終わり
「それで、頼みって何かな?」
蒼葉と打ち解け、名前を呼ばされるという恥ずかしい地獄を味わった後、僕は蒼葉に頼み事があると言って二人で話していた。
頼み事というのは勿論翠葉の事。姉である蒼葉に、翠葉の事を、紫音と神巫女の依頼に協力して欲しかったからである。
「と、言うわけで、、、つき、、蒼葉さんには―」
「蒼葉って呼んで、、、じゃなきゃ協力しない」
「うっ、、、」
今日の蒼葉は随分と積極的である。先程言った1回が最初で最後かと思いきやこれからずっと呼び捨てらしい、、、。何ともまぁ僕としては喜ばしい事なんだけど、いきなり呼び捨てと言うのは結構厳しい。別に呼びたくない訳では無いのだ、、、ただ恥ずかしい。それだけ。
「あ、蒼葉、、、頼む」
僕が顔を朱に染めながら言うと、蒼葉は満足気に「うん」と言った。
最近恥ずかしい思いを沢山しているような気がする、、、。
年下の子をちゃん付けで呼ぶことは慣れているのに、どうもこれだけは慣れない。
僕は紫音と神巫女の依頼の事、翠葉に素直になって欲しいということ、それによって蒼葉に協力してほしいという事を話した。
「と、言うわけなんだ、、、言いにくいけど翠葉ちゃんは結構無理をしているらしい、、蒼葉にも協力してほしいんだ」
それを聞いた蒼葉は驚愕の表情をとるわけではなく、ただ黙って聞いていた。
「やっぱり、、」
そんな一言が口から漏れた。どうやら薄々感じていたらしい。
「姉妹だからいつも翠葉が元気に振る舞うことは知っていたの、、、でもお母さんが亡くなってもあの子は元気なまま。私がこんなになってもあの子は『大丈夫だから』と言って負担になる。私も翠葉には素直になってほしいんだ、、、もっと、、頼りないけど、、私を、、お姉ちゃんを頼ってほしいって、、」
蒼葉は頼って欲しかった、、。何よりも家族だから、、たった1人のお姉ちゃんだったから。
蒼葉の望みと紫音、神巫女の望みはたった一つ。全く同じ目的―
『翠葉に頼ってほしい』
僕はどこか決心がついたように心の中がスッキリしていた。
「何の用ですか?先輩」
蒼葉と打ち解けた2日後。僕は翠葉と2人で部室とは別の空き教室に居た。呼び出した理由は勿論依頼の事である。
―昨日―
「という事で蒼葉も今回の件について協力してくれる事になったよ」
「ありがとう、、月見さんで良いのかな?翠葉ちゃんのお姉さんなんだよね」
「よ、よろしくお願いします」
「うん。妹の為にありがとう。私も全面的に協力するから頼ってね。神巫女ちゃん。紫音ちゃん」
僕は蒼葉を連れて支援部部室に来ていた。今日は紫音と神巫女を含めて案を出し合う予定だった。
翠葉に素直になってもらう。頼ってほしいといった事でこの3人は集まった。それ程翠葉は愛されている。そしてこの3人は勇気を出して信頼性のない僕を頼ってくれている。
これまで嬉しいことはそうない。
「じゃあ具体的にどうしたらいいか考えてみようか」
「、、、、」
「、、、、、」
「、、、、、、」
うん。こうなる事は何となく予想は出来てた。本人達自信本当に助けたいとは思っていてもどうすればいいか分からない。それは僕も一緒だ。実際の所どうしたらいいか分からない。
「ん、んん~どうしたらいいかと聞かれると、、、どうしたもんかね」
と、僕が一言。それに続いて神巫女が
「私も同じだよ。翠葉ちゃんが無理をしているのは確かなんだけどね、、、」
続いて蒼葉
「瞬君が悪役を演じてそれを私達が助けるってのは?」
「いやダメだろ。てか僕嫌だよそんなの。しかも今時そんなベタなのには引っかからないと思うなぁ」
「あ、あの!」
ここで今まで口を閉じていた紫音が口を開いた。一気に目線を浴びて「ひっ」と引き気味な声を出す。
何やらもじもじしながら口を再度開いた。
