第二十九話-成長and遁走-
今回は短めです。
「ギィィェェェゥルゥァアァァ!」
「っせーな!」
「うるさいのよ!」
こういうのを蹂躙というのだろうか……魔物との戦いとは言え、こいつら言葉が汚いよな……
あ、どうも。いつもの千尋だぜ。
ん? 毎回変な挨拶いらないって? うるせーなっ!!
洞窟の中は魔物が大量にいた。そらもう、うんざりする程に。
いや、初めはね? 魔物弱いねー俺たち強くなってんだねー。とかそんな会話あったよ? たしかにそのときは楽しかったよ?
でもさ、聞けよ。もう5時間ずっとだぜ? 10分間で2,3回は魔物の群れに遭遇するからもう疲れちまったんだよ……
はぁ……本当にだるいな。
それにしても暗い。火の魔法を使おうにも洞窟の中だから危ないから使えない。
目の前がうっすら見える程度の洞窟で足元に気をつけながら進むのは骨が折れる。
「ベック、あそこ何か明るいよ。」
「お、本当だ。おいお前さんたちあそこでちっと休むぞ!」
「やっと休憩だ……」
「疲れたわね……」
リーゼが洞窟の奥の方に何やらうっすら灯りがあるのを発見した。
ベックの「休むぞ」という声に安堵の声がでた。それだけ疲れていたんだろう。
足腰は鍛えられて体力もついたと思ってたがまだまだだな。もっと頑張らねーとな。
夜寝る前とかにクレンシュナ先生直伝の仁王立ちトレーニングをやってるんだが……今度からは時間を増やそう。
仁王立ちトレーニングのついでに気を滑らかに操る練習もできて一石二鳥だし、完璧だ。俺最強の時代もあるかもしれんぞ!
俺達はかすかな灯りを辿ってその原因を見つけた。
「うわ! あっつ! 何ここ!」
「マグマだ! 近づくな!」
そこには真っ赤にとろけた溶岩の海が広がっていた。初めて見る光景に少し心が踊る。
ベックの注意が聞こえた気がしたが、無視。溶岩なんて生で見たことないんだし、あまり近づかなければ大丈夫だろう。
ゴポッ……
ん? いま何か音が……
「ギュルァア″ァァァァッ!」
「おわっ!」
マグマの中から勢いよく大きな何かが襲いかかってきた。しかしその図体に見合った動きのノロさのおかげで、そいつの攻撃は難なく避けることができた。
「千尋! マントルフィッシュだ! 頭をぶっとばせ!」
「オッケェェ!」
俺は気を伸ばし、鞭のようにしならせてマントルフィッシュのエラに叩きつけた。
頭は飛ばなかったものの、エラ部分は断裂して、もはや動く気配はなかった。
「おぉ……何だか、様になってきたな。」
「そ、そうなのかな?」
月光熊や鷹龍との戦いで自分の弱さが分かってしまった。だから強くなるために自分なりに頑張った。
その結果、自分で思うよりも俺は強くなっていた。ってことかな?
まあ、何にせよ油断は禁物だ。
このウスノロのマントル何たらは余裕だったが、地底蠍はこうはいかないたろう。
いざって時にエリオを守れたらいいな。
俺はエリオを見た。頼れる男を見る目でエリオが俺を見ていた。
「千尋はまず、人の言うことを聞かないとね。」
訂正する。エリオは俺を心配する目で見ていた。
ーーーー
「あ、思ったんだけど地底蠍ってどこにいるんだ?」
「もうすぐで遺跡みたいなところがある。」
「そこにいるのね。」
「いや、その遺跡を少し進んだところにあるドームみたいな場所にいるはずだ。奴は地中を移動するからな。」
休憩の間に地底蠍のことを色々聞かせてもらった。
地底蠍は尻尾から水鉄砲のように毒を撒き散らす。その毒は鉄でできた鎧すら一瞬で溶かす。つまり、ほぼ致命傷だな。
そして奴は硬い。俺の下手くそな剣ではほぼ通らないとだろう。普通の剣のフォルムのままならな。
何より厄介なのは地中に潜るってとこだな。見えなくなるのは戦いにくい極まりない。
脳内で綿密なシュミレーションを繰り返……さない。疲れた。
「その遺跡ってここかららどのくらいかかりそう?」
「ああ、あそこに見えてるぞ。」
「ファッ!?」
マグマとは反対側の方向にうっすらと扉が見えた。
「エリオさん、やりなさい。」
「何で先に言わないのよ!」
「俺もさっき気づいたんだっぁぎゃぁっ!」
リーゼの指示によりエリオの脛蹴りが炸裂。ベックは500のダメージを受けた!
うーん、あっちは放っておくとして。あれが遺跡なのか? ただ岩に扉がついてるだけみたいな感じだけど……
百聞は一見にしかず、だ。ちょっくら見てみよう。
一言だけ言わせてくれ。遠近法ってすげぇ。
ちゃっちぃ扉かと思ってたら、高さが4シメール(4m)くらいあった。ハンバーガー40個分くらいだ。
でも建て付けが悪いな。下の方に隙間空いてるぞ。昔に建てられたっぽいからボロくなってんのかな?
中から変な音も聞こえる。洞窟だから小さい音でも響くから怖いんだよな。
カツカツカツカツ……
ほら、この音だよ。なんかの足音かな?
カツカツカツカツカツカツカツカツ
ふぇ!? 音が近くなってね?
カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ
扉の下の隙間から大量の何かが這い出て来た。
小さくて黒い体、1対のハサミに1本の毒針。これはアレだ。絶対アレだ。
「蠍だぁぁぁぁっっっ!!!」
生理的嫌悪に負けて俺は走って逃げる。遁走万歳!
俺は確かに成長している。強くなっているし、エリオとも上手くやれてる。
でもね、これは無理。
こうしてベックとエリオとリーゼの元へと俺は逃げた。
虫が苦手とか俺ってマジ可愛い。




