彼氏との別れ
孝治は沙織の事を忘れ、仕事に打ち込む日が続く。
孝治にとってこの仕事は本当にやりたい事への近道であり、毎日勉強をしていた。
ある程度支社が立ち上がると会社からは異動の話が出ていた。
どこに異動になるかは分からなかったが、少なくとも栄転と言えるものだった為孝治は心底喜んでいた。
転勤してから二度目の夏を迎える頃沙織からLINEが入ってきた。
「あたし引越す事になったから、その前に会えないかな?」
孝治は久しぶりに沙織に会いたい気持ちになり、沙織と会う事にした。
沙織は以前と雰囲気が違い、明るいような印象を受けた。
孝治は何かあったのかとも思ったが、気にもしなかった。
二人は居酒屋に行き、沙織だけがビールを飲んでいた。
孝治はその店のサービスの悪さにイライラしながらぶつくさと文句を言っていた。
酔った沙織を家まで送ると、自宅への帰り道沙織からLINEが入っていた。
当たり障りのない挨拶文だった。
孝治はホッとしつつも返事をし家路についた。
それから2日後また沙織からLINEが入り、会う事になった。
友達と遊んでたから駅にいるらしく職場からも近い為駅の近くで食事をする事にした。
孝治は久しぶりにカフェに行きたくなり、近くのコインパーキングに車を停めると沙織と一緒にイタリアンのカフェに行った。
店員に案内されるままに二階の席に座る。
「あー、この椅子良いわ〜。」
沙織はそんな調子だった。
「こうちゃん実はね…。」
沙織はそう言うと怒った口調で話し始めた。
彼氏と連絡が取れなくなったようで、彼氏の悪口を延々ろ吐き出していた。
しかし孝治はそんな沙織の怒りの理由を考えていた。
沙織の本心ではない彼氏に対する罵倒のセリフは、すぐに見抜けてしまった。
「沙織なー、あんま彼氏のこと悪く言わないほうが良いよ。そんな彼氏選んだ沙織を否定する事になるだろう?」
沙織は落ち着きを取り戻した。
孝治は続ける。
「沙織そんな事あっても彼氏の事好きなんだろ?だったらどうすんの?今のままで終わって良いの?とことん相手を追いかけてみなよ。とことん悩んでみなよ。そうじゃないといつまでも彼氏の事振り切る事できないよ。」
沙織は冷静になった。
隣の席の女性二人がこちらチラチラ見ているが、孝治気にしない。
帰りの車の中で孝治は続ける。
「沙織なー、普通の人だったら諦めろとか、忘れろとか時間が解決してくれるっていうかもしれんけど、俺は違うと思うから言ってるんだ。時間にしか解決できない事もあるかもしれないけど、相手が生きているなら自分で解決しなきゃダメなんだよ。その為にいっぱい考えて、その人との事が良い事も悪い事もあるだろうけど、その人への思いを枷にするんじゃなくて、糧にしなきゃダメなんだよ。」
沙織を送った後にまた沙織からLINEが入った。
「こうちゃんありがとう、こうちゃんの言った通り考えてみる。」
そうして、何日かは沙織とLINEとのやりとりで孝治は沙織を励ましていた。