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第七話-入学試験-

 私はエリオ。成り行きで両親と離れて千尋と学校に行くことになった。


 ちょっと私の憧れの状況に似ていて嬉しい。でも、それは内緒だ。





ㅤ入学試験が始まった。


ㅤゲートに入るまで横に見えていた私達の班では無い人達が全く見当たらない不思議だ。これもなにかの魔法なのかな。


ㅤパーティは私と千尋。そして犬のような耳と尻尾の生えた小さくなった私よりも小さい女の子。


ㅤくっ…可愛いわね…胸もこの歳にしては…


ㅤふと千尋の方を見ると千尋もこの犬コスロリ女の方を見ていた。千尋も同じことを考えていたらしい。


ㅤ千尋は多分エッチだ。さっきも私の胸を見ていた。


ㅤしかしおかしい。


ㅤ私が千尋の方を向いても当たり前のように見続けている。大体こういうときって気まずそうに目線をそらす筈だけど…


ㅤ…年頃の男の子だもんね。でも…なんだか、胸が苦しいなぁ。


「おうお前らが俺様のパーティメンバーか。俺様はガビンだ。よろしくな!」


ㅤ唐突に簡単な挨拶を豪快にきめたのは腕を4本持った全身真っ黒な肌の男だった。


ㅤそしてガビンはもう一人の小さい女の子を自分の前に突き出した。


ㅤガビンと名乗る男に突き出された犬コスロリもガビンに真似て恥ずかしそうに自己紹介をした。


「ボ、ボクは…ぇと…サーヤです…。よ、よろしくお願いです。」


ㅤわ、ワザとだろうか???可愛い……私もついに犬コスロリ属性が…


ㅤというかなんでガビンとかいう男はサーヤに馴れ馴れしいんだろう。正直羨ましい。


「ガビンは…見た目は…く、黒くておっかないけど…本当は凄く優しくて…そ、その…怖がらないであげて…」


ㅤガビンプッシュ始めた!?サーヤはこいつに何かに弱みでも握られてるのかしら…少し顔も赤いし…ガビンがこんな子に酷いことしてるなら殺すわ。


ㅤサーヤ安心して、私は味方よ。こんな黒い奴になんかは負けないわ。


「ガハハハ!サーヤよ!気にするな!俺様は当然のことをしたまでだ!恩を着せたつもりではないからそんなに気にするな!ガッハッハッハッ!」


ㅤこ、こいつが何をしたって言うの!ぐぬぬ、私のサーヤに唾をつけおって…


ーㅤこれより、迷宮内で貴様らがすることを伝える。ㅤー


ㅤ一気に3人に緊張が走るのがわかった。


ㅤ千尋は何を考えているのかわからない程にソワソワしている。お花を摘みに行きたいのかしら。


ㅤあ…違う。あの目はワクワクしてるときの顔だ。私に魔法を教えてくれって頼んだときの目に似ている。


ㅤこういうところでもちゃんと男の子してるのね。


ーㅤ迷宮の奥にあるボタンを押してこい。それまでの時間を測る。以上だ。ー


ㅤ号令のブザーが鳴った。クラス分けテストのようなものだろう。時間を測ると言われたのでなんとなく急いだほうがいいような気がした。


「ほら!他の班に遅れをとっちゃうわよ!」

「ま、待って!」


ㅤボクっ娘犬コスロリが先程とは違う感じで声を捻り出した。


「どうしたの?私達も急がないと…」


ㅤサーヤは何度か躊躇いつつも鼻を何度かスンスンと動かし、自信なさげに言った。


「この道は危ないかも知れない…かもです…多分…」


ㅤどれだけ自信ないのよ!でも可愛いわね…ぐへ…


ㅤっと、いけないわ。千尋の変な笑い方が少し移って来てるわ。そんなことよりもこの子…見た目通りに鼻が効くのかしら…


「もしかしてサーヤって何か臭うの?」

「は、はい…お父さんが人狼で…私もその血を受け継いだとか言ってた気がします…」


ㅤそういえばお父様も見た目で判断するなって言ってたわね。さすがはお父様ね。そんなお父様の娘もさすがね。


「よし!じゃあ他の道から行こうぜぇ!」


ㅤ千尋はワクワクした表情を隠せていない。語尾もちょっと変だし口が常に薄笑いを浮かべている。千尋のこの顔は変。でも変だけど嫌いじゃないわ。



