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横須賀海軍女学校  作者: 白紙撤回
第二話  《三笠》
20/27

2 - 7

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「──このふねは、帝国海軍が建造した最初の国産軍艦『清輝せいき』を復元したものなんだ」

 

 順が、小学生たちに向かって説明する。

 

「再現してあるのは外観だけで、そこの看板を見ての通り、中はお土産物屋さんになってるけどね」

 

 その話を横で聞きながら、麟子は感心していた。

 何を話せばいいかわからないと頭を抱えていたのに、本番になったら堂々としたものだ。

 

「そして『清輝』を建造した場所が、ここ横須賀の海軍工廠なんだ」

 

《三笠》が入っている船渠ドックを指し示し、

 

「この乾船渠ドライドックは、海軍工廠の一号船渠を再現したものだよ。本物は明治四年の完成で、いまも現役なんだ」

 

 順は小学生たちを手招きした。

 

「もっと近くに来てごらん。一号船渠の建設を指揮したのは、伯剌西爾フランスから招かれたヴェルニーという人だ」

 

 海軍女学校の生徒が場所を譲り、小学生たちは乾船渠の前に寄る。

 

「船渠の中には綺麗に整形された石が並んでるよね? ヴェルニーの指揮で、日本の職人が完成させたんだ」

「お城のお堀みたい……」

 

 小学生の一人が言って、順は頷く。

 

「そうだね。もともと日本人は石材の加工に高い技術を持っていた。そこに西洋の近代科学が加わったんだ」

「本物を見ることはできないんですか?」

 

 別の小学生が訊ねて、順は笑い、

 

「現役だし難しいね。これが、ほぼ完成時の姿だよ。《三笠》が収まるよう少しだけ大きく造られてるけど」

「石はどこから運んだんですか?」

 

 また別の小学生が質問して、順は答える。

 

「主に伊豆地方の真鶴まなづるだよ。江戸城の石垣にも使われた小松石の産地として有名なんだ」

 

 そこで、さっと手を上げた子がいた。

 先ほど号令をかけた学級委員長の隣、短い髪の勝ち気そうな少女である。

 

「明治四年なら鉄道の開通前ですが、どうやって石を運んだんですか?」

「それは船だよ。真鶴なら目の前が海だし、江戸時代から真鶴のみなとは石材の積み出しで賑わっていたんだ」

「日本は建築の技術もすごいよね。お城とかお寺とか、何百年も前の木造建築がたくさん残ってるし」

 

 そう言った小学生に、順は、にっこりとする。

 

「その通り。そうした独自の技術を発展させてきた日本人は、西洋の新しい技術の吸収にも貪欲だった」

 

《三笠》の乾船渠を指し示して、

 

「一号船渠の完成から十三年後には初期の設計を除き、ほぼ日本人だけの手で新しい船渠を完成させたんだ」

「日本人が造った船渠も現役なんですか?」

「もちろん。ヴェルニーは素晴らしい先生だったし、彼の下で働いた日本人たちは優秀な生徒だったんだ」

「アイツも先生役が、なかなか上手うめェじゃねェか」

 

 ぽつりと早苗が言って、周りの海軍女学校生徒が、くすくす笑う。

 麟子は眉をひそめる。順が頑張っているのに、冷やかすなんて失礼だ。

 しかし順本人が吹き出して、早苗を指差し、

 

「そこ、私語は慎むように」

 

 そして小学生たちに、

 

「ああいう悪い生徒は見習わないようにね」

「はい」

 

 小学生たちも笑って頷く。

 麟子は、すっかり感心させられた。野次ヤジへの切り返しも上手で、小学生たちを話に引き込んでいる。

 順は改めて、復元された軍艦──「清輝」を指し示した。

 

「実は『清輝』も日本の技術の結晶だよ。海軍初の国産軍艦であることと、もう一つ、竣工後のことだけど」

 

 小学生たちに向き直り、両手を広げてみせ、

 

「明治十一年から十二年にかけて、日本人だけが乗り組んで欧州ヨーロッパまでの往復の航海を成功させたんだ」

 

 しかし小学生たちは、この説明には、ぽかんとしている。

 順は苦笑いで、

 

「明治になって、ほんの十年ちょっとあとのことだよ? みんなは驚いてくれないけど、西洋人は驚いた」

 

 そこで何人かの小学生が笑う。

 順も「ありがと」と笑い、

 

「十年前まで丁髷ちょんまげを結って刀を携えていた野蛮な東洋人が、自分たちで軍艦を動かして欧州ヨーロッパまで来たんだ」

「そう考えたら、すごいかも」

「西洋人は、むしろ怖かったんじゃない? 野蛮と思った東洋人が近代的な軍艦で西洋まで来るなんて」

 

 小学生たちが口々に言い、順は笑顔で、

 

「当時の西洋人は、まだ微笑ましいと思ってくれたと思う。軍艦といっても、九百(トン)足らずの小さなふねだ」

「乗ってる人たちのほうが怖かったかも」

「この小さい船だもんね、嵐に遭ったらすごい揺れそう」

「それを自分たちだけで動かしたんだよね……」

「凄さをわかってもらえたかな? そして、その二十七年後。日本が、またしても世界を驚愕きょうがくさせた」

 

 順は、そこで《三笠》を指し示した。

 

「この《三笠》を旗艦とする日本の艦隊が、強大な露西亜ロシア帝国の艦隊と戦って、これを壊滅させたんだ」


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