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決心
孝治は仕事中も考えていた。
沙織に転勤の事は言っていない。
自分が転勤すると沙織とは会えなくなってしまう。
沙織を連れて行くと寂しい思いをするのは沙織。
結果的に沙織を幸せにする手段はない。
心の中では決まっているのに、言いたくない気持ち。
客先からの帰り道、高速道路を夕陽がオレンジ色に染めていく。
サービスエリアに車を停めると、決心をして携帯を持った。
するとちょうど沙織から連絡が入った。
孝治はビックリしながらもケジメをつける気持ちで電話に出た。
事の次第を話すと沙織の声のトーンは下がった。
沙織はそれでも食い下がったが、孝治は耐えられなくなった。
「会って直接話そうか…。」
孝治は直接言うことに拘った。
それは元彼が連絡を取れなくなった事への対抗心でもあった。
「そうだね。じゃあまた仕事終わったら連絡ちょうだい!」
沙織は明るく答えた。
孝治は沙織に早く会いたい気持ちと、会ってしまった時の自分の弱さを出してしまう可能性を考えると会いたくない気持ちもあった。
孝治は事務所に戻ると早々に仕事を切り上げ沙織の家へと向かった。