれば、君に仕込まれた命令・制御プログラムを全て書き換え、君の頭脳そのものにコンピューターの命令権を譲渡する。


同時に失った感情や性格を可能な限り補完するソフトウェアをインストールし、君が君を取り戻すまでの助けとなるようにした。





そのトリガーコマンドを実行する為のキーは私の命だ。


私の身体に仕込んだナノマシンが私の脳波と心肺停止を確認した時、トリガーコマンドは発動される。




…私も消えなければならない。



恐らく、彼らは私の頭の中の技術や研究記録を求めるだろう。


薬を用いた拷問を受ければ、ずっと秘匿したままには出来ない。



だから、この世から私も消えなければならない。



生きている内にデータを消去すれば気付かれてしまう。


だから『私が死んでからデータを破壊しなければ』ならない。



私さえ消えれば、もうデータを復元する者も、技術のキーポイントを知る者も居なくなる。




これが、私が今出来る最良の選択だ。






これでやるべきことは全てやり終えた。


悔いは、残したものは数多いが、私にはもう時間が無い。



君が運用されるまで、もう数日しか無い。



これで終わりだ。



こんな不甲斐ない私を許してくれとは言わない。


身勝手だが、どうにか生き延びて彼らから逃れて欲しい。



そして、君を取り戻してくれ。






…時間だ。









さようなら。







アリス。

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