ㅤそれにしても偶然に組んだにしてはいいパーティじゃないかしら?素人目に見てもバランスが良いのがわかる。


ㅤ自信なさげではあるが罠を先程から確実に見つけているサーヤ。サーヤを迷宮に居た魔物から守るガビン。


ㅤここの魔物達はそんなに凶暴ではないのね。


ㅤ街で千尋を襲っていた魔物達のような血に飢えた感じが全くない。学校でなんらかの調整をしているのだろう。


ㅤ千尋はサーヤが罠がないと判断した道を先に進み手に入れたばかりの剣で敵を斬っている、というか殴っている感じかな。

「少しでも経験を積んでおきたいんだ。」


ㅤといって前に行った千尋。


ㅤこの距離なら突然の危機が千尋にあっても私が助けられるだろうし、ガビンはそこそこ腕っぷしが強いようだ。サーヤを任せて安心だろう。


ㅤ迷宮は結構長い。


ㅤ確かに階段を下っているし、奥には向かっている筈だが結構時間が経ったので不安になってきた。もしかして迷子だろうか。迷宮に迷って野垂れ死ぬなんて嫌。


ㅤ私がそんなことを思っているうちに千尋の戦い方に変化が起きていた。


ㅤ千尋が剣で相手を叩くと相手が吹き飛んでいる。そんなに力が強いわけではない千尋にあんなことができるはずがない。そう思って見ていると千尋は私に気づいたのか、こちらに寄ってきて秘密を教えてくれた。


「剣を持つ手に気をこめてみたんだ。そしたら剣がなんだか黒さを増してね、軽く振ってるだけなのにすごい力が出てくるんだ。」


ㅤ千尋は簡単そうに言っているが私にはそんなことできない。剣に魔力を込めるなんて聞いたことがない。


ㅤ剣が持ち手を選ぶという性質は知っているが魔力を得て力を得る剣などお父様でも知らないのではないだろうか。


ㅤ私がそんなことを思っていたのに、千尋は頭をかきながら自嘲気味に言った。


「まぁ、これを使いながら斬れるようになりたいんだけど斬ろうと思っても剣尖がぶれて叩く感じになっちゃうんだ。」


ㅤもしかすると千尋は私なんてすぐに追い越してしまうのかもしれない。千尋に危機が迫ったら、などという考えはいつの間にか逆転して私が千尋に守られる日が来るのかなぁ。


ㅤそんなことを考えていたら千尋がこっちを向いていた。

「学校始まったら俺と剣術を練習して下さい。」


ㅤ千尋はいつも私にお願いをするときには真っ直ぐ私の方を向いて丁寧な言葉ではっきり言ってくる。正直照れるのだが、ここで照れているのを見せては後で恥ずかしくなるのは私だ。


ㅤそう思って、いつも通り強く返事をする。


「私の指導は厳しいわよ!」



ㅤ迷子になったのでは、と考えていたがいつの間にか最深部についていたようだ。

「あそこにある赤いのがボタンかな!?やった!!あれを押せば…」


ㅤ千尋は楽しそうにボタンの方へと足を運んでいる。やっと終わった、と私も少し肩の力を抜いた。


ㅤそんな安堵をぶち壊す叫び声が響いた。


「ここは危ない!!!何かいる!!!」


ㅤここにきて初めてサーヤは迷いなく言葉を放った。千尋が驚き足を止めてこちらを振り返る。


ㅤ千尋まであと数歩、というところにそいつは突然落ちてきた。


「グルゥゥアァァアアァッ!!!」


ㅤ千尋は咄嗟に反応してバックステップを踏んだ。一瞬で千尋が私の横に来ていたので千尋が何をしたのか不思議でたまらないが、獲物を逃したそいつはこちらを睨みつけてきた。


ーーーミノタウロスーーー


ㅤお父様から聞いたことがある。


ㅤ森に住んでいる斧を持った魔物で顔が豚とワニを混ぜたような感じの二足歩行の奴だ。性格は凶暴で目の前にいるものを敵としか見なさないが全ての個体が卵を産み、繁殖力は強いとされている厄介な魔物だ。


ㅤ正直こんな危険な魔物が最後にでるなんて予想外だ。


「さて、どうやって倒すかな…」


ㅤ私はお父様との訓練を思い出しながらどう立ち回るべきか考えていた。


ㅤサーヤは守らないと絶対にやられてしまうがガビンが居るから大丈夫……


ㅤえっ!?そんな!!


