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第五話-因子-


ㅤあれから1ヶ月の月日が流れた。


 あれというのはアレだ。ほら、俺が襲われちゃっただろ? ん? 変な意味じゃないぞ?


ㅤ家の人には俺がいることがばれてしまった。どうなるかなーって心配したけどなんか住ませてもらえるみたい。ほんと助かった。


ㅤエリオがご飯を持ってきてくれたところにつけてきたらしい。それでもトリスさんは最後には俺を家に住ませてくれることにしてくれた。トリスさんは本当は優しい人なんだよ。


ㅤハリー○ッターでハ○ーが預けられていた家で住んでいたような物置を想像してほしい。まさにあんな感じ、ワクワクが止まらないってもんよ。


ㅤエリオは可哀想だとかなんとか言ってたけど、エリオ…俺ここ好きだぜ。17歳といっても青春真っ盛りの俺からすれば秘密基地みたいなこの部屋は胸キュンだった。


ㅤ俺は1ヶ月間ただエリオが持ってきてくれた飯を食ってたわけじゃない。エリオが持ってきてくれた本を一緒に読んでもらって必死に言葉を覚えた。


ㅤ元々地元じゃ有名な公立高校に通ってた俺は勉強が苦手なわけじゃない。毎日読んでたらなんとなーく読めるように……ならなかった。


ㅤこの言語…日本語と似ているっ!?なんて異世界ご都合設定はなかった。


ㅤそれでも1ヶ月で会話が聞き取れるようになり、基本会話が可能になったのはエリオが朝昼晩と、読書に付き合ってくれていっぱい話をしてくれたからだと思う。

ㅤ本当にエリオには世話になるな。


ㅤここで、俺が世話になっている家族を紹介しようと思う。


ㅤエリオ・ファンネル


ㅤ15歳、女

ㅤ俺を拾ってくれた女の子。

ㅤ正義感が強く、責任感も強い。

ㅤ剣と魔法を父に習っており、父曰く魔法の才能がある、とのこと。


ㅤ俺を助けてくれたときの魔法。

ㅤなんだっけ?ホーリーフラッシュ?

アレもかなり熟練していないと綺麗に発動しないらしい


ㅤトリス・ファンネル


ㅤエリオの母。

ㅤ心配性でエリオ思いの母親。

ㅤ腰の位置まである髪をどんな原理かは知らんが後ろでくるくる巻いてかんざしみたいなので止めてる。

ㅤ綺麗な赤い髪だなぁ。

ㅤそして得意料理はトースターエッグ。


ㅤお前ら、トースターエッグって聞いて馬鹿にしたろ。

ㅤ絶対食わせてやんねーからな!

ㅤ本当に絶品なんだぞ!エリオに教えてもらった言葉で思わず

ㅤ「おかわり!」

ㅤって叫んでしまったくらいなんだぜ!

ㅤトリスさんはすぐにおかわりを持ってきてくれた。

ㅤ毎朝食ってるコレはもはや俺の生きがいである。


ㅤエルバーク・ファンネル


ㅤエリオの父。

ㅤ普段は風船みたいにふよふよと振舞っていてマイペースなエリオ大好きの父だが、エリオとの訓練のときは凄まじい動きをしている。

ㅤ多重人格ってヤツかな、多分。


ㅤ夜の一騎打ちはすごいんだろうなぁ。ぐへへ。


ㅤそして他にもおばあちゃん、住み込みのメイドさん3人が住んでいる。


ㅤエリオの家は広く6LDKである。


ㅤエルバークさん

ㅤトリスさん

ㅤエリオ

ㅤおばあちゃん

ㅤメイドさん3人


ㅤこれで5部屋である。俺は物置なので部屋ではない。ノーカンだ。これによって1室余るわけだが、客が来たときに泊まってもらえるようにしているのだろう。


ㅤ俺はこの物置が気に入ったし、もしそこに住んでもいい、と言われても行くか?ㅤ答えはNOだ。本当に気に入ったんだもん。


ㅤメイドさん達はよく見かける。でもおばあちゃんって本当に居るのか?未だに見たことないんだけど…


ㅤエリオ曰く隠れるのが好きらしい。


ㅤ変な趣味だな……


ㅤそう思っていたら背中を指でなぞられた。振り返ったが誰も居ない。


ㅤ……ハハハッ!まさかね!笑いしかでらんよ!


