表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
横須賀海軍女学校  作者: 白紙撤回
第二話  《三笠》
16/27

2 - 3

(2016/7/31)前の部分「2 - 2」の校外学習に関する説明を修正しました。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「──昭和の初め頃は、電車が横須賀に近づくと、窓の鎧戸よろいどを下ろすよう車掌が呼び掛けて回ったの」

 

 繭子は言った。

 

「軍港が見えないようにね。社会科で習った、世界的に緊張が高まっていた時代のことよ」

「そんなことをしなくてもトンネルばかりだし、外が見えても塀や建物で港までは見通せないのに」

 

 百合子が言って、繭子は笑い、

 

「建物は昔は少なかったし、軍艦は飛び抜けて大きいから塀の向こうに見えてしまうのでしょうね」

「…………」「…………」

 

 友子と幸子は退屈そうな顔で黙り込んでいる。

 それでも、時折ちらちらと車窓の外に眼をやるのは軍港が気になるのだろう。

 軍港は進行方向左手にあるが、見えているのは巨大な鉄の骸骨のような高架起重機ガントリークレーン頭頂部てっぺんだけだ。

 高架起重機の下の船渠ドックに入っている軍艦はいないか、いても小型の艦船だけなのだろう。

 入渠にゅうきょする以外の艦船は沖合の浮標ブイ繋留けいりゅうするので、やはり車窓からは見えない。

 右手には事務所や倉庫が並んでいたが、やがて線路が扇状に枝分かれして広がり、貨物の操車場になった。

 そして、電車は省線横須賀駅に到着した。横須賀線の終点である。

 引率の先生に促されてプラットホームに降り立った。

 そこは操車場寄りの三番線で、「島式」のホームを挟んで隣が二番線である。

 その向こう、海寄りの一番線は片面だけの「単式」ホームだ。

 

「あちらの一番線は賓客専用で、一般の乗客は立ち入れないの。御召おめし列車も停まることがあるそうよ」

 

 繭子は百合子に説明した。

 

「一番線と二番線は行き止まりで、突き当たりに駅舎があるでしょ? だから横須賀駅には階段がないの」

 

 二、三番線の「島式」ホームは実際は駅舎と繋がっており、「半島式」とでも呼ぶべき形状だ。

 

「三番線の線路だけ少し長く伸びているけど、すぐ先で小さな山に行き当たって終わっているわ」

「確か、油壺あぶらつぼまで線路を伸ばす計画があると聞いたけど?」

 

 百合子が言って、繭子は微笑み、

 

「それは京浜電車ね。でも、横須賀線も久里浜まで延長する予定はあったのよ、これも昭和の初めだけど」

 

 引率の先生が皆に呼びかけた。

 

「駅の前に迎えのバスが来ています。皆さん、一列になって改札口まで移動して下さい」

 

 児童たちは、ぞろぞろと列を作って移動する。

 繭子は百合子のあとについて歩きながら、

 

「海軍施設の一部を久里浜に分散する案が出て、省線も延長が決まったの。結局どちらも中止になったけど」

「自分が知っていることを、べらべら得意げに話すのって、品がないですわよね」

「自慢話みたいで、聞かされているほうは、うんざりしますわよね」

 

 後ろから聞こえよがしに友子と幸子が言ってきて、百合子が繭子を振り返って微笑み、

 

「繭子ちゃんは鉄道が好きなのよね? わたしは、そんな繭子ちゃんのお話を聞くのが好きよ?」

「百合子ちゃん……」

 

 繭子は赤くなり、

 

「ごめん、私ちょっと、おしゃべりが過ぎたかもしれないわ」

「そんなことないわ。もっと鉄道のお話を聞かせて?」

 

 にっこりとする百合子に、繭子も嬉しくなって微笑んだ。

 

「うん、あのね、いま乗って来た二等車は八十五形といって、本来の横須賀線用の七十五形と違ってね……」

「…………」「…………」

 

 友子と幸子は顔を見合わせ、「……ちぇっ!」と揃って舌打ちした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