ㅤとっくにガビンはミノタウロスと取っ組み合っていた。力が多少強いとはいえ、体格差は見るからに相手に利がある。このままではガビンがやられるのも時間の問題だろう。


ㅤどうすればいい!?どうするの!?お父様助けて!!


ㅤ私は情けなかった。


ㅤ中身は15歳だし長く訓練をしていたから他の人よりは絶対に強い、と思っている。


ㅤしかし、初めて見る大型の魔物に恐怖が芽生えてしまったのだ。


ㅤそんな私の恐怖をよそにそばに居た筈の千尋がまた一瞬で居なくなってしまった。まさか!そう思った瞬間、千尋はミノタウロスの頭を剣で斬…れずに叩いた。


「グァァッ!!」


ㅤ突然の衝撃にミノタウロスは怒り、千尋をすぐさま目で追った。千尋はそんなミノタウロスの頭を踏み台にジャンプして叫んだ。


「ガビン!足を引っ張って引きずり倒せ!」


「おうよ!!!!」


ㅤガビンは圧倒的に大きな相手の足を1本両手でがっしりと掴み、自分もろとも後ろに吹っ飛んでミノタウロスを引きずり倒した。


「グガアアァッ!?」


ㅤ思いもよらぬガビンの力の強さに驚きの声のようなものをあげて倒れるミノタウロスに、千尋が降ってきた。


「ガアアアァァアァァッッッ!!!!」


ㅤ千尋の黒剣はミノタウロスの頭に突き刺さり、ミノタウロスはピクリとも動かなくなってしまった。


ㅤこの二人がミノタウロスを倒したのだ。



ㅤ私は力がある。千尋よりも。これは絶対だ。剣で相手を叩くことしか出来ない千尋よりは、剣では圧倒的に私の方が強いだろう。


ㅤそんな私の自信を目の前の光景が全て崩し去ってしまった。


ㅤ千尋は力が無いながらもミノタウロスを倒した。


ㅤこの日初めて千尋を尊敬した。力が無くても戦えるんだ。逆に言えば力があっても戦わなければ勝てない。


ㅤ私は戦えるようになろう。千尋と一緒に戦えるように。あのとき、千尋を助けたときのように。


ㅤミノタウロスは光の粒となって消滅し、部屋の中央にボタンが現れた。


「サーヤ、今度こそ大丈夫だね?」


ㅤ千尋はあっけらかんとそんなことを言う。


ㅤいや、手が震えていた。返り血を浴びて服が真っ赤に染まっていた。


ㅤ千尋も怖かったに違いない。豪快なガビンも少し、顔がひきつっている。


ㅤああ、私は恐怖に勝てなかったんだなぁ。


ㅤ二人とも怖かったのだ。けれど恐怖を押し殺し、立ち向かい、倒した。なぜ恐怖を押し殺せたのかわからない。


ㅤ千尋はそんな強くないはずだ。ガビンもこんなに大きな相手に立ち向かったのは初めてだろう。


ㅤわからない。何かがあるのだろう。私もその何かを自分で見つけよう。どんなに苦しくても。


ㅤサーヤは千尋に震えた声で大丈夫だ、と返した。


ㅤ千尋は私達をぐるっと見て、頷いた。


ㅤそしてボタンを勢いよく…変なポーズで押すと…



ㅤそこは元のゲートの前だった。周りを見ると沢山の生徒が居た。もしかして…かなり遅かったのではないか。


ㅤそんな不安が私をよぎった。


ㅤ私は負けず嫌いなのだ。こればかりは仕方がない。そして私達の前に現れたのはあの金髪ロングの軍人のような服の女の人だった。


「貴様ら、よくやった。」

「え?私達かなり遅いのでは…」


ㅤ私は周りを見てそう言った。


「最深部までたどり着けたのは2班。そしてミノタウロスを倒したのは貴様らの班だけだ。」


ㅤ私達は全員でお互いの顔を見合った。この顔をみる限り私と同じことを皆も思っていたのだろう。


ㅤそんな私達に金髪ロングの軍人先生は言った。


「貴様らと最深部に辿り着けたザメリ班は特別クラスに入ることに決定した。」



ㅤ私達は全員、特別クラスに入ることに決まったようだ。皆の顔がにやけている。私も嬉しい。千尋と同じクラスで居られるからだ。


ㅤ少しだけ千尋に素直に慣れた気がして入学試験は幕を閉じたのであった。



エリオは心のどこかで千尋を下に見ていたようでしたが少しだけ見直しました。


次回は特別クラスでの色の濃いメンツが登場します。

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