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横須賀海軍女学校  作者: 白紙撤回
第一話  《倶楽部》
11/27

1 - 11

(2016/7/14)前の話に浴場の広さについての描写を追加しています。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 大浴場の入口は生徒館の裏手から渡り廊下で結ばれている。

 下足入れは外にあり、入口の引き戸を開けると暖簾と衝立ついたての目隠しがあって、その奥が脱衣場である。

 脱衣用のかごを置く棚が並び、左右の壁際には大きな鏡を張った化粧台が設けられている。

 化粧台といっても主な用途は入浴後に髪を整えることで、頭髪乾燥機ヘアドライヤーも用意されている。

 しかし生徒全員が同時に使うには、やはり数が足りない。

 そのため分隊単位で私物の頭髪乾燥機を用意して、髪は自室に戻ってから乾かす者もいる。

 生徒の私物の所持は原則として許可制で、家電品は電気容量の都合もあり分隊単位の許可となる。

 がらり──と、引き戸が開いて、

 

「──ぶぅぅぅぅぅーん……!」

「ばりばりばりばりぃ……!」

「きぃぃぃぃぃーん……!」

 

 第九分隊の「三人娘」が、脱衣場に入って来た。

 

「ぶぉぉぉぉぉーん……!」

「ばるばるばるばる……!」

「きゅぃぃぃぃーん……!」

 

 両手を水平に広げ、子供のように飛行機の真似をしながら脱衣籠が置かれた棚の前まで走る。

 

「飛曹長殿、我々またも一番風呂を逃がしたようであります!」

「しかし分隊士殿、いまだ敵機は、かけ湯の最中かもしれません!」

「急ぎましょう小隊長殿! 湯船に浸かってこそ真の一番風呂であります!」

 

 彼女たちは、れっきとした海軍女学校生徒である。卒業後は少尉候補生を経て、士官たる少尉に任官される。

 つまり准士官である兵曹長よりも上の階級が約束されている。

 とはいえ、それはあくまで無事卒業を果たしたあとのこと。

 現在の身分は海軍兵学校生徒と同様に、下士官である一等兵曹よりは上、兵曹長よりは下と規定されている。

 なおかつ航空兵科を志す三人娘にとって、実戦部隊の叩き上げの飛曹長は空戦技術の手本とすべき存在だ。

 そういう次第で彼女たちが、ごっこ遊びで飛曹長を演じるのもゆえ無きことではない──ので、あろうか?

 ちなみに分隊士や小隊長も、航空隊の規模や編成にもよるが、飛曹長が任じられることが多い役割ポジションである。

 

「こらー、みんな慌てないでー! お休みの日は時間が充分あるんだからー!」

 

 そう言いながら、自分もばたばたと脱衣場に駆け込んで来たのは第九分隊伍長、中島富士子なかじま ふじこだった。

 第一期生の中では早苗と並ぶ長身で、胸の大きさは早苗以上。

 日本人離れして肉感的グラマラスな体型だが、面立ちは童顔で愛らしい。

 対する三人娘は、いずれも陽子や小桜に次ぐ小兵こひょうである。

 富士子と並べば、まるで「母娘おやこ」のよう。

 第九分隊がこのように皮肉な取り合わせになったのは、四人ともが航空兵科志望であったことによる。

 

「富士子ちゃんこそ走ったらダメじゃん? あたしたちより足音響くじゃん?」

 

 三人娘の一人、川西紫音かわにし しおんが言った。

 長い黒髪に紫陽花あじさいの形の髪飾りをつけ、見た目は可憐なのに口を開けば小生意気な娘である。

 

「たゆんたゆんにおっぱいも揺れて目の毒だからねえ?」

 

 愛智晴蘭あいち せいらが、くすくす笑って言う。

 少年のように短い栗色の髪に、胡蝶蘭こちょうらんの髪飾り。中性的な美貌の主だが、小生意気な物言いは紫音と同様。

 

「一番風呂は女の浪漫ロマン。誰もみおたちを止められないわ!」

 

 岩崎いわさき澪が、勝ち誇った笑みで言った。

 頭の左右で束ねた髪に銀色のリボンを結び、小さなひしの花を模した髪飾りをつけている。

 三人とも手早く服を脱ぎ、丸めて籠に放り込んでいく。ジャケットやズボンも容赦がない。

 富士子が慌てて、

 

「もうっ、みんな制服はきちんと畳まなきゃしわになるでしょう!」

「富士子ちゃんが畳んでくれたらいいじゃん? 一番風呂を狙う気もなく、どうせのんびりしてるじゃん?」

「畳んでくれたら、あとでお礼に肩をんであげるよ? おっぱい大きいと肩がるんだよねえ?」

「晴蘭ちゃんは絶対、肩以外もいろいろ揉む気じゃん?」

「あはっ、バレた? だって富士子ちゃん、触り心地が最高だからさ」

「分隊士殿、小隊長殿、おしゃべりはそこまででお願いするであります!」

 

 すっかり着衣を脱ぎ終えて、すっぽんぽんになった澪は言い、浴室へのガラス戸を、がらりと開けた。

 

「いざ交戦空域に突入! きゅぃぃぃぃーん……!」

 

 両手を広げた澪は浴室に飛び込んで行き、紫音と晴蘭も、それに続いた。

 

「ぶぅぉぉぉぉーん……!」「ばるばるばるばるー……!」


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