第二話 -エリオとの出会い-
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内容はそのままに文書をかなり変更しました。
一度読んだ方も是非また読んでみてください。
私はエリオ。今年で15歳になったばかりの女の子。カレラ帝国に住んでいる。
それより……何……? あれ……
それはある日の朝のことだった。
あの空が気になる。明らかにおかしい。まるで生き物。真っ黒な雲が渦を巻こうとうねうねと動いている。
ま、まるでムカデのような…おぇ…
私だって人間、ひいては女の子。私くらいの年の女の子があんなものを震え上がって撒き散らすに違いないわ。え? 何をって? そのくらい考えなさい。
だが、私はその辺の女の子よりだてに15年生きてきてない。カレラ帝国の聖騎士団団長のお父様に毎日厳しく鍛えられて育ってきた。
その甲斐あってか街中でご機嫌斜めな連中に絡まれることは全くなかった。
いや、一度だけあったがあのときにぶちのめしてやってから全く関わられなくなった。まぁ、いいんだけどね。
勘違いされたら困るけど、別に町で怯えられてるってわけじゃないよ? 私のチャーミングな笑顔に野菜屋のおじちゃんも、肉屋のおっちゃんも、豆腐屋のおばちゃんも、みーんな釘付け。
ワザとやってるってわけじゃないけど、町では中々評判がいいってこと。
まぁ、私のことはどうでもいいの。
あの空のヤバさはどう表したらいいかしら…うーん。お湯入れて三分経ちそうなときに耐え難い排泄衝動にかられたときくらいヤバいわね。
とにかくこんなの見たことない。こういうときはまずはお母様に相談って決めてるの。
お母様はいつでも私のことを考えてくれる。とっても優しくて大好き。お母様ならきっと解決してくれる。そんな期待を抱いて私は聞いてみた。
「お母様! 大変なの、あの空見て! ほら! あれなんだか分かる!? あの真っ黒で渦巻いてるやつ!」
お母様は何事かと空を見上げていた。しかし、少しすると心配そうな顔をした。何かまずいことなんだろうか。不安が背中をなぞる。
「エリオ、おでこ出してごらんなさい。………熱はないわね…とにかく疲れてるみたいだから寝なさい。空には何にもなかったわ。」
……えっ?
あんな禍々しいものが見えないなんてお母様もしかしてやばい? アレが来ちゃったのかなぁ…更年期とかいうやつ…
お母様が嘘つくわけないし……お母様にあれが見えないのは本当だと思う。なら…お父様に…
お父様はいつも私にいいところを見せようとしてるけど、私がいないところではへにゃーっとしてることが多い。
私がいるといないでかなり態度が変わるけど、少なくとも私がいるときのお父様はかっこいい。頼れるはず。
「お、お父様! 空を見て! あの真っ黒の渦は何!?」
「ぅわっ! エ、エリオか!」
背後から急に声をかけたときのお父様は慌てふためいて少し可愛い。お父様は空を見上げるとキリっとした顔で私に向きなおした。
「エリオ、何も見えない。だがお父様が絶対に守すてやむ、守ってらふ。守ってやる!」
まぁ、よく噛むお父様だこと。
ㅤ けっ! 何にも見えないならこれ以上はいいわね。
「ううん、大丈夫。ありがとう、お父様。」
私は手を振ってその場を立ち去った。
ーーーー
まだお婆ちゃんがいるけど訳あってお婆ちゃんは役に立たない。あ、ピンピンしてるよ。訳があるの、恥ずかしいからあんまり言えないけど。
ということで私、見てまいります! 百聞は一見に如かず。人と話すより自分で見た方が早いよってやつね。
あの空は今もなお、渦巻いている。何かを真ん中に連れて来てるみたいな感じね。
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空の渦の中心の真下付近にやってきた。森の広場だ。いつもは鳥の声が止まないはずなのに恐ろしいほど静かだ。そしてあの雲の影響かかなり暗い。まるで夜ね。
…もうすこしこっちかしら。
とにかく真ん中だ! と思って雲とにらめっこをしながら愛馬ネッシーを動かしまわす。
しばらく真ん中に行くために動き回っていると雲が急に厚みを増してきた。
そして、【空が落ちてきた】
ゴオォォォオオッ!
