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第二十八話-超高速仲直り-

少しですが、リーゼ視点が出てきます。


「だから、私は嫌だ! こんな所通りたくないの!」

「リーゼ! ガキみてぇなこと言ってねぇでさっさと」

「行くなら勝手に行きなさい。私はここで待ってるから。」

「だぁーー! 千尋も何とか言ってくれ!」


 はぁ……あ、どうも。千尋だよ。


 時間ってのは流れると速いが、しっかりと積み重なるものなんだね。


 鷹龍を倒してから2ヶ月、俺たちは現在、地底蠍が住む地底へと向かっている。しかし……


 とうとうリーゼが癇癪起こしたよ。まぁ、無理もないんだけどね。


 ベックのせいだ。何度も言うがベックのせいだ。





 ことの始まりは俺がリーゼに回復魔法をかけてもらった日の夜だ。


 回復魔法ってのは素晴らしいもんでさ、くっついたばかりの足が何の後遺症も無くスムーズに動く。


 俺が大歓喜してると、ベックがすんげー興味を持ってきた。足舐められるかと思った。そ、そんな趣味ないよな? 嫌だぞ? 俺はエリオが居るし!


 何するのかなーって思ってたら、ベックがいきなり自分の腕をナイフで切りつけやがった!


 当然、血が飛び散った。


 その日のリーゼの服装は茶色のジャケットの下に白いシャツ、クリーム色のズボンと白っぽい服装だった。


 当然、赤い斑点がついた。それもリーゼはベックの近くにいたから被害がデカイ。


 それらの服はリーゼのお気に入りの服だったらしく、リーゼはかなり怒った。


 しかし、ベックはケロっとしていた。


「今度新しいの買うから許してくれ。そんなことより回復魔法ってやつをやってくれないか?」


 ベックは爆弾を吐いてしまったのだ。「そんなこと」と。


 女の恨みは怖い。この世の何よりも。リーゼの場合も例に漏れなかった。


 その結果、ベックの腕には回復魔法などかけられる訳も無く、包帯が雑に巻かれただけだった。


 リーゼはその日からベックと口を聞かなくなった。


 でもさ、このくらいならすぐに仲直り出来ると思うだろ? それが甘いんだってエリオに言われたよ。


 悪気が全くなく、謝る気すらないのがいけないらしい。謝らないのはいけないよな。うん。


 だから、俺はベックに謝らせた。リーゼと仲直りできた。解決した。


 こんなことが何度もあった。


 その度にベックに頭を下げさせて、リーゼに許させた。


 そんなループもとうとう限界にきたようだ。


 泥水の滴る洞窟を通るのが近道だ、と言ってずんずんと進もうとするベックにリーゼがキレたのだ。


 そういや昨日もベックはリーゼの服を汚して怒られてたっけ。昨日の今日ってやつだな。


 そして、先程の口喧嘩に至ったというわけだ。


 どう考えてもベックが悪い。リーゼは2ヶ月の間よく耐えたと思う。俺はどちらかというとリーゼの味方をしてあげたい。


 だが、それは旅の遅れを意味する。それは俺とエリオとリーゼにとって良くないことだ。


 ベック自体は銀髪で黒髪の呪いなんざ関係がない。それでもベックは嫌な顔一つせず俺たちをここまで導いてくれたのだ。ベックにも恩を感じている。


 さて、どうするべきか。


 考えよう。いま二つの意見が対立している。


 一つは洞窟を通ること。


 もう一つは洞窟を通らないこと。


 洞窟を通る場合にはリーゼという優秀な魔法使いを失う結果になってしまうかもしれない。ベックがリーゼを置いて行くとは思えないが、リーゼは洞窟には入りたくないと言っているからな。


 ベックは早く進みたい。


 リーゼは進みたいが、洞窟には入りたくない。


 ならばどうするか。簡単じゃねぇか。


「洞窟を通らないルートがあるんじゃないの?」


 俺は「ある」という確信を持って、そう聞いてみた。ベックのことだ。どうせまた何か言い忘れてるに違いない。


「あるにはある。」


 そらみろ! リーゼもハッとした顔でベックを睨みつけている。エリオは俺を見ている。今の俺の質問、鋭かったろ? どやぁ……


「だがな……そこは……ダメだ。」


 ん? 何がダメだと言うんだ? 別に道があるならそっちから行けばいいじゃないか。何か理由でもあるのか?


