第二十六話-鷹龍-
「あいつが鷹龍さんだ。何度も言うがあの翼には触れちゃあいけないぜ? 触れちまえば俺らはすり身になっちまう。」
「なによ、案外大したことなさそうじゃない!」
こいつら仲いいよな?なんか羨ましい……
あ、どうも。皆元気にしてた? 千尋ですよ。
最近のニュースを伝えよう。エリオとベックがなんかいい感じだ。羨ましいというか、妬ましいというか。
俺のこと好きだったんじゃないの? ねぇねぇ、エリオさん? 俺のこ(ry
あぁ、全部あいつのせいだ。ハンスだ! あいつが布団3つしかよこさねぇからだ!
貰った立場だからなにも言えないけどさ、けどさ! あんまりじゃね!?
見た目がまだまだガキとはいえいずれ大きくなんだろ? そのくらい分かるよなぁ!?
くっそ……そのことは置いておこう。だが、無視できることではない。だから忘れずに置いておくことにした。
「鷹龍の翼が引き起こす風で服が脱げないようにしろよ? 特にリーゼとかな。」
「余計なこと言わなくていいのよ!」
「ベックは最低ね。」
………きぃーーー!!!
まぁ、それはさておき。俺たちは鷹龍の巣を目前に控えている。
まあ、なんというかデカイね。そんなに髪を染めさせたくないのかってくらいデカイ。
鷹龍は鋭い緑の眼をギラつかせてハトみたいに歩いていた。ちょっと可愛いかも?
何よりも翼が綺麗だ。黄色、緑、青、赤、様々な色がそれぞれを活かして翼に溶け込んでいる。日本のクジャクなんて比にならないくらい綺麗だ。
そんな鷹龍を倒すための作戦会議は、リーゼの細かな質問のおかげで、かなり内容の充実したものになった。
リーゼ様、ばんざい。
鷹龍の巻き起こす風が凶悪なのは説明でわかった。その対処はどうするのかを言い忘れたベックに、待ったをかけたのがリーゼだ。
ベックはエリオに脛を蹴られながら俺たちに、爪先に5シメル(cm)程のナイフのようなものがついた靴、そしてかぎ爪がついたロープを渡した。
このかぎ爪ロープはともかく、靴の方はTVで見たことがある。たしか雪山を登るときに使う靴だ。使い方はなんとなく想像がつく。
つーかこんな大事なもの忘れんなよ!
「もし飛ばされたらこのかぎ爪をとにかくモノに向かって投げつけろ。壁でも、地面でも、山肌でも何でもいい。それが出来なきゃ地面に叩きつけられて死亡だ。」
「かぎ爪をどこかに引っ掛けて、飛ばされないようにするのか。」
「さすが千尋だ。」
「……」
「さすが千尋ですね。」
……エリオは反応無し、と。
き、気にしてねぇし! こっちみんな!
それよりさ、かぎ爪が引っかかっても地面に叩きつけられるくない? それはどうなんだろ。
「かぎ爪がどこかに引っ掛かったとしても、結局は地面に当たって強い衝撃を受けると思んだけど…」
「そこは頑張るしかない。飛ばされるよりマシだ。」
根性を使え! だとさ! やってやんよ!
「でもな、飛ばされてその辺に落ちるだけならまだマシだ。」
ここの標高は結構高い。ちょっと酸素が薄い気がする。だが高山病のような症状が誰にも出ていないところをみると、そこまで高くはないと想像できる。
だが、高いものは高い。落ちるほうがマシ、なんて言えないくらいに。ベックは何が言いたいんだ?
「俺らなんて落ちてる途中に食われて丸飲みよ。空中では圧倒的に奴の方が有利だからな。」
あぁ……なるほどね。
生きたまま食われるなんで死んでも嫌だな。
ーーーー
というわけで、俺たちは体にレモンの汁をぶっかけた。
目に入ったらマジで痛いから皆がやるときは気をつけろよな。
これで鷹龍との戦いに専念できる。ベックはたまにはいいことをする。たまには。
フォーメーションも既に決めてある。リーゼが決めておいた方がいいって言ってたしな。
リーゼ様、ばんざい。
今回は俺が右、ベックが左、エリオが少し後ろ。トライアングる感じで並んでみた。どやぁ……
リーゼは戦えないからエリオの後ろだ。何かあったら治癒魔法をかけてくれるらしい。治癒魔法……興味が……グヘヘ。
作戦としては遠距離からどんどん攻撃して弱らせて、一撃を叩き込むって流れだ。一撃を叩き込むのはエリオだ。
エリオは俺の知らぬ間に「流聖」なる魔法を修得していたのだ。も、もしかしてベックとの秘密の特訓で……
いや! そんなことはない。エリオが頑張った。エリオが魔法覚えた。それでいい。
「神の裁き(ホーリーフラッシュ)」の方が呪文的には強いらしいが、1点狙いでの攻撃力は「流聖」のほうが強いとのことだ。
驚くことはそれだけではない。エリオは「流聖」を無詠唱で放てるというのだ。だが、タイミングが分からないと困るので、使う呪文の名前だけは言ってもらうことにした。
無詠唱は特殊な技術だ、とベックが言っていた。何故そんなことができるのかは説明が出来ないらしい。腕をどうやって動かしてるか説明できないみたいな感じだな。
一撃を叩き込むのがエリオなのは、魔法のほうが安全な距離から狙えるからだ。
俺には魔法は無理だ。火とか水くらいなら、気法でちょっとは出せるけどね。土はやり方忘れました。てへへ!
