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水恋

作者: 雲丹

この小説は「水小説」です。水小説で検索していただくと、他の作者の方の作品も読むことができます。

明るく照らす太陽の光が池の水面に反射して綺麗であり、眩しくもある。池の真ん中には睡蓮が咲いていて、美しさを倍増させている。


その池の周りにある木々は見る人の目を養い、どことなく気分を落ち着かせるのだ。


そしてその池のすぐそばには1軒の家がある。


家の新しそうな表札には『早凪』と名前が記されていた。


そして今、その家の長男、早凪(はやなぎ) 悠治(ゆうじ)とバンド仲間が曲について話し合っていた――。


「よし……完成!」


そう言ったのは、このバンドのリーダーである、早凪 悠治だ。


悠治は手に持っていた楽譜をみんなに見せる。


「どう?」


他のメンバー、柊 あやめ(ひいらぎ あやめ)、芥川(あくたがわ) (しゅん)篠山(ささやま) (こうき)は一通り目を通して、感想を言う。


「うん。なかなかいいじゃん」


と、あやめ。


「テンポがスローだね。ゆったりとしてていい感じ」


と、俊。


「ハモリ難しいなぁ……」


と、聖。


みんな色々と言ったが、なかなか良かったらしく、悠治はホッとした。


そして次の話に入る。


「んじゃー次。この曲の題名なんだけど……」


題名。


それは自分達でいう『名前』のようなモノであり、その曲の呼び名となるかなり大事なモノだ。


そして悠治はこの題名に、池に咲く自分の大好きな花の名をつけようと考えていた。


「『スイレン』って名前にしようと思うけど……もちろんどんか漢字にしたかわかるよな?」


そう言うと、あやめが元気よく手をビシッと真上に挙げて言った。


「わかったわかった! ちょっと紙貸して」


そう言って紙に書き始めた。


それなら、と思い悠治も紙に書く。


「よし、じゃー『せーの』で出すんだぞ?」


その時はまだ良かったのだ。笑えていたんだから……。


悠治はこの後、後悔することになるとは思いもせず、元気よく言った。


「せーのっ!」


悠治が差し出した紙には、『睡蓮』という字が力強く書き込まれていた。これには俊も聖も納得だった。


そして、あやめはというと。


「えー!? こっちのがいい!」


あやめが差し出した紙には、丸っこい字で『水恋』と書いてあった。俊と聖はこっちもいいかも、という顔をしていたが、悠治を見てやけに不自然な無表情に変わった。


「いやいやいやいや。睡蓮はこっちだろ」


俊と聖はうんうんと頷く。


「そんなのありきたりだよ!」


俊と聖はまたしてもうんうんと頷く。


「俺はこの題名をイメージして作ったんだ!」


俊と聖は『なるほど』と呟く。


「私はこの曲から題名をイメージしたの!」


俊と聖はまたしても『なるほど』と呟く。


「俊と聖はどっちの味方なんだ!」


「俊と聖はどっちの味方なのよ!」


先ほどまで曖昧に答えていたのだが、さすがに答えられなくなり、ハッキリと言った。


「……どっちでもいい」


「お、おま、てめ」


キレすぎてろれつが回っていない悠治と、またまたキレすぎて言葉が出ないあやめの2人から逃れるため、俊と聖は家から飛び出した。


しばらく静まっていた空間だったが、不意にあやめが言った。


「帰る」


それだけ言い残し、あやめは荷物を持って家を出た。


誰もいない部屋。


なぜか不意に孤独を感じて、悠治は誰にとなく言った。


「全く……気分が悪い」


そう言って池の睡蓮を眺めていた。




次の日。


悠治はいつも通り、あやめ・俊・聖と共に通う大学に登校した。


いつもはかったるいと思う大学だが、今日だけは朝から楽しかった。


悠治の前にはあの才色兼備のスポーツ万能しかも顔美人なお方、虹雫(こうだ) 美羽(みう)様がいたから!


悠治は見とれてしまい、ぼーっと歩いていたのだが、ふと美羽が何か落としたのに気づいた。


ハ……ハンケチーフ!


つまりハンカチを落としたのだ。


千載一遇のチャンスと言わんばかりに、ヒラリとハンカチを拾い、手渡した。


「ハンカチ……落としましたよ」


美羽はニコッと笑って、


「ありがと」


と言ってまた歩いていってしまった。


美しい……!


まるであの睡蓮のように。


あの曲は本当は悠治が前からずっと好きだった美羽をイメージして作った曲だったのだ。


ゆったりとしていて、優しさがある……。


そんな悠治の勝手な妄想から生まれただけなのだが、少なくとも悠治はそう思っていた。




キーンコーンカーンコーン


4限目終了のあと、昼食の準備をしていた時だった。


購買に歩いていると、またしても悠治の視界にあの麗しき姿が映った。

美羽はまた悠治を一度微笑み、スタスタと歩いていってしまった。


単純過ぎるほど単純な悠治には、これはもう自分に惚れているとしか思えなかった。1日に2度微笑まれただけで惚れているなんて考え、おかしいんじゃないかと言われるような考えだったが、告白するチャンスは今日だとなぜか焦って用意をし始めた。




放課後。


体育館裏に放課後というありきたりな設定で、しかもラブレターなんていまどきそう無い呼び出し方で美羽を呼び出した悠治。


来るかな……と緊張していたが、来るという自信はかなりあった。


時間は過ぎていく。



刻一刻と。



来ない――?