「どうし」

「どうしてよ! 私の服を何枚も何枚も…… ベックが本心で謝ってないのだって知ってるのよ! 千尋に言われたから謝ってるんでしょ! たまには私のことも考え」

「リーゼ、落ち着けって。服の件やその他諸々のことは悪いと思ってる。千尋に言われたからってのもあるが、反省してる。だからこそ、一つ聞かせてくれ。」


 俺の声を遮るリーゼの発狂とも言える心の叫びを、片手で制し、ベックは低い声でリーゼに聞いた。


「コウモリの大群にションベンかけられんのと、泥水が服に当たるのどっちが嫌か?」

「……そ、それは……」


 ションベンをかけられると聞いて、さすがに心が揺れたのか、リーゼは言葉を詰まらせた。


 まずコウモリって時点でキモいのにションベンまでかけられたら……うぉぉ……無理ぃ。


 でも、待てよ。ベックの発言では洞窟に入ることが前提になっている。洞窟を通らずに先に進める道があるかないかを聞いてからでも、リーゼに決断をさせるのは遅くないはずだ。その気になれば何日かここで滞在も出来るんだし、余裕を持って行こう。


「千尋、そいつは無理だ。この洞窟の先に地底蠍がいるんだぜ。どちらかは必ず通らねぇといけねぇ。」


 ふむふむ、地底蠍が住んでる洞窟なのか。そりゃ行かなけりゃならんな。


 ん? 今俺何か喋ったか? もしかしてまた顔に出てた? 俺の顔にどんな長文が書き込まれてんの? ねぇ誰か教えて。


 いや、それはどうでもいい。そんなことよりもベックよ。


「それを先に言えっていつも言ってんだよ!!!」

「それを先に言いなさいよ!!」

「どうしていつもそういうことを最後に言うのよ!!」


 三人の罵声が重なった。


 本当に、ベックのこの癖は治らんな。




ーーーー





 私はリーゼ。女性に年齢を聞くものではないですよ?


 ベックのあのときの言葉はもう何年も前のことなのに、昨日のことように思い出せます。


『お前の黒髪も俺がなんとかしてやるからな。』


 思い出すだけで頬が染まってしまう自分を情けなく思います。「過去に囚われている」そう言われても仕方ありません。


 ですが、ベックは約束通りとはいきませんでしたが、私のもとに戻って来てくれました。


 ハンスさんの優しさで、ベックと千尋とエリオの旅に同行する許可を貰ったときの喜びは忘れません。


 強大な鷹龍を相手に戦う3人を尻目に、待っていることしか出来ない自分を何度責めたことか。もう数えきれません。


 それなのに、私はベックの無神経な行動についつい感情的になってしまい、更には旅の進行を妨げるような駄々までこねてしまいました。


 このまま本当に置いて行かれたら、なんて私は考えてしまいましたが、それはただの杞憂でした。


 ベックは覚えていたのです。私が飛ぶ生き物が苦手なことを。特にコウモリが大の苦手だということを。


 私はベックの成長を実感しました。ただ、あの悪い癖だけは治りませんね。私も言えた口ではありませんが。


 千尋やエリオが私とベックの仲直りのために、ベックを説得してくれていたのは知っています。エリオとは女同士、裏で通じあってますからね。これは秘密です。


 そのときに聞いた話ですが、エリオは千尋とキスをしたとか。それもサンセットをバックに。


 私も……いつか……


 いけないいけない、話がそれてしまいました。


 千尋もエリオも、そしてベックも私のことを考えてくれていました。


 私は回復魔法しか使えません、しかし逆にいうと回復魔法が使えるのです。


 私はこの力を精一杯、彼らのために使う。


 既に寝ているベックの背中に「ありがとう」と心の中で感謝して、私は眠りに落ちました。


 明日は頑張ろう。せめて、皆の迷惑にならないように。


 そう誓ってーー。


 



 


 


 

 


ダブルなリア充を妬む作者。

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