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第二十三話-元凶-

 ということで一つ目の素材、月光熊のハラワタをゲットした。


 素材つっても……なんか……かなり汚い、普通に生ゴミに見える。しかも血まみれ。グロ耐性はついたけど生臭いのはやっぱりあかん。


 お前らはアレだろ? ゲームとかでさ、○○の皮を手に入れた! とかいって喜んでるんだろ?


 実際に生でそれを見てみろよ。絶対喜べないと思うぞ。だって臭いし重いしかさばるし、ほんとネックなんだからな。


 月光熊から取れた大量のハラワタを全部持っていけるわけが無かったから、ベックが3人分とといって取ったもの以外は燃やした。


 途中で木に火が移って慌てて水をぶっかけたのもいい思い出……です、ハイ。


 というか何で3人分なんだろうな。俺たち以外にもう一人黒髪が居るとかか? 気になる。すげー気になる。


 よし、俺も男だ。男は探究心及び好奇心によって動くものだ。俺もそうさせてもらおうではないか。何が悪いというんだ、何も悪くないだろう?


「先輩! どうして3人分なんですか?」

「そりゃあ、3人分じゃねぇとかさばるからだ。」

「では前に月光熊を倒したときに取ったのも3人分なんですか?」

「おう、俺は3って数字が好きだからな。」


 ふむ、ということはなんだ。少し気になることが増えてしまった。逆効果だったようだ。


 ん? 何のことかわからないって顔だな? クックック……教えてやんよ。特別にな!


 俺たちの替え玉の死体の髪色を変えるために使ったのは2人分だったろ? それが最後で無くなったってベックは言ったんだぜ?


 つまり、俺が言いたいことはもうわかるな?


 あと1人分は誰に使ったのかってことだよ。


 聞くべきか……いや、意識的に秘密にしていたらどうする。もしそれに気づいたらベックに始末される、とか笑えねぇぞ。


 んなことになったら最終回になっちまうじゃねーか。ん? 何の話かって? 細かいことは気にするな!


「お前さん……本当にわかりやすいよな。今度は何を聞きてぇんだ?」


 アッ……ばれてた! えへへ!!


「じ、じゃあ……聞きます。前に取ったときの3人分の染料を使ったのは……もう一人は誰なんですか?」

「……お前さんは本当に考えれるやつだな。」


 森を抜けるために移動していたベックはフッと力無く微笑み荷物を置いた。な、なんだ? や、やろうってのか!? お、俺にはエリオが付いてんだからな!


「なに、別に隠そうとしてたわけじゃねぇんだ。言い出すタイミングが掴めなくてな。」


 おっと、また顔にでていたらしい。この分だと俺って喋らなくても会話出来るんじゃね? さすがは俺だな! 久しぶりに自分を見直したぜ!


「俺はレイブン王国で生まれた黒髪だったんだよ。家族には先祖帰りだって言われてたぜ。」


 ふむふむ、だから黒髪の俺たちを見ても捕まえたり殺したりせずに優しく接してくれたのか。……いままで疑ってて悪かったよ。


「最初は家族に守られてたよ、俺はこうみえても長男だしな。外に出さなければ問題はない、と言って俺を完全に世間から隠した。生まれたことも報告していない。だが俺が10歳になった頃になってレイブン王国に噂が流れ始めた。黒髪を匿う家族が居る、とな。」

「それで……ベックはどうなっちゃったのよ。」

「1年は家族で必死に隠せた。俺も黒髪がどういう扱いをされるか知っていたから、必死に存在を隠した。ある日、王国の兵士が強制的に家を捜索した。王国の決定で全ての家の捜索が行われたんだ。」

「じゃ、じゃあ……」

「あぁ、俺は見つかった。殺されると思ったよ。だが母親は強かった。兵士を1人殴り倒して俺に1冊の渡して王国の外に逃がしてくれた。」

「……何の本ですか?」

「これだ。黒髪の先祖様が書いた本だとよ。これに気法のことや黒髪を他の色に染める方法が載ってんだ。裏表紙に著者名が書いてあるんだが……俺には読めねぇ字で書かれてた。」

