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「──海戦の経緯や《三笠》の諸元は、このあと艦内を見学するときに説明があると思う」
説明役の「歌のお姉さん」が言った。
「でも一つ補足しておくと、日本の勝利には、ここ横須賀を初め各地の海軍工廠が貢献してるんだ」
背の高い八重歯の生徒から冷やかされていたけど、「歌のお姉さん」の先生ぶりは上手だった。
はきはきとした喋り方が小気味よい。
一人称が「ボク」なのは出来過ぎだけど。可愛らしくて元気がいい彼女に、よく似合っている。
きっと海軍女学校の同期の中で、彼女は人気者だろう。
ちょっぴり、羨ましいと思わないでもない。
「海戦に参加した主力艦の多くは、《三笠》を筆頭に外国で建造されたものだった」
彼女の説明が続く。
「でも軍艦が能力を最大限に発揮するには定期的な整備が必要だ。戦闘で被害を受ければ、その修復もね」
にっこりとして、
「それができる技術力を海軍工廠は身に着けていた。そういう下地もあっての日本の勝利なんだ」
ぱんっと手を叩き、
「ここでのお話は、これでおしまいだよ。暑いところ長々と聞いてくれてありがとう」
くすっと笑って、
「《三笠》の中は冷房完備だから安心して。もちろん現役時代は、そんなものなかったけどね」
最初に挨拶した歌劇団風のお姉さんに頷きかける。
歌劇団風のお姉さんは微笑みを返してから、繭子たちに向き直り、
「それでは、ここからは四人ずつの班を作って見学してもらいます。先生、班分けをお願いできますか」
「じゃあ、いま並んでる順番で端から四人ずつ班になって下さい。すぐに動いてー」
引率の先生が呼びかけて、みんな少しばかりどよめく。
班を作るなら仲良しで集まりたいのに、並んだ順で分けられてしまうなんて。
でもお姉さんたちを待たせるわけにもいかない。
「百合子ちゃん……」「繭子ちゃん……」
繭子は百合子と離れたくなかったし、百合子も同じ気持ちだったろう。
二人で手を繋いだけど、先生は無情にも、端から四人ずつ数えながら繭子たちの前に回って来て、
「白瀬さんは、前の班に入って。次の班は、ここから四人ね」
百合子と繭子を別々の班に分けてしまった。
しかも繭子は、友子と幸子に加え、これまた相性の悪い愛華という子と同じ班にされた。
愛華と友子、幸子は眼を見交わして、含み笑いする。
さすがに海軍女学校の生徒に聞こえてしまうところでは何も言ってこないけど、どうなることか。
「繭子ちゃん、大丈夫……?」
心配そうな百合子に、繭子は笑ってみせた。
「大丈夫だよ、百合子ちゃん」
どんな悪口を言われたとしても、言われっぱなしの繭子ではないのだから。
歌劇団風のお姉さんが呼びかけた。
「静堂小学校の皆さんは、班分けができたかな? では、各分隊は前にいる小学生の班についてくれ」
「よろしく」
優しく微笑みながら、繭子たちの前に来たのは、綺麗な長い黒髪のお姉さんだった。
栗色の髪で胸が大きいお姉さんと、繭子より小柄に見えるくらいの日本人形みたいなお姉さんも一緒だ。
「ないすちゅみーちゅ♪("Nice to meet you.") よろしくね♪」「よろしくなのです」
そして、
「みんな、よろしく」
にっこりと笑って「歌のお姉さん」も繭子たちに挨拶してくれた。
これは嬉しかった。《三笠》を見学する間、彼女から離れないようにしようと、繭子は思った。
防壁にするみたいで申し訳ないけど「歌のお姉さん」の前では、愛華たちも意地悪をしてこないだろう。
根拠はないけど、そういう安心感が、なぜだか彼女にはあった。
──結局、繭子は「歌のお姉さん」のことが好きになっていたのだ。
* * *
ぱんぱんと手を叩いて、紫音が小学生たちに呼びかけた。
「注目! これより小学生諸君は、海軍女学校の特別臨時選修学生として各分隊に編入されるであります!」
「……紫音さん……?」
いったい何を言い出すのかと、富士子は冷や冷やとするが、紫音は得意げな調子で小学生たちに告げる。
「ついては各員、自分がどの分隊に所属するのか記憶してほしいのであります!」
「ボクたちは第一分隊だよ」
順が、自分たちの案内する小学生に教える。
他の分隊でも、同じようにする。
「我らは第二分隊でござる」
「うちらはー、第三分隊だしー」
「そして万が一、見学中に分隊の仲間から、はぐれてしまった場合でありますが」
紫音は《三笠》を指し示し、
「艦内に何ヶ所か階段があるので、一番上、上甲板まで上がってほしいのであります!」
「あのお姉さん、『のらくろ』みたい……」
小学生の一人が、ぽつりと言って、周りの子が笑う。
紫音の喋り方のことを言っているのだろう。富士子は恥ずかしくて真っ赤になった。
しかし紫音本人には聞こえていないか、聞こえても気にしていないのか、相変わらずの調子で、
「そして艦首か艦尾、どちらかに向かえば、そこに我々が手分けして待機しているであります!」
横に並ぶ第九分隊の一同を指し示す。
「あとは伝声管で連絡をとって、分隊の仲間のところまで案内するであります!」
「迷子のお知らせに伝声管を使おうなんてェ、仔豚ちゃんにしちゃァ考えたじゃねェか」
にまァッと笑って言った早苗に、紫音が頬を膨らませ、
「仔豚は余計であります! 狼が仔羊に悪さをしないよう、第二分隊の生徒は注意してほしいであります!」
「わかった、せいぜい気をつけるよ」
理代子が笑い、それから、皆に呼びかけた。
「では《三笠》に乗艦しよう。各分隊ごとに舷梯を上がって、見学に入ってほしい」
各分隊が舷梯に向かって移動し始めたが、上甲板に残ることになる第九分隊は、一番最後に回る。
「……紫音さん……」
「ん? どうしたの富士子ちゃん……って!?」
富士子が、ぎゅっと紫音を抱きしめた。
身長差があるので、自分の胸に掻き抱くような格好だ。
「紫音さんは優しい子ですね。迷子が出たときのことを、ちゃんと考えてくれていたんですね」
「自分が子供のとき《三笠》に来て迷子になったから、対策が必要だと思っただけじゃん」
紫音は赤くなりながら言う。
「それより富士子ちゃん、そんなにぎゅっと抱きついたら、あたしの顔に、おっぱい当たってるじゃん」
「あわわわ……ごめんなさい、紫音さん」
慌てて富士子が離れると、晴蘭が、くすくす笑いながら、
「せっかく、たゆんたゆんのおっぱいの弾力、ぼくなら黙って味わい続けるんだけどねえ」
「あら、富士子ちゃんのおっぱいの独り占めは許さないわよ、晴蘭」
澪が腰に手を当て、胸を反らして言う。
「紫音もそうよ。富士子ちゃんのおっぱいは第九分隊みんなの共有物なんですからね」
「共有物って……そもそも私のおっぱいなんですけどね……まあ、いいですけど……」
富士子は苦笑いする。




