雪の鬼
初投稿です。
在り来たりな題材に何処かで見たことのあるストーリー。
白い世界。
背の高い常緑樹の葉も底の見えない深い湖も今はシンシンと降る雪に埋もれてしまっている。
深い深い雪の中、少女は一人歩き続けていた。
もう何日も食べていない。けれど空腹は感じていない。
もう何日も歩き続けている。けれど疲れは感じない。
人ならば感じるものを、少女は感じることができない。
少女はただ当てもなく彷徨っていた。
目的は何もない。生きているから歩き続けているだけだった。
雪の中をただ歩く。
雪の中をただ歩き続ける。
真っ直ぐ歩いて行きないーー見送ってくれた家族の言葉を胸に、少女は歩き続けた。
其れが今まで一緒にいてくれた家族のただ一つの願いだったから、少女は立ち止まるつもりなどなかった。
だが、視界に其れは飛び込んできた。
白い世界に半ば同化するかのように、其れはいた。
少女は家族の言いつけを破って、其れに近付いた。
其れは白い生き物だった。
「なんで、こんなとこ居るの?」
白い生き物は少女を見た。
「一人?」
白い生き物はじっと少女を見ていた。
「どこに行くの?」
白い生き物は答えなかった。
「・・・一緒に来る?」
白い生き物は反応しなかった。
だが少女は白い生き物に手を差し出した。
白い生き物は不思議そうに少女の手を見た。
どれくらい動かずにいたのだろう。
白い生き物は雪に埋もれていく少女の足を、少女の顔を見た。
少女はじっと動かずに、ただ白い生き物に手を差し伸べていた。
白い生き物は嘆息すると、少女の手を取り歩き出した。
少女は何も言わず、ただ為すがままに歩いた。
やがて少女と白い生き物は小さな洞窟に辿り着いた。
入り口が半ば雪に埋もれた小さな洞窟。
白い生き物は入り口の雪を退かすと、少女を中に押し込めた。
少女の後から自分も入り、入り口に背を向け、少女を抱きしめた。
入り口から入ってくる冷たい風や雪から少女を守るために抱きしめた。
少女は初めて温もりを知った。
少女は白い生き物に自分のことを話し始めた。
白い生き物は相打ちを打つことも労わることもせず、ただ抱きしめ続けた。
少女が眠りに落ちるその時まで。
少女は暖かい場所で目が覚めた。
少女は屋根があり、畳がある場所に寝かされていた。
太陽の匂いがする布団に包まれて眠っていた。
目覚めた少女に皆が喜んだ。
一目で神職に就いているのがわかる格好をした人から、少女は神力が高いから鬼に拐かされたと教えられた。
ノコノコと神社に足を踏み入れた迂闊な鬼は討伐されたと告げられた。
そして、神力が高い故にいつまた人ならざるものに狙われるかわからない。親元に帰れば家族を危険に晒してしまうので、家族のことを忘れ、巫女として生きなさいと諭された。
少女は声もなく涙を流した。
周りにいたものは、その涙を鬼から解放された喜びであり、家族の元に帰れない悲しみであると勝手に解釈した。
少女は涙を流す。
得体の知れない力がある故に家族に捨てられた少女に初めて温もりを与えてくれた鬼の為に。
その身を犠牲にして、少女に居場所を与えてくれた、優しい鬼の為にーー。