「それはどれですか?」


 何か嫌な予感がする。ベックの先祖に黒髪が居るって時点で何かがおかしいと思った。


 俺がこの世界にきてからというものの、黒っぽい髪は見たことが全くない。よくて明るめの茶髪だ。どちらかといえば金髪に近い方だった。


 つまり黒髪の遺伝なんてハナっからこの世界には無いはずなんだ。それなのに黒髪の変な噂があったり……うーん。


「著者名はこれだ。なんかよくわかんねぇが多分これだ。他の本もたいていここに著者名書いてるからな。」

「どれどれ、著者名は………」


著者名 ーー ーー


 そこには俺にしか読めない言語が書かれていた。そしてその文字で書かれていたのは………


 母親の名前だった。





ーーーー




 あれからどのくらい歩いただろうか。森を抜けてもう3日は経っている。


 あの本を書いたのが母親であるのは間違いない。事実がそう物語っている。しかし受け入れられない。ただでさえ非現実な世界だ、そんな世界での非現実を誰がどうやって受け入れられるというんだ。


 いや、頭では分かっている。これは母親もこちらに転移してしまったことの証拠だ、と。そして転移したのは今よりかなり昔の時代だ。黒髪の噂は母親のことだろう。


 エリオの家で聞いたのがママの噂がだったなんてな……


 それならば黒髪の噂は人間の勘違いと魔物の逆恨みだ、というのにはうなづける。ママはそんな恨まれるようなことをする人間では無いからだ。


「千尋! 本当に何があったのよ! いい加減言ってくれてもいいじゃない!」


 エリオにもベックにもまだ何も言っていない。言って何になるというのだ。自分の母親のせいで、と謝るのか? それとも自分の母親のおかげで、と言うのか?


 そんなのどちらも無意味だ。もうママは居ない。どうにか日本に帰れてママに会える、とかそんな甘い現実ではなかったようだ。トコトンこの世界は俺に厳しい。やんなっちゃうよ、もう。


 でも俺ももうすぐ18歳だ。見た目は6歳くらいだろうか、この体は成長が早い。毎日森を走り回っていたおかげで足腰もしっかりしている。ジ○イアンくらいなら1発で倒せる自信がある。


 と、話はそれたが俺は大人になったってことだ。俺がウダウダしてるせいで周りに迷惑をかけるわけにはいかない。ちゃんと話そう、二人に。


「先輩も聞いてください。話があります。」


 俺はこの世界にきてからのことを全部話した。


 全裸で異世界に落ちたこと。エリオに助けられたこと。母親らしき人影を追って死にかけたこと。変な魔法にエリオを巻き込んでしまったこと。入学試験のこと。学校でのこと。クレンシュナ先生のこと。


 そしてベックが持っていた本の著者が俺の母親であること。おそらく黒髪の噂の元凶であること。


 最初の話はエリオも思い出したかのようにクスクスと笑いながら聞いていた。だが、本の著者が母親であることを明かすと二人は息を飲んだ。


 全て話したら急に肩が軽くなった。今まで抱えてた悩みを放出した感じだ。軽くなりすぎて脱臼してしまいそうだ。脱臼した。ベックになおしてもらった。


 しばらく続いた沈黙を破り、ベックが口を開いた。


「じゃあよ、お前さん……これなんだか分かるか?多分気法の一種なんだが……」


【チヨエロ寸】

 地球に転移できる。

 時間移動はできない。過ぎた分の時間はあちらでも進んでいると考えなさい。

 