凄まじい爆風。質量を伴っているかのように風が体を吹き飛ばす。
「ギャァアアアッ!」
思ったよりもおっさんみたいな声が出てしまった。ネッシーは森の方へ吹き飛んでしまった。死なないで…フリじゃないからね! 本当だからね!
風が止み、地面に叩きつけられた。うぅ、痛い。背中を打ったよう。
痛みに耐えて立ち上がると空はいつの間にか快晴だった。鳥のさえずり、いつもの森になる。
あの雲の真ん中だったであろう場所に変な人が立っていた。あの髪色は……
「異世界だああぁぉぁぁぁ!」
っ!!
そいつは知らない言語を叫び散らした。声的に男かもしれない。いや、さっき私もおっさんみたいな声でたし…うーん。
そいつがこちらを振り返った。
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そこからの記憶が私にはあんまり無い。
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うっす、俺、千尋。転移したてホヤホヤのナイスガイだ。俺は只今少し困惑している。
お、おい! 落ち着いて聞いてくれよ! 俺も何があったかはよくわからん! だけど聞いてくれ!
俺は無罪だ!
今、俺は全裸で、目の前に気絶した女の子がいるけど俺は無罪だ! 信じてくれ! まだ俺もムスコも何にもしちゃいねぇ! Dの意思に忠実だ!
でさ、でさ! それより聞いてくれ! この女の子…剣持ってるのよ…マジで何者?
んで、ちょっと時間が経ってやってきた馬っぽいの、首元にプレート付いてたからチラッと見てみたらこれまた不思議。全く見たことない文字が書かれてた。もしかしてこの女の子ひどい厨二なんじゃ……
とにかく、やばい。この子が起きたらそのままスパーンといかれるかもしれん。服、誰か服くれ! 女の子じゃなくて服!
「ん……ぅ…」
わーー!!! 起きかけてるって!さどうする!? 露出癖を習得するか!? いやいや、習得したところでどうなるっての!? 死ぬだけだって!
とにかく見せちゃいけないものはどの世界でも同じはずだ。俺は匍匐前進の形に体制を変えた。
これで名前を言ってはいけないあのお方は見えなくなったはずだ。尻を見せて○頭を隠す。なんちって。
「hgi!!…lgskpaugw…?」
ふおぉー!! やっぱり! 訳がわからん! 絶対に誤解は解けんな! 死を覚悟しよう。
とにかく、出来るだけ誠実に。最後が疑問系っぽかったから何か返事をするべきだろう。格好がこんなもんだからとにかく敵意を向けられないように。言葉が通じなくても何とかなるはずだ。
「ち、千尋と申します。こんな格好で失礼します。えー、日本から来ました。殺さないでくだひゃい。」
「……uinslg.yevks」
先程より穏やかな声が聞こえた。
おぉ…なんて言うんだろ。色の名前知らねーけど青に緑を少し混ぜたって感じ? そんな色を全体的に淡くしたような綺麗な髪色。水:絵の具=4:6みたいな透明感がある感じ。
明らかに人間の髪色じゃないな。目も…端的にいえば緑色、でも薄い感じ。
おっと、顔ばっかり見てたら露骨に嫌そうな顔されちまった。
ん? 馬? 乗るの? いやいや、俺の格好見てくれ! 裸だって! 全裸で馬に乗るなんてやばい人じゃん! 勘弁してくれよ!
と、思っていたらなんか布くれた。ハンカチ…? こ、これで隠せって!?!? こいつ、鬼畜か!!
これで十分でしょ、と言わんばかりの表情をされた。とりあえず俺はこの子の保護欲のようなものに救われた気がする。
行くあても服も無い俺はとりあえず彼女に任せることにした。言葉もわかんねーし、服もねーし。このままだと社会的にも死にそうだったから助かった。
男女二人が昇る太陽をバックに乗馬。
馬を引く女の子の腰には剣。
少し不安はあるけど、なるようになるさ。こんな可愛い子に助けてもらえるのも、なるとかなるってことを表しているようにも感じる。
そう思って俺はハンカチで隠す股間のポジションをこっそり変えた。馬の振動で潰れて死にそうだったもん。
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読んで下さった方ありがとうございます。