海
沙織の家に着くと孝治はいつものように沙織に連絡を入れた。
沙織は元気に車に乗り込んできた。
「ちょっとコンビニ寄って。」
沙織がそういう為、孝治は近くのコンビニに車を停め買い物に行った沙織を車の中で待っていた。
沙織は車に乗り込むとコンビニで買ったビールを取り出すと飲み始めた。
「どこか行きたいところある?」
孝治がそう尋ねると海に行きたいと言うので、海に向かう。
車内は今までとは違い明るい空気だった。
海に着き駐車場に車を停め歩き始める二人。
沙織が孝治の手をとり手を繋いで海にまで歩き始めた。
夜で真っ暗な砂浜を携帯で足元を照らしながら歩く二人。
「ってか海までめちゃくちゃ遠いんだよね…。」
沙織はサンダルだが砂の上を歩きにくそうにしていた。
孝治はお気に入りの革靴だったが気にもしていなかった。
「あー、あの光ってもしかしてあそこまで行かないといけないって事?」
遠くに見える小さな光は先に来ていた人達が、照らしている灯だった。
二人は戻る事にして、砂浜直前の入り口に座り込んだ。
沙織は塀に座り、孝治は向かいの石のベンチに座った。
重い空気が流れる。
「ねー、付き合ってよ。転勤なんて関係ないよ。あたし付いて行くから、寂しくても我慢するから、我慢も必要だと思うし、二人で乗り越えればいいじゃん。」
孝治を責めるように言った。
孝治の考えは決まっていた。
孝治は以前大切な人を失っている。
その時の気持ちや、辛い時の気持ちがずっと頭を巡っている。
大切な人との約束も前の彼女で、果たす事が出来ていない。
だからこそ、沙織とは付き合えない。
沙織を幸せにするのは自分じゃないと思っていた。
誰かを傷つけると自分が傷つく。
それなら深い傷にならないように、沙織が幸せになれるように、そんな気持ちを孝治は沙織に伝えた。
沙織は納得するはずもなく、怒っていた。
遠くに見えていた明かりも近くなり、数人の人達が通り過ぎる間二人の間に気まずい空気が流れた。
数人が通り過ぎた後孝治は沙織の横に座った。
沙織は泣き始めた。
孝治は沙織の肩を抱き寄せると沙織に謝った。
孝治はこうなる事は分かっていたが、直接言わなければいけない、自分の責任だと思っていた。
沙織が納得すると、車に戻る事にした。
車の横まで来た時沙織が立ち止まった。
そして孝治も立ち止まった。
沙織は孝治の方に歩み寄ると二人は唇を重ねた。
孝治はここで初めて沙織に自分が知っていた事を告げる。
出会った時に彼氏がいた事、沙織が自分の事を好きになりそうと言ったから連絡を取らなくなった事、その彼氏とも別れて傷ついた沙織をなんとかしてあげたかった事、新しく好きな人が出来たと言うので、自分は身を引こうと思った事。
そして、自分が沙織を好きな事。でも沙織を幸せにするのは自分ではない事。
それを聞いた沙織は付き合わなきゃ分からないと食い下がったが孝治の気持ちが揺るぐ事が無いのを悟った沙織は「付き合えなくてもいい、朝まで一緒にいて…。」
そう言った。




