最悪の誕生日
孝治は麻美との電話を切った後に沙織の誕生日を思い出した。
何かできる事は無いか、そんな事を考えていたが時間が余りにも無かった。
何かプレゼントを贈る事も考えたが、プレゼントを貰った沙織はどう思うだろうか。
逆にそのプレゼントが沙織を苦しめるんじゃないか。
そんな事を考えていた。
孝治は沙織の誕生日に会う事を決心した。
花火の後にカラオケに行く約束をした。
出張先を早く出て沙織に会いに行きたかったが、仕事が立て込んでしまい、遅くなる事がハッキリしてしまった。
高速を急ぐが中々着かない、焦る孝治の元に沙織からLINEが入る。
「何時くらいになりそう?」
孝治は到着が10時を過ぎそうな事を返事を打った。
「ごめんね、出張で疲れてるのに…。」
車に乗り込んだ沙織は孝治に謝った。
「そんなん、好きな人が会いたいって言ったら、会いに行くのは当然だろ。」
孝治にとってはいたって当然の事なのだ、会いたいと言われれば会いに行く。
例えそれがどんなに遠くでも、どんだけ時間がかかろうが、自分に会いたいと言ってくれてるのだから。
花火はやる場所が見つからず、二人はカラオケへと向かった。
部屋に入ると沙織はビールを注文した。
何曲か歌っていると沙織が急に孝治を掴んだ。
「ねー、こうちゃん付き合ってよ!こうちゃんだってあたしのこと好きだって言ってるじゃん!なんで付き合えないの?」
沙織は孝治を責め続けた。
孝治は黙り込んだ。
別に言葉が出ない訳じゃない。
言いたくない。
ただそれだけだった。
「ねー、なんで付き合えないの?」
沙織は納得する訳がない。
「俺仕事してんじゃん、で転勤じゃん、沙織が付いてくると仕事に集中できなくなっちゃうし邪魔なんだよね。」
孝治は精一杯だった。
精一杯嫌われようと努力した結果のセリフだった。
孝治は沙織の今まで付き合ってきた男性と同じにはなりたく無かった。
沙織は今までの男性を語るとき、必ず最低だったという評価つけていた。
孝治は沙織のその価値観を変えたかった。
その価値観を変えるのが自分で有りたかった。
今まで知り合った男の中で沙織が誇れる男になりたかった。
だから自分を最低な男と持っていくのは嫌だったのだ。
だが、半端な事をしていても納得する訳ない。
だから孝治は最低限の嘘をついた。
部屋の空気は重く沈んだ。
そうしてその空気を破ったのは沙織自身だった。
空気を変えようと、必死に盛り上げている。
痛む心を隠して献身的なまでのそのひたむきさに孝治は胸を強く打たれた。
孝治は自分を責めた。
沙織の最低の誕生日を作ってしまったと。
それからしばらくカラオケにいたが二人はカラオケを出る事にした。