え?



そんなはずは――




色々な考えが悠治の頭の中を駆け巡った瞬間だった。呼び出した時間に1時間も遅れて美羽はやってきた。


「ごめ〜ん。遅れちゃって。あなた、あやめから聞いてるわ。悠治くんね。よろしく。で、話ってなに?」


それを言われた瞬間、高く心臓は跳ね上がった。


「えっ……と」


意を決して悠治はかばんから楽譜を取り出した。


題名が決まっていない、あの楽譜。


「これ……あなたをイメージして作りました! 受け取って下さい!」


そう頭を下げて紙を差し出す。


30秒くらい経っただろうか。


やっと楽譜を手にとってくれた。


「……なに? 付き合ってってこと?」


今までとは明らかに違う、冷めた言い方。


「え、あ……まぁ」


「フン」


そう鼻で笑うと、楽譜を両手で掴んだ。


「……何を」


遅かった。


美羽は楽譜を引き裂いたのだ。


「な、何……」


「くれるんでしょ? 私のモノ、私がどうしようが勝手じゃない」


そう言って、何度も何度も破っていく。


そして、バラバラになった『それ』を紙吹雪のようにして投げ捨てた。


「アンタみたいなのが私と釣り合うわけないでしょ。バカじゃないの。クズが。そういえばあのラブレター、今ちょうど女子の間で回ってるかもね。ハハハ」


美羽の豹変振りに、悠治は怒りの感情よりも先に驚きと恐怖の感情が込み上げてきてしまい、逃げ出してしまった。


俺は、何をしてたんだ――?


俺は、何を考えてたんだ――?


心の中で意味のない問いを繰り返しながら、後ろを振り返ることなどせず走っていく。


疲れた。しんどい。


でも悠治は足を止めなかった。止めてしまえば何かがさっきの光景を思い出してしまいそうで恐かった。


淡く水の流れの様に消えた恋。儚く、一瞬で消えた恋――。


綺麗事じゃ言い表せなかった。あんな裏を持つ人だなんて……と悠治は恐怖すら覚えていた。


家に着いても、恐怖は消えてくれなかった。


プルル……プルル……


メールがきているが、悠治はただふらふらと歩くだけ。目の焦点も定まらない。


悠治はおかしくなった様にトボトボと歩いていたが、ふと携帯の画面を見てみた。


『メール:あやめ』


と表示されている。


あやめ……


なにも考えず、ただコマンドを入力するかの様にメールボックスを開く。


メールの内容はこうだった。


『昨日はゴメン。まぁ……私が悪かった。んで、私はあんまり話をするのが得意じゃないからもう言っちゃうね。……美羽のことなんだけど、あの子は小さい頃に両親から虐待を受けて、他人にはほとんど心を開かないの。特に男子には……。それで……楽譜も破られちゃったよね? これは後で美羽から聞いたんだけど……あ、ラブレターはちゃんと私が持ってるから大丈夫』


本当に話がヘタだと悠治は思った。どれだけ人の傷を抉れば気が済むんだ。悠治にとっては放っておいてくればそれで良かったのだが。


悠治は、少しだけ返信メールを打った。


『ラブレターは破り捨ててくれ』


すぐにメールは返ってきた。


『ダメ。これは悠治がちゃんと自分で処理して』


メールというただの字のつながりだったが、その一文字一文字にあやめの気持ちが感じられた。


『……わかった』


『それで……楽譜はどうするの?』


楽譜……か。


悠治はもうあの曲はいらないと心に誓っていた。


『新しいのを作るよ』


『……そう。じゃあ、今度は題名から考えてよね。あ、もう決まってるか。『睡蓮』よね』


悠治は、これがあやめの優しさだと初めて感じれた。


いつも助けてもらっているのに、それが当たり前だと思って見過ごしていたのだ。


そして、悠治はメールを打った。


『違うだろ。題名は――』


そのメールを打ち終わったあと、悠治は楽譜を取り出し、まず最初に題名のところにこう書いた――。




『水恋』と。





投稿遅れてすいません……。しかも焦って書いたので何だか物語になんと言いますか、読み応えがないような感じがすると思います……。読んで下さった方、評価・感想よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワクワクして読ませていただきました。 最後のあやめさんの優しさにジィーンときました。 短い文章話なのですが、登場人物の人間性がしっかりと出ていてすごいなと思いました。
[一言] こんばんは。企画参加者の文樹妃です。 作品、読ませていただきました。 まず、タイトルのセンスが素敵です! 美しいタイトルで、とても惹かれました。 内容も、最後のあやめとのやり取りと、優しい終…
2007/11/26 00:54 退会済み
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