「、、、何もそんなに凝ったことしないで直接言ったらどうでしょうか、、、」
そして今に至る。
紫音が言いたかったことは、『何も無理して演じなくても、言いたい事を素直に言えばいい』という事だった。紫音らしいと思った。
本当なら紫音や神巫女、蒼葉が言った方が妥当なのだ。
僕は彼女達の計画を壊してまでここに来たのだ。本当ならこの教室ではなく支援部部室で神巫女、紫音、蒼葉が説得する予定だった。でもその前に僕はどうしても伝えたい事があった。
僕として、同じ経験をした人間として、、。
「私お姉ちゃんの様子見に行かないといかないんで帰りますね!」
翠葉は早々と去ろうとする。が、僕はそれを止めるように口を開いた。
「無理をしてない?」
ピクッと体を震わせて振り返る翠葉。無理矢理作ったような笑みで僕の方を向く。
「何のことですか?私無理なんてしてませんよ?」
「いやしてる。その笑顔もいつもの翠葉ちゃんの顔じゃない、、、。僕には無理をしているように見えるよ」
「だからして無いですって。わ、私もう行きますね!」
意地でも笑顔で通そうとする翠葉。僕はそれを止めることもなく再度口を挟む。
「お姉ちゃんが心配。友達が心配なのは分かる。けどもっと自分を大切にしなきゃ。お母さんが亡くなって辛いって、、、。誰かに頼る事も大事だと僕は思うよ」
「誰の入れ知恵ですか、、、これ以上私に関わらないで下さい。私は無理なんかして無いし誰かを頼るつもりもない。私は決めたんですよ。『強く生きる』って」
もう何度聞いた事か、、『強く生きよう』蒼葉もこの言葉を言っていた。人の死は誰かを強くする。僕はそんな事が有り得ると思っていた。
現に翠葉は強い子だと思う、、それと同時にもろい。きっといつか体を崩してしまうだろう。それではダメなのだ。それで皆が、助けられた人が満足するわけがないのだ。
「君が強くなりたいっていうのは分かった。君のお姉ちゃんが、蒼葉も同じことを言っていたし、僕だってその気持ちは分かる。でも―」
「君が良くても僕やその周りの、『君の友達や知り合い』が本当に全部任せたいと、、、無理をしてほしい何てこれっぽっちも思ってなんかいない」
「っ、、、」
僕の一言に翠葉は言葉をつまらせた。
本当の友達が、無理をしてまで助けてほしい、それで体を壊しても良いなんて事は必ずと言っていいほどありえない話だ。それを知って欲しいがために言った一言は、翠葉に下唇を噛ませた。
「だからって私がちゃんとしないとお姉ちゃんも皆も困っちゃう。困ってる人を助ける事がそんなにダメな事何ですか?」
「何も困っている人を見捨てるなとは言ってないよ。僕が言いたいのは君にも周りの人を頼ってほしいという事」
「困ってもいないのに頼るなんて出来ませんよ、、、この通り私は何も困っていません。頼る事なんて無いんですよ」
翠葉は話している途中に間を少し開けた。僕はそれを見逃さなかった。
つまり困っているのだ、、。でも頼る事が出来ない。強がってないと心配されるから。人に弱みを見せたくない。強く見せよう。だから彼女は普通に振る舞い、誰かを助けようとする。昔の僕のように。
「それは君の本心じゃない、、。本当は今にも投げ出したいはずなんだ、、」
「やめて、、、」
「でも誰かに心配をかけたくない。だから誰かに手を貸してしまう。無理までして心配させたくないと思うんだよね」
「やめて、、、やめてやめてやめて!」
翠葉の叫び声によって僕の言葉はかき消されてしまう。彼女の目尻には涙が浮かんでいた。
その場にうずくまった翠葉に僕は歩み寄ってしゃがみ、頭に手を置いた。
「僕には分かるんだ。君と、、翠葉ちゃんと同じ事を経験したからね」
「分かるはずない、、私の事なんて、、誰にも分かるはずない」
「今回の件。紫音ちゃんや榊さんが僕の所に依頼して来たんだ」