鷹龍との戦闘は予定通りに始まる。
「ようし、いっちょやるぞ!」
ベックが一瞬でその場から居なくなり、遠目に見える鷹龍が翼をバタつかせた。
初撃はキマったらしい。不意打ちだしな。
俺も黒剣を横に構えて鷹龍に突進する。
鷹龍は少し動いただけで俺を回避し、おろし金のような翼を振り動かす。
その翼を一つの光の筋が貫通した。
翼から綺麗な羽が何枚か吹き飛んだ。
少し遅れて「流聖」という声が聞こえた。声が呪文に間に合ってない。凄まじい速度で魔法が発動されているんだろう。
「こっち忘れてんじゃねえよ!」
ベックが鷹龍の脚を蹴ってへし折った。
「ギィィルゥゥウアァァアァッ!!」
初めて聞いた鷹龍の声はガラスを引っ掻いたような不快な音だった。
(………の法……たりよう………)
? いま何か聞こえたような……
ヒュゴォォォォオッ!!
囁くような声が聞こえたのと同時に凄まじい風圧が襲いかかってきた。
鷹龍は折れた脚を庇うように飛び、翼を激しく動かして風を巻き起こしていた。
「くっ……おらっ!」
ベックは吹き飛ばされながらも腰につけていたかぎ爪を地面に投げつけた。
かぎ爪が地面に突き刺さり、それについていたロープがピンと張ったところで、ベックは地面に叩きつけられていた。
もちろん俺もかぎ爪を投げていた。
地面に刺さりはしなかったが、大きな岩に引っかかって、俺の体は張り詰めたロープ引っ張られ、岩に叩きつけられた。
が、気のバリアを体の前に張り、衝撃はほぼ無いものとなった。
俺はともかくエリオは大丈夫か?
エリオは鷹龍より遠くにいたため、何とか踏ん張れていた。あの様子だと吹き飛ばされることは無いだろう。
風圧に耐えている俺たちを見て、これ以上は意味がないと悟ったのか鷹龍は行動を変えた。
凄まじい速度の急降下。キィィィンと空気を切るような音が俺に近づいた。
俺は体の横に衝撃波を出して即座に回避した。
「ぐぅぁぁあぁっ!!」
逃げきれなかった右脚が鷹龍に潰されてそのまま千切れた。
熱い。
焼けるような痛みが脊髄を介して脳に伝わってくる。
鷹龍の追撃は止まらない。
俺をすり身にしようとおろし金の如き翼を振り下ろした。
その翼をベックが素手で横から殴りつけた。
槍のように尖った気がベックの拳の先に見えた。
その見た目通りの鋭さで鷹龍の翼に風穴が空き、そこから光の粒子のようなものが吹き出した。ベックの指が何本か千切れて空を待っているのも見えた。
(使……は………のうちに……)
まただ。また声が……
俺はすんでのところでベックに助けられたようだ。月光熊のときもこんな感じだったような……
「神の裁き(ホーリーフラッシュ)!」
いつの間にやらエリオが鷹龍との間合いを詰めて、ホーリーフラッシュをよろめく鷹龍の目の前でぶっ放した。
視界を覆い尽くす程の光で片方の翼を、心臓部と見られる部分ごと失った鷹龍はその場に轟音とともに倒れた。
倒した……のか? エリオの魔法強すぎだろ……。マジで一撃じゃん……。
「リーゼ! ぼさっとしてねぇでこっちに来てくれ!」
ベックが大声でリーゼを呼び寄せた。
あ……そういえば………
脚が千切れたことに気がついてからすぐに焼けるような痛みがまた俺を襲った。
熱い! 熱い!! 全身が熱い!
青い顔で駆け寄ってきたリーゼは俺の脚に手を当てた。激痛に意識を支配される中、それだけがわかった。
リーゼが何かを呟いたその瞬間のことだった。
ギィィ……ルゥゥァアァッ……!!
イタチの最後っ屁、というべきか。
凄まじい風圧が俺たちを襲った。
鷹龍が片方の翼を強引に振りまくって剛風を起こし、力尽きたように倒れた。
かぎ爪を…….
体が言うことを聞かない。激痛に耐えることで精一杯だった。
「千尋っ!!」
俺は聞き慣れた声に反応することも出来ず、押し寄せる大気の塊に無抵抗に流された。
昇りきっていない太陽が照らす空の中。
鷹龍の巣から。
俺は落ちた。
千尋は毎回助けられてますね。
次回もお楽しみに!
(今回から次回の内容を書くのをやめました。)