ㅤ俺がこっちの言葉をある程度理解し、話が聞こえるようになってエリオがあることを話してくれた。


ㅤ俺がガキ共に石を投げつけられたり、魔物に襲われた理由だ。


ㅤどうやら俺の黒髪が原因だったようだ。


ㅤなんでも過去に魔物の居ないこの世界に魔物を召喚して町を襲わせたと人間に勘違いされ、魔物には自分たちを虐殺する魔法の使い手と認識された黒髪の人が居るらしい。


ㅤ実際のところはその人は魔物のを召喚したのかどうか、などはわかっていないとのことだ。

ㅤつまり人間には勘違いや思い込みで、魔物には逆恨みで嫌われてしまうという、なんとも可哀想な人である。


ㅤこれがきっかけでこの異世界では各地に魔物が発生した。そして現在、魔物と共に生活ができる今にいたるという。


ㅤへぇ〜だからなのかあ〜。ってことはやばくね?俺完全にいじめられるコースじゃん?


ㅤん、待てよ…?エリオ達はなんで俺と普通に接してくれてるんだ?


ㅤ俺は少し不安に思い、エリオに聞いてみた。


ㅤするとエリオは胸を反らして言った。


「見た目で人を判断したり差別したりしてはいけないってお父様が言ってたもの。それにこの1ヶ月で千尋が危険な人でないことも、危険なことを起こす力がないことも、みんなわかってるから。」


ㅤぐ……なんというか……力がないってのは複雑だな…


ㅤ別に力が欲しいわけじゃないが、エリオに全て任せっきりってのも格好がつかないよなぁ。


ㅤあっ!力で思い出した!俺エリオに魔法教えて貰いたいんだった!


ㅤ出来るかどうかなんてわからない。だが、折角異世界に来たんだ。


ㅤ魔法があり、トースターエッグがあり、魔法の得意なエリオがいる。完璧じゃないか。


ㅤこの世界では魔法で掃除も料理もしてるみたいだし、基本的な魔法とか使えたら家の役に立てるんじゃないか?俺なんて居候の身だし、家の役に立つことしても罰は当たらないしな。


ㅤよし、エリオに魔法を教えてもらおう。

ㅤ今日はいつもにまして機嫌が良さそうだし、チーと言ってカーと返すような流れでOKしてくれるだろう。

ㅤ俺はエリオの方をまっすぐ向き、エリオの顔をしっかりと見つめた。何事もお願いをするときには然るべき態度があるのだ。


ㅤ俺も人間。こういうけじめはつけようではないか。


「エリオ、俺にまh」

「待って!」


ㅤほぇ???どうしたの?


ㅤ折角真面目に言おうとしてたのに出鼻挫かれちまったよ。


「私…そういうのはまだ早いと思うの」


ㅤあ…そうだよな…


ㅤよくよく考えると俺って全裸でやってきて家の物置に住んでる黒髪の男だもんな。


ㅤエリオは正しい。俺でもこんなやつに魔法は教えないだろう。危険かもしれないしな。


「ま、まずはデートからね」


ㅤ……?! なンだってェ???


ㅤどこだ……どこからデートになっちまったんだ…?考えろ、俺よ!考えるんだ! エリオはなぜいきなりデートの話を始めたんだぁぁあぁあっ!?!?


