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怪談集

怪談:甘美にして不毛なスープ

作者: 下降現状

 本当にごめんなさい。私だってこんなことしたくないし、とてもとても嫌なのよ。それにあなたに申し訳なく思っているわ?

 え? 嘘だろうって?

 嘘なわけが無いじゃない。私、本当は血を見るのも嫌いなのよ。だからこんなに人の血が流れてるのなんて、ましてやそれを自分でするなんて嫌に決まってるじゃない。

 あなたが悲鳴を上げたり、血を吹き出させたりする度に目を背けるのだって、別に演技じゃないの。本当に嫌なのよ。こんな残酷な……人間を少しずつ削ぎ落としていくみたいな事をするなんて。

 ああ、また指が落ちた。

 じゃあなんで止めないのか、自分を開放しないのかですって?

 そんなの決まっているじゃない。これが復讐だからよ。

 あなたのほうが、そこの辺りの事は分かっているんじゃあないの。それとも、心当たりが多すぎて逆に何のことか分からないのかしら。

 でもそこの所はどうでもいいの。

 私は、復讐しないといけないんだから。

 私がしたいわけじゃあないの。さっきも言ったけれどね。

 でも、復讐しないわけにはいかないのよ。

 足の指は両足合わせて……あと二本くらい?

 だって、五月蝿くて五月蝿くてしょうが無いのよ。

 何が?

 だから、あなたに復讐をしろって、ずっとずっと五月蝿いの。毎日毎日、ぶつぶつぶつぶつ恨み事ばかり。眠らせてもくれないぐらい。

 死んだんだから黙っていて欲しいものだけれど、きっとそうもいかないぐらい恨めしかったのね。

 実は、今もまだ五月蝿いの。

 でも、聞こえてくるのは恨み事じゃないのよ。

 げらげらげらげらって、五月蝿いの。そう、笑ってるの。

 あんまり五月蠅いから、さっきから私、やること変えてるんだけど……分かる?

 そろそろ、終わらせようと思ってるの。初めはもっとやれもっとやれ、それじゃ足りないって五月蝿かったけど、げらげら言ってるって事は多分満足したんだと思うから。

 満足したんなら、解放してくれても良いだろうって?

 駄目に決まってるじゃない。

 あなたを生かして帰したら、きっと私に復讐に来るわ。こんな酷いことをした私に、同じくらい酷いことをしに来るに決まってるわ。

 だから、あなたは死ぬしか無いの。

 本当に悪いとは思っているのだけれど、私も死にたくはないし、五月蝿いのは嫌だもの。

 私がおかしい?

 そうね、復讐しろって聞こえるようになってからは、おかしくなってるのかもしれないわね。まともに眠れてないし。

 そんな声が聞こえる時点でおかしいんだって? そうかもしれないわね。

 おかしくなければ、こんな不毛過ぎること、しないもの。

 ……あら?

 もう死んじゃったのかしら。

怪談、怪談ってなんだっけ

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