「……何だこりゃ。文字は読めますが……言うのはやめておきます。また何か起こったら怖いので……」

「それが賢明だな。それでこいつはどういうものなんだ?」

「地球といって俺が元いた世界に戻れるよう呪文のようです。原理が書いてますが長いので読むのは落ち着いてからにします。」

「え? 千尋その呪文で帰れるんじゃないの? どうして使わないのよ。もったいないじゃない。」

「お前さんが元いた世界に帰れるんだったらそれにこしたことはねぇだろう? もしかしたらお前さんの母親も地球に帰って待ってるかも知れんぞ?」


 いや、ママが待っている可能性はない。時間移動はできないと書いていた。つまりこちらに転移した時間がかなりずれている時点でママにはもう会えないんだ。


 元の世界に帰れる。魅力的だ。変な魔物に襲われることは無くなるし、トイレは水洗だ。黒髪の差別なんてものもない。


 俺は今にでも帰りたい。こんなにも地球が恋しいと思うのは初めてだ。学校ですら行きたくなってきた。


 でもな、俺にはまだこの世界でやらなきゃならないことがあるんだよ。


「帰りません。ここで呪文を唱えて二人を巻き込んだりしてしまっては大変ですから。」

「じゃあ、あっちのほうでやってきなさいよ!」

「おう、離れてたら大丈夫だろ。あっちで唱えてみろって。」


 ……こいつら。興味本位じゃないだろうな? 僕ちゃん怒っちゃうよ?


「まだこの世界でやることがあるんだ。」


 真剣な顔をしてみた。フッ、今の俺は最高にクール。


「な、何よ。急に変な顔して……」


 ……泣いていい? だめ?


「エリオを守るってエルバークさんと約束してるから。黒髪のこともある。それに俺はまだエリオと一緒に居たいんだ。」


 キリッ。言ってやったぜ。


「ハッハッハ、決めるねぇ!」と笑うベック。


 エリオは動きやすいように、とベックが買ってきた短パンの裾を握りしめて、顔を真っ赤にしている。可愛い。


 勢い余ってホーリーフラッシュを無詠唱で出されたら死んじゃうからフォローをいれておこうかな。さて、何て言おうかな。


「ほ、本当に?」


 真っ赤なお顔のエリオさんが俺を睨むように聞いてきた。マイハニー、殴らないでね。


「本当に。」


 ウホッ! 何かいい展開だね! ベックが笑っててウザいけど今最高の気分だぜ。これはアレか!? エリオがついにデレなのか!?


「じ、じゃあ仕方ないわね!」


 エリオはそういいながらどこかホッとした顔をしていた。そして俺はようやく気がついた。


 エリオは不安だったのだ。俺に帰ればいいと言ったのは「帰って欲しくない」の合図だったのだ。


 言い方を変えてみよう。そうすればもっとわかりやすいはずだ。


「もう帰るの?」


 そう、これこそがさっきのエリオの言葉の本意だ。もっと女心を理解しなきゃな。


 まぁ、何はともあれ最近の悩みは飛んだ。うん、ぶっ飛んだ。


 こうして俺とエリオは少し大人の階段を上りましたとさ。




 じゃなくて、3人で山を登って森を抜けた。そして目の前には3,4つ程テントがあった。


「先輩、あれは何ですか?」

「旅商人ってやつだ。ちっと色々買うもんがあってな。」

「じゃああの山を越えたのは……」

「おう、こいつらのキャンプにあわせて、だ。」


 こいつは目的や大切なことを後になって言うくせがついてやがる。森を抜けて周りがみえたときに登った山の高さを見てキレそうだったのに。他の低い山を越えた方が明らかに楽だろってな。


 まあ、いい。過ぎたことだ。もう登っちまったんだからいい。


 が、エリオは気にするらしく、ベックの脛を蹴りあげていた。


 ベックの叫びを無視して、俺はエリオにフードをかぶるように言った。俺もフードをかぶる。うん、俺、似合う。


 もう夕方だ。空は紅い。この世界の夕日も美しい。そしてベックの脛は青い。


 こうして俺たちは旅商人のキャンプへと足を進めた。






 



千尋の母親もこの世界に転移して色々と残したようです。


ところで【チヨエロ寸】とは何かわかるでしょうか。多分…すぐにばれちゃったかな。


次回は次の素材の場所へ向かいます。


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