「そもそもデートっていうのはね、お互いの距離感を縮める場なの。二人の男女が手を取り合って、いえ、始めは手を握るのも恥ずかしいかも知れないわね……次に」


ㅤ「エリオ。」


ㅤ話を続けようとするエリオに低めの声をかけた。エリオはびっくりしてこちらをみている。なんか、顔が赤い気がする。


ㅤもしかすると、だ。エリオは勘違いをしている。いつもは「雑魚は帰れ!」とか言って男どもを蹴散らしているエリオが。つーか俺も雑魚だよ?なんで勘違いするの?


ㅤまあいい、俺が言うべきことは一つだ。それに俺には純粋な目的がある、なんにも悪いことはなかろう。


ㅤそれでもだ。


ㅤ勘違いしているエリオに何の気遣いもなく話を突然に戻してエリオに恥をかかせるのも気が引ける。


ㅤあー!大体なんで俺がエリオに告白してるみたいな雰囲気になってるんだよ!俺何にもそんなこと言ってねーよ!


ㅤよし、作戦Kで行こう。エリオの尊厳を守るために!


 Kとはキチガイの略だ。見てろよ?


「エリオ。」

「ん? どうしたの? まだ話のとちゅ」

「アンピュリェェェアァァァッポゥブィィィ!!!」

「え、え? どうしたっていうのよ!?」


ㅤくくく…このまま勢いで話題を変えれば……


「ところで、エリオさん。」

「何よ、千尋。そんな改まって。」

「俺に…魔法を教えて下さい。」


ㅤ……


ㅤ何分経過しただろうか。エリオは動かない。顔が赤いままだ。


ㅤ何故か、そう、俺は失敗したらしい。エリオは自分の勘違いに気づいてしまったのだろう。


ㅤああ…視線が痛い…なんで俺の方じっと見たまま固まるんだよ…俺まで恥ずかしくなるじゃねーか!

「ねぇ、千尋」


ㅤエリオは重い口をとうとう開いた。先程までの赤い顔が嘘のように晴れ晴れとした顔に変わっていた。


ㅤエリオはいつだって優しい。


ㅤ空気が重くて死にそうな俺のことを思って声をかけてくれたのだろう。本当は恥ずかしくて消えてしまいたいくらいだろうにねぇ。


「私の指導は厳しいからね!」


ㅤ恥ずかしさを隠すように大きな声でエリオは言った。


ㅤ大丈夫だエリオ。堕落受験生の俺もやる気になったのだ。厳しくてもできそうになくても諦めたりするもんか。


ㅤ俺は恩を仇で返す男ではない。ママに親孝行はしてやれなかったけどな。


ㅤだからエリオ達家族が俺を救ってくれた恩は死んでも返したい。そのために魔法を学ぶのだ。


「よろしくお願いします!」


ㅤ俺はこうしてエルバークさんにエリオと一緒に魔法を教わることになった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ㅤあー、なんだ。


ㅤ絶対に諦めるか!なんて言ってましたね。そう思っていた時期が私にもありました。なんというか無理な気がしてきた。


ㅤエルバークさん曰く俺は魔力が少ないらしい。魔法の原理をどれだけ深く理解しても魔力がなければ魔法は使えないのだ。


ㅤ詠唱さえすれば誰でも、とまではいかないがある程度感覚を掴めたら魔法は使えるようになるというのだが、どれだけやっても火の玉一つ出来やしない。

「くそっ……俺は…どうしてこんなにダメなんだ……」


ㅤ俺は無力だった。魔法で家事を手伝うのは無理だと嫌でも分かった。


ㅤならば剣だ!剣を学んで魔物共からこの家を守る!