「、、、、」
二人の名前を出した途端に黙り込む翠葉。僕は話を続けた。
「二人とも翠葉ちゃんがいつもと変わらないって言って、頼ってほしいって言って僕の所に依頼して来たんだ。二人共どうすればいいか分からなかったんだって」
「、、、、、、」
「ねぇ、翠葉ちゃん」
僕が名前を呼ぶと、翠葉は涙を浮かべたまま顔をこちらに向けた。
「、、、君は皆に愛されてる、、、だからもう1人で抱え込まないで。誰かに頼られる事は凄い事だし僕にだって難しい事だよ。でも翠葉ちゃんが無理をしたら助けている意味が無い。僕はそう思うな」
ニカッと笑ってそう告げると、翠葉は安心したように笑みを浮かべていた。
「先、、、、輩」
涙を流す翠葉を暖かい目で見守っていると、空き教室の扉がガラガラっと勢いよく開かれた。
「紫音ちゃん?」
僕がその名前を呼ぶと、翠葉は扉の方を向いた。扉には紫音が息を切らしながら立っており、そのまま翠葉の元へと駆け寄った。
「っ!」
ガバッと紫音に抱きつかれ、言葉を失う翠葉。紫音は涙を流しながら口を開いた。
「ごめんね翠葉ちゃん。私知ってたのに何も出来なかった。翠葉ちゃん困ってたのに、、泣いてたのに、、私何も出来なかった。でもやっと勇気が出たの、、、翠葉ちゃん」
「うん?」
名前を呼ばれ、翠葉は笑みを浮かべながら返事をする。
「私を頼って。もう無理なんかしないで」
紫音の言った一言は、オレンジ色の夕焼けに響いたような、そんな気持ちの良い気分にさせた。
「瞬君ごめんね。私部活で忙しくて、、、それと、、、ありがとう」
翠葉の1件が無事に終わった次の日、教室で神巫女が申し訳なさそうな顔をしていた。
「大丈夫。ちょっと翠葉ちゃんには嫌われたかもしれないけど、紫音ちゃんが上手くやってくれたよ」
僕の一言に神巫女はさらに申し訳なさそうな顔をする。
「本当にごめんね。依頼したの私の方なのに、、、全部任せちゃう形になっちゃって」
「だから大丈夫だって。それに榊さんも紫音ちゃんも僕にとっては大いに助かったから」
ぼくの一言に神巫女は「そっか」と安心したように笑みを浮かべていた。
もし神巫女と紫音が翠葉の事を依頼してこなかったらどうなっていただろうか、、。そんなことを考えるだけで身震いが起きる。
「でも翠葉ちゃん。本当に瞬君の事嫌いになってないよね?」
「分からない。でも結構酷い事言っちゃったし、、可能性はあるかも―」
「せーんぱーい」
たった今嫌われたかもしれないと不安に駆られていた矢先、唐突に翠葉の声が鳴り響く。
「す、翠葉ちゃん!?」
教室の入口を見ると、翠葉が元気そうに立っていた。紫音も扉の影からちょこんとこちらを覗いている。
「ふふっ。どうやら嫌われてはいないようね瞬君」
「気にして損した気分だよ」
苦笑いしながら翠葉の元へと歩み寄る。翠葉は「えへへ~」と言いながら僕に小包を渡してきた。
「これは?」
「お礼ですよ。ね?紫音ちゃん」
「ふぇえ!?う、うん、、、そうだけど、、、」
いきなり話の矛先を向けられた紫音が挙動不審になりながらそう答える。お礼というと思い当たる節は昨日の件だろう。
「いいの?僕なんにもして無いけど、、、」「いえいえ。先輩は私を助けてくれました。もし先輩に会わなかったら多分近い頃に大変なことになってたかも知れません。それに、、、」
そう言って翠葉が不意に近づいてきて僕の耳元に口を近づけた。
「好きな人も出来なかったですよ?」
「っ~~~~!」
僕は顔を真っ赤に染めて後ずさりをした。不思議そうな顔をする神巫女と紫音。それを見て恥ずかしそうに笑みを浮かべている翠葉。僕にとっては致死量も、いい所の出来事だった。
翠葉は浮かべていた笑みを1度真面目なものにして、再度満面の笑みでこう言った。
「これからよろしくお願いします。瞬先輩!」