ㅤしかしこの異世界の剣は意識があり、使い手を選ぶらしい。合う合わないは個人差があり、各人が自分に合うものを持っている。


ㅤそこでエルバークさんに俺に合う剣を探してもらった。俺だってもちろん、一生懸命探した。


ㅤしかしどの剣を持っても体に電流が走ったみたいな衝撃が来て手から剣が落ちてしまう。これは剣が拒絶している故に起こる反応だ。俺はどの剣を持っても体に電流が走った。


ㅤどうにも黒髪の呪いは少なからず本当らしい。単なる噂ではなく呪いとしての力があり、それが剣が俺を拒む原因なようだ。エルバークさんは残念そうな顔で俺に謝っていた。


ㅤいやいや、エルバークさんは何にも悪くないぜ?

ㅤそんな俺は家を雑巾掛けしてまわっている。魔法でなくとも恩は返せるのだ。少しずつでも家で手伝えることを増やしていこう。



ㅤそんな日々を過ごしているとエリオが本が沢山ある部屋に連れて行ってくれた。

ㅤ隠し通路があったらしく、その入り口はなんと俺の部屋。そう、物置におかれたベッドの下に梯子があった。


ㅤそういえば場所はあるのに入り口がない、と思って変だな〜と思ってたんだよなぁ。本があるだけなら隠す必要あるのかよ!とかは思わなかった。

「魔法にも色々種類があるのよ」


ㅤエリオは唐突に口を開いた。いつも通りの優しい表情。後ろで結んだ髪が揺れて可愛い。


ㅤだがな、エリオよ。俺はもう魔法は諦めかけてるんだ。半年くらいやったが何の成果も無かったからこうして家の掃除を自力でやってるんじゃないか。


ㅤトゲにならない程度に無理だと仄めかしておこう……これがお互いのためなんだ。


「エリオ……ごめんな。魔力のない俺には魔法は使えないから色んな種類の魔法も俺には使えないさ。」

「そんなこと無いわ。魔法陣という魔力を使わずに魔法を使えるものだってあるんだから。」


ㅤおっ! それは初耳だ。それなら俺にも使えるのかもなぁ。

「へ、へぇ。そりゃすごいな。使い捨ての魔法使用器、みたいなものか」


ㅤ魔法が使える可能性が少しでも増えて俺は嬉しいよ。


ㅤそんなことよりもね、エリオさん?近いの、この部屋意外と狭いの。そ、その胸とか当たってるのですがね。


ㅤ……あ、そうか、エリオはそういうつもりで俺をここに連れて来たのか。魔法が使えず落ち込んでいる俺を慰めてくれようと…


ㅤぐへへ。なら遠慮はいらないかな?


ㅤそんなことを考えているとふと、ある本に目が止まった。それは赤い背表紙に黒い文字で


ㅤ因*持つ*のが****ろ


ㅤところどころかけていたが大体読むことができた。


ㅤおかしい。


ㅤ俺は言葉を聞き取れて話せるが、読むことはできないはずだ。


ㅤ気づいたときにはその本をとっていた。


ㅤ背表紙に書かれていた文字は日本語そのものだったのだ。


ㅤ俺はその本の表紙に書いてある言葉をそのまま口にした。


ㅤ「因子持つもの。永久の時を経て召喚されし宿命。その受けし呪いを宿命に返し、汝に天の恵みを与えん。」


ㅤ体中に力がみなぎるのを感じた。


ㅤ何か、俺の中を知らない力が巡り回っている。


ㅤ気づけば天井が光り輝いており、俺とエリオはそこで倒れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ㅤエルバークさんとトリスさんが駆けつけた音で俺は目が覚めた。そしてエルバークさんは俺を軽々と持ち上げた。


ㅤん?なんだかおかしいぞ。エリオもトリスに抱きかかえられていた。


ㅤっ!?


ㅤエリオは明らかに3歳くらいになっていた。


ㅤそしてその髪は……黒くしなやかに輝いていた。


ㅤ俺もどうやら体が小さくなっているらしい。そんな思考を遮るように体が重く感じられ、俺はまたも意識を手放した。


ㅤこうして、俺とエリオは3歳くらいになってしまった。

もう転移編ではなくなってしまうのか

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